花びら散る樹の下で(花びらが散る樹の下 イタリアンスパゲティ 落語家)
落語家と桜の花びら舞う樹の下ってぇのは似合わねぇかもしれやせんが、実際そこで女房、そのときは彼女ですわな。まあ彼女に告白しちまったもんですからねえ、しょうがないでしょ。
もうね、彼女を逃したらおれに未来はないと思ってたくらい必死だったからね。
んで、いいよって言ってもらえたんですけど、それからも手放したくなくて必死でね。
もー自分らしくない行動をとりまくっていましたよ。高級レストランとか、豪華遊園地体験とかね。まだまだ若い落語家で貧乏だったのに。らしくもねえったらありゃしない。
でねえ、彼女ととちょっと休憩がてらサイゼによったことがあったんですよ、彼女が「歩いて足が疲れたー」つってね。
そのとき、小腹も減っていたので何気なく頼んだのがイタリアンスパゲティ。
もう400円もしないやっすい食べ物ですわなあ。
おれにとっちゃサイゼは女房みたいなものなんでしてね。
彼女がいるのに女房もいるとはどういうことなんだ! なんて意見もありやすでしょうけどね。ちょっとそこはご勘弁。
んでー、行きつけみたいなもんですからテキパキと調味料なんかとっちゃってね。オリーブオイルに粉チーズ、辛み調味料がかけ放題なんですよ、あそこ。
いろいろと味変をしつつおいしく食べていたら彼女がこう言うんですよ。
「あなたと肩肘張らなくてすむこっちの方が、高級レストランとかよりずっと楽しい」ってね。
いやはやそうきちゃったか。見透かされていたんですなあ。
それでも合わせていてくれたんですよ。おれの意地にね。決してただでおいしいものや遊園地に行きたかったわけじゃあない。
これは女房になってくれた後に、「なんであのときは意地に付き合ってくれたんだ」と聞いたんですが、
「あなたは落語家でしょ、それならいろいろな経験をして話の種を作っておかないといけないじゃない。わたしはそもそも庶民的な値段や活動が好みだけど、私が彼女のうちなら彼女という理由で高級料理に足を踏み出せるじゃない。高級遊園地に誘い出せるじゃない。緊張して味のわからない高級料理を味わえるしね。あなた、あのときの味覚えてる?」
あのときの味、さーっぱりおぼえていやしません。でもそれで一つ落語を作ってましてね。彼女の言うとおりなんですわ。
「肩肘張らない方が楽しい」、この言葉もいいタイミングででしてね。そこそこ高級なことを楽しんでそこそこの出費ですむところで飛び出してきたんですわ。おそらくこの日遊びまくって足を疲れさせ、サイゼリアに寄るってーのはわざとだったんでしょうなあ。
まー、勝てませんね。踊らされましたよ。ゆうなら完敗です、完敗。
完敗したーという気持ちをもちつつその場で結婚してくれって告白しましたよ。
そしたら、
「それは高級レストランのイタリアンスパゲティを食べているときに言ってほしい。告白は勝負に勝っているときに言うべきだ」ってね。
すんませんサイゼさん、あなたのイタリアンスパゲティが悪いわけじゃないんです。高級料理が雰囲気を作るんです。ほんとすんません。また女房と食いに行きますんで。
というわけで皆さんも勝負するとこしないとこ、見極めながら告白しなさいよ。
間違っても負けているときにしちゃあいけません。
はい、お粗末様でした。あー顔が熱い顔が熱い。
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