其の拾 「扉」{不}

これは前に勤めていた会社での話。


超少人数だったその会社の倉庫にはある問題があった。

それは、扉が時々別の場所につながること。


例えば、扉を開けると雨の降っている見たことのない広場、空が絵の具みたいな黄色の森、果てには空の上に出たこともある。


社員の中では、扉を開けたらまずそこが倉庫かどうかを確認するのが常識だった。

とはいっても、5年間勤めた俺が5、6回くらいしか出会わなかった現象だが。


1回だけ、同僚のAが行方不明になったことがある。


Aが倉庫に行ってからどこにいるのかわからなくなった。

そん時は社員全員でめちゃくちゃ焦った。

2日後に、警察に行くかと話していると、倉庫から、

ドンドンドンドンッ ドンッ ドンドンッ

と扉を叩く音が聞こえ、社員全員でそろりそろりと見に行き、そっと鍵を開けた。


すると扉がバンっと勢いよく開き、そこには肩で息をするAがいた。


その時のことはA曰く、

「急いでて扉を開けてから確認せず入った。明らかに倉庫じゃないことに気付いて、走って扉のところへ戻った」

その間30秒くらいらしい。


この事故後、社員が確認を徹底したのは言うまでもない。

今は、その建物は取り壊され、更地になっている。


あの、不思議な扉は何だったのだろうか。

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