お見合い結婚します―お断りしたはずですが?

登夢

第1話 なじみの奈菜の引退!

心地よい疲労を感じて僕は奈菜ななを抱きながらまどろんでいる。このひと時が、今が一番良いと思える時だ。


奈菜には初めて入った時から2年ばかり、月1回は通っている。前の店を1年前に替わってからも続いている。


彼女はもう若くはない。歳を聞いたことはないが30歳少し前くらいだと思っている。長い髪のとても綺麗な娘だ。こんな娘はうちの会社にもいない。


ここにいる娘は皆影があるが、どうしてか皆優しい。割り切れているのだろう。ときどき浮気をしたことがあったがそう思った。


彼女は感じてはいるのだろう。いつもすごく濡れているが、今まで一度もいったことはなかったように思う。それなのにどうして僕が2年も通っていたのか、よく分からない。


ただ、すごく綺麗だったし、彼女と話していると気が休まって穏やかな気持ちになれた。まあ、癒されるとはそういうことかもしれない。


僕が勝手に話す愚痴もよく聞いてくれた。彼女なりの意見も言ってくれた。頭の良さと教養を感じていた。だからだろう。


「もう時間だわ」


「とても幸せな時間を過ごさせてもらった。ありがとう」


「こちらこそ、長い間、来てくれてありがとう。ここは3月いっぱいで辞めることにしました」


「えっ、店を替わるの?」


「いえ、足を洗って故郷へ帰ります」


「故郷へ帰ってどうするの?」


「親が結婚を勧めるのです。それもいいかなと思って。そう思うのも歳のせいかもしれません。もう若くはありませんから」


そうかもしれない。もっと若い娘はいっぱいいる。


「それが良いかもしれないね。この仕事をいつまでも続ける訳にもいかないからね。ありがとう、お世話になりました」


良い娘だった。歳は2歳から5歳くらい下かもしれない。普通の娘だったら嫁にしたいと思える娘だった。綺麗だし、優しいし、癒される。頭も悪くない。僕の話していることの本質が分かっていて、受け答えをしてくれていた。どこか違うところで出会っていたらと思うが、それがめぐり合いというか定めだ。どうしようもない。


僕ももう31歳になった。故郷の両親は早く身を固めろとうるさく言ってきている。とはいうものの、今の自由気儘な生活には満足している。給料はすべて思いのままだ。でも無駄遣いはしないから貯金もそこそこある。自分の時間を自由に使えて来たい時にここへも来られる。


今の生活は快適だ。駅から歩いて7分のオール電化のワンルームマンションを借りている。会社が家賃の1/3を出してくれている。駅前にはレストランが何軒かある。コンビニに行けば弁当もあるから、食事の心配もない。お風呂はボタン一つで入れる。洗濯も乾燥機付きだから夜入れておけば朝には仕上がっている。掃除と言っても狭い部屋だし、それに僕は綺麗好きだから苦にならない。衣食住に何ひとつ不自由はない。


会社に年頃の女子がいない訳ではないが、社内の娘と付き合うとめんどうが多いと思って避けている。合コンに誘われることもあるが、このごろは断ることが多くなった。合コンももう飽きた。なかなか僕に合った娘が見つからない。気に入る相手を探すのが面倒になってきている。


だから、欲求だけを満たせるここに通っている。それに奈菜のような良い娘もいる。月1回のデートで付かず離れずの関係を保っているセフレと同じような付き合いだ。


でも奈菜がいなくなるとまた新しい娘を探すのも億劫になっている。見つけるまでには結構お金と時間がかかるからだ。もう、そういうことが億劫になる年齢に達しているのか、こういうことの限界を感じているからなのかは分からない。

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