第3話 ~ クローン ~ ヤプーズ - ラブ・クローン
まだ穴から出ません。
*後書きですが、小説や映画のネタバレとか大いに含まれるので、気になる方は読まんといてもらえたら助かります。なんて書くと読みたくなって、やっぱり読んで後悔したりするんだよなあ。でもシックスデイは、僕は好きです。できれば見てください。シュワちゃんの安心感。こないだ見ても面白かったけれど、最近のと◯るとかいろいろを先に知っていると、既視感は多いし。ハリウッドの公式が鼻につくかも。言っとくが2000年の映画だからね。こういう系では最初の映画化だと思っているからね!今エラーリークイーンを読んで、なんか知ってるトリックばっかり、っていうのと同じようなもんだからね。
(間違ってたら教えて下さい)(小声)
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衣食足りて礼節を知るとあるが。今着ている服を見ても手作り感満載である。
もともとシェルター内には数人の研究員とメンテナンス要員しかいなかったため、衣料も食品も無きに等しかった。というか、その名も無き作業員の(本当は記録にあるが敢えて聞かなかった)着ていた作業服と白衣が元になっており、継ぎ接ぎ当ててなんとか着ることが出来ている状態だ。実際、医療用のロボットシステムを除いては、実験用の3Dプリンターに小型のアーム型スカラーロボット、清掃用ロボット程度しか存在していなかった。
本来の、言わばスーパーコンピューターとしての全能力を発揮すると数年で機能停止に追い込まれるという計算結果より、数十年かけて、私の目覚を用意をするためのシミュレーションをエコモードで繰り返したという。
まず掃除ロボットの吸気用自在アームを使ってプリンターで部品を作成し、スカラーロボットで改造し、度々充電し直し、改造が終わったらスカラーロボットを移動できるように検査機器のベースを取り外してキャスターの付いた椅子と結合し、不要な電線を外して移動可能にする。
そもそも床の角度が不良建築住宅のように数度の傾斜がついており、逆にその程度で幸運だったらしいが、私の横たわったカプセルの水平を出したり、麻酔や輸血器具の用意にも多数の手間がかかっていたらしい。おかげで私の3半規管は鍛えられたと思う。
いづれ私を目覚めさせる前提で様々な医療機器があったからこそ出来たということだが、基本的には人間が施術する予定だったのだから、それはもう本当に大変だったのだろうと予想できた。極低温の
服も、医療用ロボットが縫い付けた、メンテナンス要員の作業服と医療研究員の白衣から出来ている。
よく劣化しなかったと思うが、遊星衝突後、生体反応がなくなった時点で施設内を完全密閉し酸素を抜いて窒素充填したのと、ほぼ暗闇の中で作業を行ったためであるという。
実際コールドスリープなどという山師的な行為など、21世紀に一部の金持ちが行った以外に例がなく、ことごとく失敗して、考え方そのものが廃れた話みたいだった。そこに脳医学の最先端を研究中のAIが素体として私を喜んで引き受けたのが
つまり、地上までの穴を開けたのは清掃用ロボットであり、ドリルの刃に用いられたのは医療用のメスである。
メスだけは様々な種類で何百本もあり、じわりじわりと穴を掘る分には割と保ったということだ。実際のところ医療用金属メスなどその当時でもあまり使われなくなってきており、なぜそんなにあったのかというと、私の資産で担当医が変わるたびに購入されていった、その名残であるという。なぜ外科医はそんなにメスを買うのか?ブラックジャック先生か?でも研ぐこと自体困難なので、普通廃棄されていくのだが、個人資産扱いで廃棄も出来ずに溜まっていった結果だという。なるほど。いや、ありがたい話だろうがちょっと、ねぇ。
だから、カプセルの組み立ても服の仕上げも、ついでにカテーテルの抜き差しも自分で行った。
注射は針もないし機械が自動で行ってくれるが、カテーテルは個々にある機器で無痛では出来ないらしい。そのために麻酔を施すのももったいないような気がしたからだ。知的好奇心から行ったものである。決して私の中にそのような性的願望があったと認めることは出来ない。
