第70話 クソゲー

 気がつくと俺は黒い男の後ろを歩いていた。

 

「なぁ、なんかまた増えたんだけど?」


「見境なく殺すからでしょう? 自業自得だわ」


 黒い男は、銀髪の女性と話している。


 殺すって何か物騒な話してるな。

 しかし、なんで俺こんなところにいるんだっけ?

 どうにも記憶が曖昧で、思考もぼんやりしている。

 それでもなんとなく男の後ろをついていく。何故かそうしなければいけない気がする。

 

 さっきまで何をしていたっけ? 男の背中を眺めながら考える。

 確か、いつも通り退屈な授業受けて、スマホゲームの更新確認して、それから普通に家に帰ったようなーーーーーーーーーー違う。確かあいつの事を追いかけたはずだ。一度見失って、だけどもう一度見つけたあいつを殺そうとしたはず。


 かなり抵抗されて、怪我もした筈なのに傷が全くない。どういうことだ?ーー薄寒い想像をしてしまう。

 ありえない。俺が、そんなこと、ありえていいわけがない。


 目の前の黒い男の肩を掴む。しかし掴んだと思った手が男の身体をすり抜け、空を切る。


 は?


 何度も試すが、その度に身体が透過してしまう。


「は、はは・・・・・・」


 渇いた笑いが口から溢れた。


 生前、何気なく考えていた人生の終わりのその後。

 そんな時間がまさか存在するなんて。思いもしなかった事実に、放心状態になる。


 ボーッとしながら男は自らの人生を振り返る。


 好きだったゲーム。振り向いてくれなかった好きだった人。嫌いだった奴。楽しくなかった学校。俺の全盛期っていつだったんだろ。


 人生を振り返る機会が与えられたはいいものの、クソみたいな人生を振り返っても結局得られた感慨は、一つだけだった。


 やっぱり人生ってクソゲーだわ。


 渇いた笑いを溢しつつ、背後についてくる男を流し目で見つつ、黒い男は呟く。


「なにあれ、怖っ!」


「貴方ほどじゃないと思うわよ?」

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