第5話 理解してない
「一体、なんて送ったんですか?」
困惑しながら尾張さんのスマホに視線を送る。
「べ、別に普通に謝っただけなのだけれど」
珍しくオロオロと所在無さげにしている尾張さんはちょっと涙目になっていた。
「・・・・・・かわいい。じゃなくて、あの、メッセージ見せてもらってもいいですか?」
「え、ええ」
どうやら、僕の失言は聞こえていなかったようで、尾張さんはスマホを見せてくれる。
そこには、こう書いてあった。
『この前は、ごめんなさい。すこし配慮にかける発言だったわ。学校のテストは授業を聞いていれば、特に問題なかったから。貴女がテストに向けて、とても努力していたなんて、知らなかったの。でも、紀美丹君に貴女の努力の事を聞いて、本当に悪い事をしたと思っているわ。テスト前は、みんな勉強しているものなのね。とても反省しているわ。今度からは、猫動画じゃなくて、兎動画を見るわ』
なるほど。
「尾張さん。貴女って人は」
「?」
キョトンとするな。
「全く理解してないじゃないですか!」
「失礼ね。ちゃんと、反省しているわ。つまり、椎堂さんは私がテスト前に努力をしなかった事を怒っているのでしょう? だからちゃんと、いつも見ている猫の動画ではなく、兎の動画を見て見聞を広めようとしてるじゃない」
尾張さんは、まったく悪びれた様子もなく、自らの発言内容にも疑問を持っていないようだった。
「いや、テスト勉強してください」
「完璧に理解している事を繰り返すなんてただの怠慢じゃない」
正論で返された。おかしい。今責められるべきは僕ではなく、尾張さんのはずなのに。
「いやというか、椎堂さんが怒っているのは、たぶんそこじゃないと思います」
「えっ?」
何を言っているのか理解できないといった顔をする尾張さん。
「いや、えっ? じゃなくて」
本当にわかっていないのかこの人。
「この文章だと、椎堂さんのへし折ったプライドをさらに粗塩で揉んでるようなものじゃないですか」
僕の指摘に尾張さんは唇を尖らせながら不満を露わにするように、
「プライド・・・・・・。また、プライドね。みんな、そんなにプライドが大事なのかしら」
くだらないわ。と呟く。
「実力の伴わないプライドなんて、吹けば飛ぶようなものを何故わざわざ守ろうとするのかしら」
そんなものに囚われて他人に当たっても、なんの意味もないのに。
そう吐き捨てる尾張さんは、寂しそうにならないスマホをジッと見つめ続けていた。
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