非日常になった世界でも日常を過ごしたいなと思いまして。

あかさとの

災害が起きてもダンジョンが生えてものんびりしたい

第0話 ボッチにとって独り言は必須スキル


 「それにしても、これってやっぱダンジョンだよなぁ」


 岩肌と土に囲まれた薄暗い地下空間。通路が張り巡らされたこの場所に存在する小部屋で独り言つ。

 もしも異世界に行ったら、なんて空想した時代が俺にもありました。しかし異世界の象徴とも言えるダンジョンがこっちに来るなんてな。まさか人が転生するんじゃなく、ダンジョンが転生してきたなんてことはないだろうな。まさかな。


 んー、楽しそうなんて思って飛び込んだは良いけど、心細いもんだな。異世界に放り出された物語の主人公たちはこんな気持ちだったんだろうか……。とりま不安を紛らわせないとな。


 ——/&:¥@「!?


 いや、だって声しか聞こえないし……あーはいはい、心強くは思うけどまぁなんだ、心の整理っていうかそういうのが必要なんだよ俺には。


 ——)」:@&%>$?


 そうだな。声に出した方が整理しやすいかもな。じゃあさっそく……


 どうもこんにちは。俺は御影悠人みかげゆうと

 いきなりですが、ここ、ダンジョンです。地下だから真っ暗……と思いきや所々壁や床が光っていて、案外ライトがなくてもなんとかなる感じだ。それで今は通路よりは明るい小部屋を偶々見つけて休憩しているところ。

 そもそもどうしてそんなところにって言うと……訳あって家にダンジョンができてしまって興味本位で探検しているところだ。夢か妄想の類みたいだけど現実なんだよな。そういうわけで少し休憩したら再開しようと思います。


 なんつって。誰に言ってんだよ、ってね。でもまぁ状況整理が出来たからか不安は少し和らいだかな。

 誰と話しているわけではなくとも自分の中で回想するっていうのは結構大事だと思っていて、冷静にもなれたり考えも整理されて一石二鳥ってやつだ。

 ……なんて言い訳を自分に対してするが、結局自分だけの世界だからな。それで見つけた答えが最適かどうかはわからない。一応話し相手はいるんだが……今のところどの程度アテにできるかっていうのもわからない。


 ボッチは独り言が多くて困るぜ、などと自嘲じちょうしつつも、聴こえてくる声と会話しながら薄暗い小部屋の壁を背に紫煙をくゆらせ、ここに来るまでを今度は声に出さずに振り返る。


 まだダンジョン5層に到達した程度だけど、道中はなんかでっかい虫がいっぱいいて気が抜けなかった。だってでかい虫だぞ? 気持ち悪いだろ、普通に考えて。それに気持ち悪いだけじゃなく、俺の他にもダンジョンができてすぐに潜った人たちがいて、でかい虫たちに生きたまま喰われた、なんて事もあるらしい。その生き残りは二度とダンジョンに潜れないどころか、恐怖のあまりダンジョンができたその家から引っ越したって話もネットで見た。

 さすがに生きたまま喰われるのはごめんだからな、気は抜けない。

 

 ちなみにここは俺の家だ。正確には家の地下の地盤が一部陥没してできた窪みに入ってみたらダンジョンになっていた。降りた感じではせいぜい三メートル程度だったと思うんだが、急に気温が下がった感じがした。スマホも電波が入らず役に立たない。

 そんな中、思い付きを試してみようと地上の道路側へ続いていると思しき通路を暫く進んでみたところ、地上を走っているはずの車の振動すらなく不思議に思った。

 しかしゲーム脳……つまりゲームの考え方を現実に当てはめる思考回路を立派に発達させたと自負している俺に言わせると、穴に入ったらそこは異世界、もしくは異空間かもしれないし当然とも思っている……妄想とか願望かもしれないけどな。でも妄想かもしれないそれが事実だから隣の家の地下と思しき場所まで行って地上へ向けて穴を掘っても”床下からこんにちは“などということにはならなかった、と考えられなくもない。


 その事からも仮説の信憑性は増したんじゃないだろうか。この地下の空間は地上とは違うのだ……ってもやっぱ想像に過ぎないんだよな。穴は掘ったけどその部分は元に戻ろうとする。だからもしかすると同じ深さを延々と掘り続けていた可能性もあるんだよな。


 そもそもなぜ家にダンジョンがあるのかというと、今は特に珍しい事ではない。実際近所にもいくつかあるみたいだし。それというのも、地球規模の大災害が起こったあの日から世界中にダンジョンが現れたのが発端だった。

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