第57話 御対面?(19)
そう、拍と一緒で籍へと泣きつき。愛する殿方に庇ってもらうしか手が無いというか?
自然とそうなる訳だからさぁ。
覇王項羽は、自身の俯いた顔を上げながら。
「籍~。この女がぁ~、ではなくて……。この御方が儂の事を諫め、苛めるのだよ。だから何とかしてくれ~。籍~。あなた~。お願いだ~」と。
覇王項羽はいつもの勇んだ怒号ではなくて、弱々しく。可愛らしい声色と口調で、自身の愛する殿方である籍へと嘆願……。梁から庇って欲しいと願い乞うのだ。
と、同時に?
「な、何だぁあああ~。貴様~。何をしているのか~? その者は~と、言うか~? それは儂の物だ~。離れろ~。この淫乱痴女目が~」と。
自分達二人……。
そう、覇王項羽と梁との争いの隙を突き──。己の肢体を愛する殿方へと差し出し、優艶に甘え戯れる。天女の如き振る舞いで舞う。伯へと覇王項羽は、己の両手を使用しながら、自分の籍(物)から離れろとジェスチャーしてみせる。
それを凝視した梁は「なに?」と、声を漏らしながら。
覇王項羽の美しい紅玉の瞳が見詰める先──。
自身の背の後ろへと頭と身体を回して確認をするのだ。
「な、何をしているの~、あなた達は~? いい加減にしなさい~。そして~。今直ぐ離れなさい~。拍~。何度も言うけれど~。籍は私の物~。貴女の物ではない~。だから今直ぐ離れなさい~」
まあ、梁が後ろを振り向き確認をすれば、仲の良い若い二人の様子しか瞳には映らないので、彼女は驚愕、絶叫を吐きながら。覇王項羽のことなど、もう放置をして、慌てふためきながら詰め寄る。
と、言うか?
詰め寄るしかないのだ。
梁の大事な宝物であり財産を、妹の拍に奪われる訳にはいかない。
だから梁は二人へと詰め寄ると──。
自身の息子と妹の間へと割って入り──。
「拍~。どきなさい~。このひとは私の物~」と。
絶叫染みた声色で叫びながら。伯を押しのけようとするのだ。
「何を言っているの、姉さん~? 籍は私の物~。姉さんの物では無い~。だから~。姉さん~。私の物に抱きつき、甘えないでよ~。お願いだから~」と。
拍も売り言葉に買い言葉ではないが? 自分を籍から強引に離そうとする梁に対して、荒々しく言葉を放つのだ。
まあ、その光景が、何とも破廉恥極まりないと言うか?
遺憾だろう! お前達二人は!
と、怒号を吐きたくなる衝動に駆られそうになる。
また、そんな可笑しな姉妹、親子の様子を覇王項羽も凝視をしながら。『ハァ~』と、溜息……など彼女が漏らす訳でもなくて。
「貴様達~。儂の物~。儂の籍から離れろ~」と。
近所迷惑もかえりみず、項家の女達三人は、なりふり構わず深夜遅くまで叫びながら三つ巴の争いを繰り返したらしい。
と、いった。夏の夜の怪談話なのである。
◇◇◇◇◇
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