贅沢病
死んだようなモノ
私は死んだようなものである。
生きていれば何かを思い続け何かを考えざるおえないようにできている、それが人間というものなら、死んだようなものである。
怠慢とか惰性で何も成さず生きているだけのものは全てこれに当てはまる。
気づけば夜は明けても昼が開いても何もそこにはなく、私すらそこにはいないのだった。
悲しみも喜びも諦めてしまった。
海も山も見ることなく沈んでいく。
てっきり、人と成って行けるものだと信じ込んでいた。
家はある。帰る場所もある。
空虚な仄暗い心には届かないそればかり。
手につかんだものの一つも覚えていない。
誰が何をどうしてこうなった。
生きていくには一つだって手にしていない。
私は光るものが好きで、追いかけはせずとも見つめているのがとても好きで、とある1日のすべてをかけてもその光があるだけで満足していたはずだった。
思いがけない変化というものは忍び寄る影のようなもので、気づきもせずうちに食べられている。恐ろしさすら感じる間もなく、いつのまにか失っている。
続いていくと思い込んでいた道は断崖絶壁の谷のもと落ちて、追いかける手も最早ない。
絶望はどこにあるのか。
貧乏の中か、家無し子の中か、祈り果ててもなお信じる心か。
ただの贅沢病だと評された。
恨めば罵られ続ける他惨めなのはお前だと手枷をつけられる。
薬を捨てようと思う。
大量の薬。
医者がテンプレ通りに処方した薬。
副作用ばかり出て苦しめる。
そのわりに何一つ解き放ってはくれなかった薬。
飲んでも飲まなくても変わりない。
私がいない。
いっそ死んでしまえば終わるのかもしれない。かすめた日常的な想いは、何を見てもそこに繋ぐ。
鬱などではない。
人生上、自殺未遂をしたのは19歳の春、たった一度だけ。ひっきりなしに苦しめる幻聴とやらに嫌気が差した、あの時ばかり。
根底になにが眠っていてこんなに苦しいのか知りたくなったこともあった。
振り返れば確かに楽しい事もあったように思う。
私は贅沢病だ。
でも、私がいない。
死んだ自分を抱えながら生きているだけの死者だ。
死んだようなもののまま、人の皮をかぶって息をしているだけ。
なにひとつ持ってない。
誰かを愛そうとしたことはあったかもしれない。
でも、誰も愛せないまま至る。
何かが重くのしかかるような心地だった。
解き放たれたと思った。
紛い物の幸せだった。
妄想と日常を繰り返すうちに何が真実かわからなくなった。
誰を見ればいいのかもわからなくなった。
たいした傷ではないと言う。
医者も夫も父も、たいした事じゃないと言う。
終わらないのは生なのか、贅沢か。
何一つ持ち合わせないまま捨てていく。
諦観。
死してなお、なんてものもなく。
死してなお、笑うこと。
生きてなお、死ぬまで繰り返す。
ほとほと呆れ返る誰かに笑い続ける。
私がいないまま。
空はいまだに美しい。
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