なぜカテーテルか、穴に潜っているときにおしっこだけは止められないからだそうだ。基本は胸のインターフェイスから栄養補給が行われるが、口中が乾くのは良くないらしい。そうやって水分を取ると過剰になることが予見され、カテーテルに至るということだ。
実は水は充分にあって、カプセルに20L程は積んでいる。シャワーっぽいものも、洗浄設備で浴びることは出来たしね。あ、フィルター交換は自分でしたけどね。
飲料水については十分にあったけど、食事については、あまり言いたくない。
というか、食事ですらなく、栄養補給は全て点滴というか胸のインターフェイスコネクタにチューブを差し込んで、抱っこひものような物がついたユニットを絶えず背負っていた。だから固形物は、食べることの可能な3Dプリンターの資料や実験用の鉱物材料である。それでもブドウ糖のチューブは美味しかったし、粉末の生理食塩水は塩っぱかった。味覚にはとりあえず問題なさそうだった。
当然様々な検査も行われた。
視力は6.0を超えているらしい。聴力は普通だが、30000Hzの高音域でも聞き取れるという。嗅覚はよくわからない。匂いの判別はできるが良不良の基準がそもそもない。
運動能力はたしかに凄まじかった。垂直跳びで2m近かったのではないか。ただし速攻でとんでもない筋肉痛になり、すぐに治る。扱いが難しい。このクローン体の完成度は大したものだと思う。
クローン技術はソピア主導ですぐさま完成されたという。最大多数の最大幸福で、被害者のいない犯罪は犯罪ではないというやつだ。功利主義的に考えると脳を除くクローン、いや再生医療は誰も不幸にならない。心臓を複製して移植する。老化した肌を。眼を。内蔵を。DNA上本人のものならばいずれ劣化はするが、拒否反応症状など不適合は発生し得ず、副作用のリスクが極小になる。
時間はかかったが、神経系も移植可能になった。さて、脳は?
そこにソピアネットワークが解析した量子コピーとやらが関係して、なんだか詳しく話してくれなかったが医療用の
人間がいない状態で、すぐに手術して目覚めさせるのは無理である。そもそもスタンドアローン化してしまい、外部との接触が完全に絶たれている。現状保存が一番で、場合によって年単位で保管する必要がある。
まず脳がない状態のクローンを
ほとんどの部位は冷凍に耐えるが、眼球等技術的に困難な部位は場合によって再度クローン再生する。
脳の複製は一旦保留する。
外部について調査する。
室温が5度程度上昇しており、地温勾配で考えると100~200mくらいという予想を立て、小型の床掃除ロボットをばらして有線掘削装置を作る。予備的な排煙ダクトを通して障害にぶつかれば横に逃げ、なんとか地上と思しき場所に到着するのに100年以上かかったそうだ。本当に気が遠くなる。
寒冷な大地を調査していると次第に暖かくなり、各種センサーを飛ばせるようになるのに50年。カメラ付きの簡易なドローンを飛ばすのに更に50年。その頃大型ドローンと接触。
地表はいつの間にか人間の生存に適当な気温となっており、様々な植物が生い茂り、多数の昆虫、小さめの脊椎動物が散見される。
集団で行動する動物が発見される。2足歩行をしているが、全身が体毛に覆われており、人間ではないと外見で判断できた。念の為にドローンで体毛を採取し、DNA検査をするもホモサピエンスでないことがわかり、捨て置かれている。言語のようなものは話せるらしい。でも人間でないからサポートはしないらしい。
太陽風か電磁波か核爆発か何かによる、遺伝子損傷か突然変異による人間の部類ではないかと思うのだが。
いずれにせよ外に出たら出会うことになりそうだし、オハナシ出来たらいいのだが。
§
既に蘇生から2ヶ月近く経った。ツルツルに剃られていた首から上の毛はだいぶ伸びている。
なにか食べたり飲んだりするのに邪魔なので鼻下髭だけメスで時々剃り落とす。他の部位は流血を覚悟すれば出来なくないが、そのままだ。もともとやや毛深い質で、もみあげから顎髭まで繋がっているので、自分で言うのも何だが何だか猿っぽい。
