第12話 解決
アデリーが鉄格子の鍵を開けて中に入ってくる。俺は動ける状態なんだけどそこは気にしてないのかな……。やっぱり首につけた道具が行動を阻害するタイプなんだろうか。鉄格子の中で座り込みながらアデリーを見上げる。
「どうしてココルさんを殺したんですか……?」
「そんなに気になるの?」
「はい……。すごく知りたいです」
もうアデリーが犯人で確定でいいと思うけど、できるだけ動機やココルさんの遺体の行方も聞きださないといけない。あとは衛兵に任せてもいいと思うけど、なんとなくね……。
「それはもちろん、小さくて可愛いからよ」
はぁ? 意味が分かりませんが。そんなことでココルさんが殺された? 可愛いから? もしかしてアデリーは、自分より可愛い人間が許せない人種とかそういうやつなのか?
「それもウェルネス様のものになる前のほうがいいわね」
無言でいるとアデリーが恍惚の表情で勝手に続きを話してくれる。懐にそっと手を忍ばせると、刃渡り15センチほどもある武骨なナイフが出てくる。
「ほら、食べ物もそうだけど、新鮮な方がいいじゃない? これで突き刺してあげるといい声で鳴くのよね……」
うわああぁぁぁ……、アデリーってこんな人だったんだ……。
もうドン引きである。優しそうなんて思った自分を殴ってやりたい。これならねっとりとした視線をくれたウェルネス様の方がマシじゃねぇか。
「ココルさんはどこですか」
会ったことのないココルさんではあるが、不憫でならない。こんな快楽殺人者に殺されたなんて。いつでも動けるように身体強化の魔術を発動しながら、怒りを込めてアデリーに問いかける。
「……もういいじゃない、終わったことは。次はあなたの番なんだから」
右手でしっかりとナイフを握りしめ、左手をゆっくりと伸ばしてくる。
ここは油断している間に一気に制圧すべきかな。
四肢に力を入れて立ち上がると同時に伸びてくる左手掴んで引き寄せる。前のめりになって倒れ込むところを狙い、右手首を手刀で打ち付けて持っているナイフを弾き飛ばす。
「ぐっ!?」
そのまま地面へとうつぶせに叩きつけると、掴んだままの左腕を背中側へと回して取り押さえた。
「な、なんで動けるの!?」
くぐもった声で驚愕の言葉が漏れる。
「なんででしょうね?」
なんでと言われても俺もよくわからない。首に装着された道具の正体がわからないんだから。むしろこっちが教えて欲しいくらいだ。
「それは麻痺の首輪ですよ!? 装着されれば丸一日は身動きが取れなくなるはずなのに……!」
へぇ、麻痺の首輪なんだ。説明ありがとう。……でもなんで効果ないんだろうね? 俺がホムンクルスだから?
「実際に効果がないんだからしょうがないじゃないですか。あなたは犯罪者として捕らえられる。それでお終いですよ」
「あなた……、ただのメイドじゃないでしょう。……何者なの?」
なんとか首をひねりながらも疑惑の表情を向けてくるアデリー。
「どこにでもいる、ただのメイドですよ?」
できるだけ諜報部隊とバラすわけにはいかないので、あくまでメイドと通すのみだ。
「そんなわけないでしょう……!」
静かに怒りをたぎらせるが、俺に取り押さえられたままのアデリーは何もすることができない。
「それよりも、もう一度聞きます。……ココルさんはどこですか?」
話をスルーされたアデリーが睨みつけてくるが、主導権を持っているのはこっちだ。どうせ遺体も見つけないといけないし、聞くだけならタダだ。
「……ふん。……庭の隅に埋めたわ」
「そうですか……」
思ったよりあっさりとしゃべってくれた。さすがにこの状況では諦めてくれたんだろうか。ファンタジーでありがちな『命の安い世界』に、この世界も該当する。凶悪犯ともなれば生死は問わないのが一般的だ。……さすがに自分の命は惜しいということか。
あとは衛兵へ伝えて捕まえてもらえば俺の仕事は完了かな。まさかこんなに早く終わるとは思ってなかったけど、これからの仕事も楽だとは思わないように気を付けよう。
おっと……、今も気を抜かないように気を付けないと。
「では衛兵に連絡してきますので、大人しくしていてくださいね」
言葉と共に意識を集中させると、
「あぐっ!?」
電撃に加え、手足の筋肉を弛緩させるダブル効果のある魔術である。相手を動けなくすることに特化した魔術だけあって、そう簡単に防げるものでもない。あっさりと意識を失ったことを確認すると、俺はそっと屋敷を抜け出して衛兵の詰め所へと向かった。
その日の夜は屋敷中が一気に騒がしくなった。王都の自宅で問題を起こした当主は顔面を蒼白にし、長男は呆然とした表情だ。ココルさん一家は平民とのことだが、被害者からの訴えを中途半端に無視した結果招いた事態でもある。きちんと対応していれば俺の出番もなかっただろうに、ちょっと対応がザルすぎじゃないかと思った一日だった。
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