第7話 幕間:ヒトの項目

 誰もいない夕暮れの教室に一人の少年と、一人の少女が居残っている。

 少年は、特に何をするでもなく弄っていたスマホを操作しながら、どうでも良いことのように呟く。


「ウィキペディアのヒトの項目の画像ってアカ族らしいですよ」


 文庫本に目を落としていた少女は、少年の呟きに興味を惹かれたのか、それとも、文庫本の区切りがよかっただけなのか、判断がつかない程度の動きで顔を上げると疑問符を投げかける。


「どうして?」


 少女の端的な質問に、得意気な顔をしながら雑学を披露する少年。


「アルファベット順でAから始まるかららしいです」


 少し考えるような仕草をする少女。そして、


「それなら、アイヌ民族の方が適当じゃないかしら?」


 少年は虚をつかれたような顔をすると、


「なんでですか?」


 と尋ねる。


「akhaとainuなら、後者の方がアルファベット順ではやいでしょう?」


「ホントですね」


 素直に納得する少年に、少女は、


「世界って結構出鱈目にできてるわよね」


 どうでもよさそうに結論を告げる。


「それでも回ってるからすごいですよね」


 それに対して少年も適当に相槌を打ちながら、メッセージアプリを起動する。

 そして、いましがた結論が出た雑学を呟きはじめる。


「やっぱり一度終わらせた方が良いかしら」


 何の気なしに呟かれた一言を聞いた少年は、慌てて少女に向きなおる。


「世界をですよね? 僕をじゃないですよね?」


 少女はニッコリと笑って、口を噤んだ。

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