私の肉体には生命維持に関するものは埋め込まれているが、それ以外にアイウェア型のウェアラブルデバイスをもらった。といっても目の前にレンズはない。ツルだけである。必要に応じてそこからホログラムが投影されて、眼前に表示される情報が見えるようになっている。
今は簡易な通信ユニットがあるだけだが、地上に出たときに太陽光発電ユニットを含むそれなりの双方向通信デバイスを設置すると、私をサポートしてくれるようだ。
そのためのアイウェア型デバイスであり、骨伝導で音声が聞こえる。
元々は研究員の海外学会用便利アイテムで、自動翻訳システムが付いており無線ネットワークに接続することでアンチョコとしても使えるものらしい。これを手回し充電可能な災害用ラジオ懐中電灯とモバイルバッテリーを組み合わせる。さすがにどれも非常にコンパクトで、簡単に取れないよう後頭部に回して輪のように繋いで固定する。
「これ、金ピカだね。」
全然関係ないが浅田次郎のデビュー傑作を思い出す。
「元の持ち主が鮮やかなブロンドで髪の色に合わせてあったのだと思われます。Auでできています。」
金無垢かよ!
§
エマージェンシーボックスにあった赤い斧、シート、食料、布、紐、メスなどの刃物、金属棒に工具類、針金や電線、ビニール袋、医薬品類を大きめのアルミトレイに載せてしっかり梱包する。これを折り返しごとに引っ張り上げるのだ。外界に出てからの生活を考えるとこれでも不安なのだが仕方ない。
外の状況はどうなのだろう?
「外気温は最高25度程度、最低5度程度と予測されます。」
そういえば今日は何日、いや何年なのか。
「今日の暦は2588年4月4日。二十四節気の清明です。」
ふーん。
「有名人の誕生日とかデータはあるの?」
「もちろんです。蓮如、山本五十六、細木数子、板垣恵介、桑マン、海○泰基の誕生日です。板垣恵介と桑マンは生年も同じです。ヨーヨーの日です。トランスジェンダーの日でしたが、2013年に削除されています」
「ああ、オカ○の日ってやつか、3月3日と5月5日の間だから。」
「そのような差別的言辞は避けていただきたい。」
なんというか、ムツカシイな、こいつ。
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クローン、といえば僕にとってはP.K.ディックでしょうか。もちろん色んな作家さんの色んなお話がありますが、ディックはこう根が暗いというか自分の心にある不安を上手く引き出してしまうというか、読むだけで哲学的になってしまうのです。それで印象深いのかなあと思います。
SFブーム、ニューウェーブの頃がクローンを扱う小説のはじまりかなあ、と思っています。1960年代くらい?で、単体クローンならこの頃からあるんじゃないかな、と思って調べるとどうも1970年代の「未来世界」、名作「ブラジルから来た少年」が初めっぽいような。
大量のクローンが出てくる映画、シックスデイズとかスター・ウォーズとかとあるとかバイオハザードとかありますが、見るだけでインパクトが強い。SFXとか凄え。こういう映画の中では、ハリウッド節に終止して褒めると怒られそうなシックスデイ、やっぱり死んでも何回もコピーされて、当人が納得してるというのが普通に面白い。例のアンパンマンの交換された頭の漫画とか思い出しました。
クローンが今の世であまり出てこないのは基本的にコスパの関係しか無いと思っています。イシグロ先生のとか、コスト的に無理がありすぎる。いや面白いけどね。皆川センセがリスペクトして書いてる短編素敵ですけどね。なんというか促成栽培が不能なら時間がかかりすぎる。アラブの王族なら可能でしょうが。ある意味なろう定番の貴族のスペアとしての存在価値だけで次世代ができると用済みになる兄弟的な。無駄飯食い的な。
だから安易な中国や南米あたりの貧民農場に頼っている現状なんでしょう。でもチョチョイと未来に行けば簡単にできちゃう!技術が進歩してるから!中未来くらいなら、なんとかなるでしょ。許してください。
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