第14話 龍人の高校時代 5(恋の自覚)

 友人は増えたが、昼休みは屋上でサーシャからの手紙を読むことが多かった。

テレパシーと文通は、お互いの言葉、文化を学習するには最適だった。

整った顔立ちで、女子生徒に優しいところもあり、女子生徒からの人気は高かった。

学校の女子生徒からラブレターを渡されることも多く、一応は目を通したが、何の興味もわかなかった。

それどころか、女子生徒からのラブレターを読むたびに、サーシャの事を考え、胸が熱くなる思いに、冷静でいられない。

そのたび、サーシャからの手紙を何度も何度も読み返していた。

「よう、又ラブレターをもらったのか?見せろよ」

と、いきなりサーシャからの手紙を取り上げられた。

小池だった。

「それは違う。文通している子の手紙だ。返してくれないか」

(サーシャのことに気をとられ、気がつかなかった。能力者にあるまじきミスだ)

「どれどれ。…なんだこれ、日本語じゃ無いじゃねえか。おまえ、外国人と文通しているのか」

「十年以上になるよ」

「文通相手の手紙を昼休みになると、ここで読んでいるのは知っていたけど。外国人とは驚いたな。可愛い子かい」

「容姿は判らない。心の優しい、とてもいい子だよ。彼女以上の女性はいないと思っている(交信時に見えるイメージは可愛くてキュートな子だ)」

「ぞっこんじゃねえか。せっせとラブレターを送る女子生徒がかわいそうに思えてきたぜ。その子以外に付き合う気は無いのか?」

「無い」

「そうか。文通だけでそこまで言えるか。10年は長いものな。…それならラブレターを送ってきた子たちにはっきり言ってやんな。思わせぶりはよくねぇ。ほっておくのはもっとだめだ」

「そうなのか?同意も求めず送ってくるから、ほっておいてもいいものかと。ごめん、そう言うの、よくわからないんだ」

「俺に謝ってもしょうがねえだろ。女子生徒に言ってやんな。…おまえ頭いいのに、ちょっと天然入っているのな」

「天然入る?どういうところが?問題あるなら直さなきゃ」

「はあ、そういうところが女子生徒に人気があるのかな。まあいいや。ほら、手紙は返してやるよ」

「ありがとう。…あの、小池君。女子との接し方とか、どうしたらいいか判らない。教えてくれないか」

「はあ?おまえ、女子生徒にいつも優しくしているじゃねえか。それに俺がもてるように見えるかよ」

「それは叔母や妹達から女子には優しくと、いつも言われてそうしているからそれが当然のことだと。それに、小池君。斉藤さんとよく一緒にいるじゃないか」

「な、なんで知っているんだよ。誰かから聞いたのか?」

「いや、よく街で手を繋ぎながら歩いているのを見かけたから」

「誰にも言うんじゃねえぞ」

(結構、知っている生徒いるけど)

「うん、言わない。だから教えてくれないか」

「はぁ。教えろったって、俺もよくわかっていねえよ。おまえ、テレビドラマとか見ないの。学園ものとか恋愛ものとか、やっているじゃねえか」

「ごめん、見ない」

「おまえ、現代人かよ。じゃぁ、姉貴の持ってる恋愛小説で良けりゃ今度貸してやるよ」

「頼めるかな」

「おお」

知識は時として、自分の感情を率直に認識させてくれないようだ。


 海外の女子との文通を、小池がわざと暴露すると

「彼女以上に大切な女性はいない」

と公言し男子生徒からは冷やかされ、からかわれたが女子生徒は悲鳴に近い声を上げた。

それでも龍人にアプローチをかけてくる女子生徒は少なくなかったが。

「サーシャ以外の女性と付き合う気は無い」

と、龍人が明確に拒否をしたため、徐々に無くなっていった。

小池の姉から借りた恋愛小説を読むことと並行して、龍人は小池と斉藤の”デートを覗いて”みようと考えていた。

しばらく小池と斉藤の様子を”覗いて”いた龍人は、二人の恋愛感情が数年も前からサーシャに対する自分の心と同じものだと気がついた。

そうか、僕はサーシャに恋をしているんだ。

この気持ちは恋なんだ。

そう思うとなんだか体が熱くなった。

しかしその後、すぐに考え込んでしまった。

サーシャにこの気持ちを伝えたい。

でも、もし伝えてその後、何の連絡も無くなったらどうしよう。

ああ、伝えたい、でもサーシャはどう思っているのか。

僕を好いてくれているのだろうか。

ただの能力の練習相手としか思っていないのだろうか。

怖い、けど知りたい。

サーシャと通信する時間が待ち遠しい。

悩める日々は続く。

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