第5話 世界の終わらせ方
けたたましく鳴り響くサイレン音。
容赦なくアフロはアクセルを踏み込む。
暴走する車とパトカーのサイレンに、巻き込まれたくないのか道路の車はたちまち横に避け道を開けてくれた。
まるで、モーゼの十戒のようだ。
「死にたがる気持ちってのがよくわからない」
三対一の論争に俺は再び挑戦した。
何かを話してないと現実味が薄れる。
「わからないヤツにはわからない、わかるヤツしかわからない」
トンチめいてるのかと思いきや当たり前の事を言うアフロに、俺は疑問の眼差しを送ってみた。
ミラー越しに伝わればいいな。
「わかったようでわからないような曖昧なヤツにはわからない。現にこの世の中が面倒で、生きてるのも面倒だけど、死ぬのも面倒だから生きちまっているオレなんかにはわからない」
「私のはぁ、死にたいってよりぃ、生きてるのを確かめたかっただけだからぁ、やっぱり死にたがるってのはぁわかんないぃ」
長年友達やってるが、こいつらこんなややこしい考え方してたのか。
それで人生楽しめてんのか?
「わ、私は、し、死にたかったんです。お、終わりにしたかったんです」
「リセットじゃないんだ、終わっちゃったら、コンティニューって訳にいかないんだぜ」
「ふ、再びなんてありえないです。や、やり直したいわけじゃないです。お、終わりに、し、したかったんです」
再び、ワンピースは俺の事を睨みつけてきた。
この話題の時は常に俺は敵のようだ。
現実に引き戻そうとする、敵。
「ロッくんも、もうこの話はよそうぜ」
「一期一会。出会ったからには俺の知り合いだ。知り合いが自殺するなんて、黙ってみてられるか」
「孤高のようでぇ、フレンドリーをリスペクトしたりするのがぁロックンロールだもんねぇ」
ギャル姉さんにそう言われて俺は頷いてやった。
ロックンロールはガキ大将みたいなもんだ。
俺の物は、俺の物。
お前の物も、俺の物。
お前の悩みも、俺の物。
「ロックンロールで世界を変えようなんて大それた事は、神様にしかできやしないんだ。だから、俺はロックンロールで人を変える」
今手元にギターは無いが。
ギターが無くてもロックはできるさ。
魂があれば、ロックはできるさ。
後ろのパトカーから、拡声器で声が聞こえる。
そこの車止まりなさい、アフロ頭の男止まりなさい。
「わ、私は、ろ、ロックンロールなんて、わ、わかりません。わ、私に、わ、わかるのは、わ、私の、せ、世界の終わらせ方です!」
ワンピースは俺を睨む。
憎悪を全て注ぎ込んだような眼光。
俺を、ロックンロールを、世界を、敵とした眼差し。
「ワンピースは、なんで海に行きたいって言ったんだ?」
「も、物語の最後、っ、って感じがしたからです」
それに、とワンピースは続ける。
「わ、私のあだ名」
「漫画読むんだな。海賊漫画か、アレには希望が一杯なのにな。今から向かうのは絶望の終わりだ」
「今日はぁなんだかぁ詩的じゃないぃアフロぉ。なんだかぁ素敵ぃ」
アフロは恥ずかしかったのか、ギャル姉さんを小突いた。
「ワンピース、空を見上げるのは好きか?」
「い、いえ。そ、空は、お、大きくて、ち、ちっぽけな私が、い、嫌になるから嫌いです」
「なるほど。でも海もばかでかいぜ、なぁロッくん」
急に話を振られてビックリした俺に、アフロはミラー越しに米粒みたいな目でウィンクしてきた。
「ああ、ロックンロールだ」
これでいいか、アフロ。
それにしても俺、これしか言わないアホみたいじゃないか。
「あ、あの、わ、私は本当に、し、死んでないんですよね?」
海まであと少し。
後ろのパトカーはいつまでたってもうるさいままだ。
モーゼの十戒がどこまでも続いていく。
「どうしたんだよ、今さら?」
「オレがキャッチしたからキミは確かに生きてるよ。まだ感触残ってるし」
「うわぁ、やらしいんだぁ。さてはぁアフロもロッくんとおんなじでぇ、ロリータ・コンシェルジュぅだったんだなぁ」
趣味趣向を越えて職業になった。
しかもロリータなのは当人ときたもんだ。
隣でワンピースがなぜだか恥ずかしがっていた。
「ゆ、夢みたいな事が、つ、続いてまして、げ、現実的じゃないような気がして」
「確かに現実的じゃないけど、これは夢じゃない。夢だったら宇宙人とわかりあえた少年の自転車のように、この車も宙を走って空へと向かった。けど、オレ達は今、パトカーに追いかけ回され海を見に行く真っ最中だ。現実以外の何物でもない。強いて言うなら、ロックンロールだ」
「イェェ、ロックンロールぅ」
ロックンロールを安売りするなお前ら。
ロックンロールは、魂なんだ。
魂を簡単には見せびらかすな。
でも確かにこれは、ロックンロールだ。
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