第77話 世界の終わりを君に捧ぐ 序 3

 翌日の早朝、ホテルの周辺の景色と街の人々の写真を撮影するために、尾張さんと二人で散策する。

 アルマさんとの約束の時間までの短い間だが、この国の雰囲気を見ておきたかった。


「僕たちなんか目立ってません?」


「紀美丹君が高そうなカメラ持ってるから、狙われてるんじゃない?」


 尾張さんが、適当に返事をしながら、市場で売られている、日本では見かけないような野菜を物色する。


「いや、どちらかというと、尾張さんが見られているような・・・・・・」


「私を見ることができる人がそうそういるわけ・・・・・・」


 お店の人が、現地の言葉で話しかけてくる。

 尾張さんは、いつの間に覚えたのか、現地の言葉が聞き取れるようで、簡単な受け答えをして、その場を離れる。


「見えてるわね」


「見えてますね」


 尾張さんの現在の服装は、いつもの学生服であるが、どうやらここでは、悪目立ちするようだった。


「尾張さん」


「ーーわかってるわよ」


 そういうと、尾張さんは民族衣装を扱っている店舗を目指して歩いていく。


 しばらくすると、大きな布を纏ったような現地の民族衣装で店から出てきた。


「そこまでする必要ありますかね?」


「念には念を入れた方がいいかと思ったのだけど」


 そんな事を言っているが、実際は着たかっただけだろうなぁ。と考えはしたが、言えばめんどくさそうなので、


「似合ってますね」


 とだけ感想を言うに留める。尾張さんは、


「あら、ありがとう」


 とだけ言うと、その場でくるりと回って礼をする。

 ヒラヒラとした布がフワリと広がり、白い素肌が一瞬見える。


 不覚にも、ドキッとしながら、


「そろそろ戻りましょうか。アルマさんがくる時間ですし」


 と誤魔化すように言う。

 尾張さんは、上機嫌で僕の隣を歩きながら、時折民族衣装の布を僕の左腕にぶつけてきた。




 ホテルに着いた時、既にアルマさんはそこに来ていた。


「すいません。お待たせしてしまいましたか?」


「いえ、今来たところです。それに、約束の時間にはまだ早いですから」


 アルマさんは、簡単な挨拶の後、本題に入る。


「ところで、今日は戦闘地域の撮影がしたいということでしたが。ーー本当に行くんですか? 命の保証はできませんよ?」


「はい。お願いします」


 わかりました。と言うと、アルマさんは何やら紙とペンを懐から取り出す。


「では、こちらにサインをお願いします」


「ーー誓約書ですか」


 まぁ、当然か。その誓約書には、もし契約者が死亡しても、自己責任であるという旨が日本語で書かれていた。

 

 誓約書にサインをしながら、質問する。


「ちなみに、今まで誰か亡くなったりは?」


 アルマさんは、


「ぼちぼちです」


 と、使い方は間違ってるのに、意味が通じてしまう日本語で答えてくれた。

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