第10話 ~ おっさんは盛り上がる ~ 電気グルーブ N.O.

 田舎のバス停みたいな屋根と壁のあるベンチに腰を下ろす。大分傷みはあるが、朽ちそうではない。

 当然のような顔をして大猿が並んで座る。もう全く普通の日本猿、大きいが。

「いや相手をしてもらって済まなんだな。」

「……それはいいが、何者?」

「ああ、俺は両尾もろお博士ひろしという。そうだな、西暦で2020年の生まれだ。あんたより大分若いぞ。」

 ドクターモロオ……

「まあそうだが、私は400年近く眠っていたのだから、気分的には120歳くらい、肉体的には20代後半だよ?」

「それはサピアのおかげだろうが、羨ましいな。俺は猿しか選択肢がなかったからな」

「ボノ江はあんたが改造したのか?」

「……創った、のほうが近いな」

「あんたはなんで……」

 どう聞いたらよいか、考え込んでしまう。

「趣味だな」

「猿が?」

「いや、生命学の研究、かな」

 モロオが腰紐の藁袋を探り、木の棒を取り出す。いや、これは、葉巻か?ひょいと咥えた。

 木筒からスプーンのようなものを取り出し、藁屑を入れる。黒い棒を取り出し金属片で擦ると火花が出て、藁屑から煙が上がる。すかさず葉巻に火を移す。

「ふうー。猿だとニコチンの効きがわるいから、少し◯麻を混ぜてる」

「不良だな」

「人間ジャネーからいいんだぜ」

 ニヤリと笑う猿。やだ微妙にかっこいい。

「お前もやるか?」

「……止しとく」

「真面目だねえ」

「まだ信用できんな」

「……お前さん、多分ほとんど毒物きかねーんだろ」

「……」

「……付き合い悪いな」

 イヤに馴れ馴れしい、でも不思議と悪くない。

「後宮尊だっけ、あんた、有名人だったからな」

「そうかな」

「一般人はあんまり知らなかったかもだが、ギョーカイではね。本業については詳しくないけど、コールドスリープするとは、何のつもりだったんだ?」

「……さあね」

 多分、いろんな思惑で死んではならなかったのだろう。

「あんた俺のことは知らないよな」

モ(モがかぶるので以下文)「2020年8月10日生 両尾博士 生物学 バイオテクノロジーの研究者」

M「データベースに幾つかの論文が発見されました」

μ「2080年位から引きこもりですねー」

「なんだ、サピアってこんなにうるさいのか」

「そうなんだよ」


 くだらない話をダラダラ続けた。

 猿と雑談とか。楽しい。


 §


「さすがに放射能汚染がひどくて。100年ほどでクローンにも限界が来たんだ。テロメアの限界だな。実験は続けてたし、脳の量子転写ができるだけの設備はあるからな、一か八かだけどやってみたんだ。まあ、上手く行ったんじゃねーか。俺のオリジナルはまだ生きてたけどな。数週間で多臓器不全で完璧に死んじまった。」

