第10話*交渉

 千歳は冒険者達を帰属化したあと、王都を見渡すことのできるテラスに来ていた。


(どうしようかな。私を殺せる19人)


【マスターを殺す意思は確認できていませんので問題ないかと】


(でも、殺せるんでしょ?)


【抵抗すら無意味なほど差があります】


(そうだ!。場所わかる?)


【はい】



 『亜空魔』は王都のマップを見せる。そこには千歳が指定した人物達の場所が赤い丸で示されている。


 赤い丸はそれぞれ二つのグループに別れていた。四人グループと十五人のグループだ。恐らくは、転移者と現地人それぞれのグループだろうと千歳は考えた。



(特にこっちを気にかけている感じでも無さそうね)



 現地人のグループは宿とかかれた枠の中にいて一向に動く気配がない。そして、転移者のグループは道沿いにいて、数人が動いているがほとんどは道で止まったままだった。



(宿にいるのは寝てるんだよね)


【はい。ただし奇襲の成功確率は30%です】


(聞いてない。……もう一つはなにやってるの)


【食事中です】


(それって、『欲望の木』を使って?)


【はい】



 千歳は『亜空魔』の返答を聞いて、あることを思いついた。



(交渉事がうまい人いる?)


【それでしたら、唯一スキル『交渉術』を備えているマルコストロガノフが最も適任です】


(武器商人さんね。呼んで?)


【はい】






「ハーイ。ミス千歳」


「こんにちは」


「アイカワラズ。コワい目をシテマスネ」



 千歳のもとにやってきたマルコストロガノフは片言の日本語で千歳と会話する。



「頼みたいことがあるんだけど」


「タノミゴト?。ナンデスカ?」


「今から会う人たちを私の仲間に引き入れたいから、交渉してほしいの」


「交渉?。ワタシ得意デス」


「知ってるよ」


「ソウデシタ。ミス千歳にはスベテ筒抜ケデスネ」


「因みに交渉失敗したら瞬殺されるって」


「アハハ。イイデスネ。ワタシモ交渉スルトキハイツモ命懸ケデシタ」


「心強いわね。ついてきて」






 王都の大通りに突如生えた木に住民たちが群がっている。なぜなら、食べたいと望んだものがすぐにその木に実るからだ。その様子に最初は距離を置いていた住民たちも一人がおいしそうに食べ始めると次々と食べ始め、今では完全な虜となっていた。


 千歳はそんな住民たちの様子を見ながら思った。



「よほど、お腹減ってるのね」


「ミス千歳。キット、ソウイウコトデハナイヨ」


「そうなの?」


「ワタシハ、ヨクミテキタ。コノ人達ノ目。マサニ飢えに苦シンダ人ノ目ネ」


「さすが武器商人。いろんな人を見てきてるのね」


「モチロンネ。ミス千歳ノ目ハ、怖イ目ダケド、何カ面白イ事ヲスル目ネ」



 そんな雑談をしながら、千歳は目的の場所に着く。そこには顔は日本人であるが、完全にこの世界の住人と同じような格好をしているグループが、明らかに周りとは違う食い物を食べていた。



(間違いなく、あれね)



 千歳は一番近くにいた人物に声をかける。



「こんにちは」


「こんにちは?...てっ...え?」



 千歳が声をかけた男性は千歳を見て固まる。その様子に気付いた他の仲間たちも千歳を見る。



「あなた達。日本人でしょ?」


「え?。あ、はいそうです」



 千歳の言葉に返事をしたのは魔法使いのような恰好をした女性だった。



「ここで何をしてるの?」


「えっと、食事を」


「そうじゃなくて」



 千歳の冷たい目が女性を襲い。また固まってしまう。



「もっと、分かりやすく言おうかしら。転移者がこの王都に何の用でいるの?」


「......」



 千歳の言葉にだれも答えようとしない、というか何かものすごく怒られている恐怖心にかられ言葉が出ないようだった。



「ヘーイ。ミス千歳。ソンナ聞き方ジャ。コワガッテ何モ言エナイデスヨ」


「じゃあ、お願い」


「任サレマシタ」



 武器商人はそう言うと千歳の前に出て、交渉を始める。



「ワタシ達ハ、アナタ達ノ味方デス。決シテ傷ツケルツモリハアリマセン」


「は、はぁ」


「皆サン。木カラ出テキタ。食べ物ハ美味シカッタデスカ?」


「は、はい。とても」


「ソノ木ヲ生ヤシタ人コソ。何を隠ソウ。ココニイル、ミス千歳デス」


「嘘!」



 武器商人の言葉を聞いた瞬間、転移者たちに緊張が走り、武器を構える。



「ヘイ、ヘーイ。ソンナ危ナイモノハ、シマッテクダサイ」



 武器商人は自分が殺されるかもしれない状況にも関わらず、冷静に言葉を話し続ける。



「この木を生やしたってことは、そいつが昨日俺たちの頭に話しかけてきた奴だろ」


「住民を先導して貴族を殺させた奴でしょ」


「ソレニハ、深イ理由ガアリマス」



 リーダー風の男が割って入る。



「どんな理由だよ」


「ソレヲ教える前ニ、アナタ達はミス千歳に感謝シナクテハナリマセンネ」


「どうしてだよ?」


「アナタ達に美味シイ食べ物ヲ、アゲタコトデスネ」



 その言葉を聞いた転移者たちは納得したのか緊張が和らぐ。



「確かに。何年ぶりにラーメン食べたかな」


「俺も、寿司なんて二度と食えないと思ってた」



 転移者たちは干渉にしたる中、武器商人が続ける。



「モシ、ミス千歳ガ命ヲ失ウ。コトガアレバ、二度ト食ベレナクナリマスヨ。イインデスカ?」


「俺は嫌だぞ。もう同じ味しかしない肉を食うのは」


「俺もだ。酸っぱいだけの果物なんてごめんだ」


「ソウデショ。デシタラ、ゼヒ私タチノ仲間ニナッテモライタイデス」


「仲間になって罪もない人を殺せとでもいうのか?」


「罪デスカ?」


「そうだ、帝国から逃げてきた俺たちに宿をくれたのは、お前たちが殺させた貴族だ」


「ソレハ、危ナカッタデスネ」


「どういうことだ?」


「ソレデスネ。ミス千歳ガイナカッタラ、アナタ達ハ、戦争奴隷ニサレテマシタヨ」


「ど、どういうことだ!?」


(どういうこと?)



 武器商人の言葉を聞いて、転移者たちと同様に千歳も心の中で質問した。

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