あなたの哀しみと

 突然の電話にあなたは肩を震わせた

 「大丈夫ですか」と声をかけた私に

 俯いたまま答えた、あなたの頬を伝うもの

 私たちの沈黙を、けたたましい着信音が切り裂いて

 受話器越しに、あなたが何事も無かったように別の誰かと話し始めたのが見えて

 張り付けた笑みを浮かべたあなたを

 行き場なく揺蕩うあなたの哀しみが、途方に暮れて見つめている


 もう誰も近づかないで

 もう誰も邪魔しないで

 言葉にできぬまま

 あなたが切り離されていく


 夜の中で想う

 あなたの哀しみは、あなたに辿り着けただろうか

 その細い腕を広げ、あなたは哀しみを受け入れただろうか

 あなたと、あなたの哀しみを

 神さまの優しい腕が抱きしめている

 もう誰にも邪魔されずに

 あなたとあなたの哀しみが、一緒にいられますように



***


いつも、思うのですけれど。

勝手に、他の方の気持ちをもらってしまうのです、私は。

その場では何も言えなくて、悶々とするばかり。

そんな気持ちをここで吐き出すというのも、我ながらどうなのかしらと思うのですけれど。

それでも、祈りをこめて。

あなたへ。



 

 

 

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る