 猿は新たな葉巻に火を点ける。

「ふーっ、貴重品だからそんなに吸えないんだが、今日はいいだろ。」

 タバコと大麻はすぐに見つかったという。適当に繁茂させて、適当に干して、適当に巻いてるらしい。

「……尊さん、まさかとは思いますが、アルコールなどお持ちではないでしょうか?」

「……」

「ちょっとだけでいいから!ちょっとだけでいいから!味見を!」

「いや貴重なんだよ、わかるでしょ」

「エタノールだよね!米はあるんだけど、色々どうにもならないんだよ、酒が作れない!」

「あるけど、もう100ccもないよ」

「きーっ!それではどうしようもないなあ」

「ボノ江さんは、どうなっているんだ?」

「あぁ、あれな。あれはいい娘なんだよ俺が言うのもなんだけど。……俺が、いや俺の本体というか旧俺というか、死んじまったときからおかしくなったんだよ。」

「やっぱり、そうか」

「わかった?」

「ああ、猿、いやボノボか、だけど眼がおかしい」

「そうか。さすが伊達に長生きしちゃいねーな」

「脳圧云々も、思い込みだね?」

「そうだと思う。俺が大丈夫なのも傍証だが、脳は大きくならない。神経系が成長したりニューロンが増えても、成長限界からさらに大きくなることはない。妄想が加速しても、それを抑える薬もないし、そもそも俺のことを認識しない。どうしようもなかった。どうすればあれを幸せにしてやることができるのかわからない」

「どうするか、ね」

 しばらく善後策を話していると、夕陽が差してくる。

「いかんいかん飯の用意をしないと」

 ベンチの裏手にも屋根が伸びていて、その下にかまどがあった。水を竹筒で引いていて、ステンレスのバケツに受けて溜めてあった。

「猿の味覚はどうなっているの?」

「正直大分感覚が違う。慣れるのに苦労したが、かなり改造もした。そもそも、俺、ちゃんと話してるだろう?」

 モロオは手を止めない。手際よく米を洗う。ほとんど搗いていない玄米だ。そりゃそうだ、栄養があるからな。

「そういえばそうだ。違和感がない」

「人工声帯をつけたからな、そんで、食うだろお前も」

「米かい」

「そうだ、米と芋と豆くらいしか無い」

 火を熾して鍋を載せた。かなり年季の入ったダッジオーブンに見える。

「豆って大豆があるのか!」

「そうだ。苦労したが味噌っぽいものと納豆はある。そうだ、塩はないか。塩が入手困難でな、時間がかかる」

「納豆!素晴らしい!」

「葱もあるぞ」

「なんてこったいオリーブ!」

「古すぎるな」

「東京湾の塩ならたくさんあるよ」

「あれな、ところどころ放射能があるっぽいけど、俺たちもそこからもらってきてるからな。塩って案外重たいだろう。運ぶのが大変なんだよ」

 まだ3kgほどあったので、1kg分けてやると、お前思ったより力持ちだな、と感心している。

 いつのまにかお前呼ばわりだ。

「他の猿たちには殆どいらないんだがな。口寂しいだろう。それからお前魚の干物持ってるだろ。出せよ。鼻はいいんだよ」

 慌てて鯵の開きみたいなのを出す。


 手際よく皮を剥いたさつま芋をさいの目に切り水に入れる。ゴクリ、と自分の唾を飲む音が大きく響く。

「連中割と勝手に何でも食うんだが、メインはこの芋と大豆だ。これなら奴らでも勝手に増やせる」

 米が吹いたので火から外し、代わりに芋の鍋を火にかける。お膳のようなものを3つ並べ、木椀を取り出し、納豆をそこに落とす。ものすごく手際が良い。

「ぬか漬けは塩が少なくて上手く行かない。もしかしたらナノマシンの影響もあるかも。言っとくが出汁はねえぞ。あでも明日は大丈夫だな、骨がある」

 鯵をピラピラさせる。

 芋を炊いたんに味噌を落とす。今度は別の鍋に入っていた水で戻した豆を残った火に掛けている。納豆作りか、すごいねまめだね。

 ご飯をよそい、芋の味噌煮と鯵の開きと納豆で夕ご飯の出来上がりだ。ご飯は山盛り、カルチャーショックだ。

「言っとくが、俺は無視されているからな。いや存在を認識しないようにしている感じだな。でも飯は俺が持っていってるんだよ。あれは本来、いや今も全くボノボだから生の芋だって何も問題はない。でもな、例えば人間はりんごを食うのでもあんまり丸かじりはしないだろ?皮を剥いたり、ジュースにしたり。ようするに文化的な状態でないと駄目になってしまったんだ。何度か死にかけてる。俺がお前を見に行ったときもわざわざ焼きおにぎりを大量に作ったりしたんだぜ。」

「あーそれはご苦労さまだな」

「だろうそうだろ。後な。多分今日は泊まらされると思うがな。……まあいい、俺が出てきたら入れ替わりで入ってくれ」

「わかった」

 あの飯を食べることができる……それだけで全てが許される。


 §


「あいつ優しいな」

文「自己責任だと思われます」

M「罪悪感の発露だと考えられます」

μ「やさしーネ!」

「そうだね」


 §


「あいつの目的は何かな」

文「ボノ江という猿の治療だと思われます」

M「尊さんという人的資源の懐柔、技術的援助が第一目的だと考えられます」

μ「暇なんじゃないかなー」

「そうだね」


 §


「あいつは猿かな?」

文「猿です」

M「猿です」

μ「猿だよ」

「そうっすね」



________________



サブカル好きには欠かすことの出来ない電気ですが。若い頃は乙に澄ましてバカにするような態度をとっていましたが。こういうバカは今もバカで、かっこわるくていいっすね。卓球がピエール瀧、ライブの取材でとりみきが書いた似顔絵、似てるんですが似てないんですが、顔が卓球の倍以上あって笑いました。

ポパイ、めっちゃ好き。本文はリスペクト(嘘)


異世界と言うと日本食、自分は肉があれば芋でも米でも小麦系でもなんでもいいので、和食はどうでもいいので、不自然な感じしかしません。海外に行って和食を食わなくても別に問題がないです。海外で一番つらいのはウォッシュレットがないことです。異世界トイレ問題が軽視されすぎ問題ですが、こういった苦労されている作者の方は、錬金術で作ったりされてますね。実際ろくに紙もない社会で、どう過ごせばいいのか。まず最初に理不尽に死ぬモブの考えですねすみません。


まあここは日本で、作りやすいのは米と芋ということで。実際日本猿はテリトリー内をぐるぐる移動して食料を探しまくっているのですが、ある程度定住しているので、餌やりは発生します。ほぼ芋です。それに満足できない連中は適当にウロウロします。


全然関係ないのですが、先日サイバラセンセがどっか未開の外国に行って、棺桶を作るという謎企画番組をTVで見ました。センセご自慢の唐揚げ、実際美味しそうで食べてみたいですが、砂糖を使っているという。そういえば家でも、天ぷらの衣に少し砂糖を入れているし、照り焼きじゃないけど若干の甘みは鶏肉と合わさると美味しいはず。が、現地の人たちの口に合わなかった、ご飯が甘いのはおかしいという理由です。そう、何でも合うと思うのは間違いです。大量の唐揚げ、食ってみたかった。

日本の色んな料理が魚臭くて食えない外人、それなりにいるようですしおすし。カツオの風味がだめとなると、1/3以上の日本食が駄目ですな。後ふわふわ甘いパンがデザート以外では駄目という外人も多い。ドイツ人とか。……ドイツ人とか。うちの嫁もそうですが断じてドイツ人ではない。

トルコやギリシャあたりのヨーグルトにニンニク合わせるやつ、今はめっちゃ好きですが、teenのころは考えられませんでした。

納豆は最たるものですが、発酵系は訓練、せめてイメトレが必要です。いきなり受け入れられるのは、どうにも違和感なのです。

野菜もそうです。実は大根めっちゃ臭い、弁当に入ってると他人に迷惑かけてると思うくらい。それがそこにある食材ならまだわかりますが。全員が受け入れるのはどうにも。葱、玉葱ですら食べられない人がいるし、特に香味野菜。というかハーブ?一瞬大ブームのパクチーとかカメムシやん。ベトナムに行った時、現地の人とかバクバク食べてて、嫁も食べてて、かなり引きました。ちなみにおふくろはニンニクが嫌いです。自分は蕗が苦手です。


できれば明日もUPしますが、事情があれば月曜日かも。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る