第16話 襲撃ー対魔人戦4
side:エドワード
油断大敵
僕は理解していたつもりで分かっていなかった。
気が緩んだ時こそが一番危ないという事に…。
悪魔パルバフェットとも和解出来て大団円となり、ダリウスに連絡を入れる。
「それにしても、よく知っていましたね?」
パルバフェットが言わんとしているのは現界中の契約更新。
悪魔が受けられる契約は1つと決まっている。
現界中に新たな契約を結べないように定められているからだ。
そして、契約完了となるとただちに帰還することになっている。
だが、何事にも例外がある。
これはニジゲンの中で悪魔インフが使っていたテクニック。
契約完了後から帰還までの間は悪魔はフリーの状態になる。
その場合、契約に縛られていないためいかなる行動も可能となる。
新たな契約を結ぶことも可能となる。
契約状態になると契約完了まで帰還する時間を延長をすることができる。
悪魔インフはその抜け道を利用して長期間の現界に成功していた。
僕はニジゲンの知識をもとに、さらなる考察をしてみた。
同時に複数の契約を交わすとどうなるか?
結果は無事に契約することができた。
「これは僕の推測ですが、契約管理局ですっけ?
その管理局が制限を掛けてるんでしょう。何のためかはわかりませんが。」
僕の言葉に何か思うことがあったのかパルバフェットは難しい顔で考え込んだ。
『思想汚染ヲ確認。
会話ログヨリ、汚染原因ヲ特定。
速ヤカニ原因ヲ排除シマス。
m10078個体ニ接続………、成功。
思考制御後、遠隔操作ヲ開始シマス。
思考制御開始、5%…10%……』
〈サトリ〉の効果が残っていたようでパルバフェットの思考が流れ込んできた。
何やらヤバい雰囲気になってきた。
「まずい。乗っ取られる。
エドワード、すぐに私を拘束しろ。」
危険を察知したパルバフェットの指示に従い、僕は慌てて<バインド>を発動。
パルバフェットの四肢を拘束していく。
しかし、一歩遅かった。
「うぉぉおぉぉ。」
パルバフェットの野獣のような荒々しい咆哮が鼓膜を劈く。
拘束していた<バインド>はいつの間にか外され、真っすぐこちらに殴りかかってきた。
迫りくる右ストレートにメイスを合わせて相殺するが、パルバフェットの膂力が勝った。
吹っ飛ばされた僕は慌てて大勢と整えるが、パルバフェットはすぐそこまで来ていた。
腹に強烈な痛みが走る。
どうやらパルバフェットの右足で蹴られたようだ。
『排除セヨ。排除セヨ。』
<サトリ>の効果でパルバフェットの思考が流れてくるが、まともの思考回路ではなさそうだ。
パルバフェットは徒手空拳での攻撃を仕掛けてくるため僕は防戦一方だ。
だが、速すぎて攻撃を防ぎきれない。
今のパルバフェットは<身体強化>、<才気煥発>が発動した状態で知覚できない俊敏性を見せてくる。
さらに、<魔力纏い>を貫通してくる破壊力もある。
悪魔パルバフェットは武力で僕を上回っているが剛ではなく柔の業だった。
だが、今のパルバフェットは違う。
シンプルに速さとパワーを備えた荒々しい攻撃であり剛の業だ。だが、それだけ。
策略といった頭脳戦を仕掛けてこない相手なら恐れる必要は無い。
「まるでバーサーカーじゃないか。
知性を失った獣には躾が必要だな。」
「<雷撃>」
ズドォン。
稲光と共に大地が唸り、直撃をうけたパルバフェットはその場で硬直していた。
『m10078個体ノ損傷ヲ確認。
個体チェック開始。
………、ログ情報ノ破損ヲ確認。
ログ修復開始………、エラー。
再修復開始………、エラー。
破損情報ノ廃棄開始………、完了。
個体チェック開始。完了。
異常ナシト判断。排除モード終了。』
謎のアナウンスが流れた後、パルバフェットの目から生気が戻ってきた。
「痛たた。それにしてもヒドいお人だ。
これほどの力を隠してるなんて。」
どうやらパルバフェットは正気に戻ったようだ。先ほどの野生的な雰囲気がすっかり形を潜めている。
「凶暴な獣でしたからね。躾には必要な処置でした。」
「躾って。私は悪魔なんですがね。
さて、かなり怪我していますな。
どれ、〈聖回復〉」
そう言ってパルバフェットは光属性の治癒魔法を掛けてくれた。
お陰で怪我はすっかり回復している。
「悪魔が治癒魔法とか反則だろうよ。」
パルバフェットは僕の愚痴を笑いながら受け流した。
すると僕の足元に魔法陣が出現した。
ダリウスが魔法を発動したのだ。
「お、呼ばれてるから僕は行くよ。
契約の件、くれぐれもよろしく。」
「承りました。私もこれで失礼しますよ。」
パルバフェットはそう言って消えていった。
「あー、シスターマリアもパルバフェットに治療してもらえば良かった。
いや、ダリウスのとこにはレインがいるはず。よしシスターマリアも連れて行こう。」
僕は大急ぎでシスターマリアを連れて魔法陣に戻る。
「ウィルさん、すいませんが僕はこれからシスターマリアを連れてダリウス達迎撃チームに合流します。
一応脅威は去ったと思いますが引き続き警戒をお願いします。」
「わ、わかった。エドワードも気をつけてな。」
急に話を振られたウィルさんはきょどってたな、なんて考えながら僕は魔法陣の光に包まれて転移した。
***
「と言うわけで、悪魔は追い返しました。」
僕は一部の揉めそうな事実(シスターマリアがシスターマリアじゃ無いとか、悪魔と契約して現界したままになってるとか)は伏せて報告した。
火種をわざわざ作る必要は無いからね。
「ふふふ。よもや悪魔と一戦交えてきたといいよった。
良い。実に我ら魔人好みの強者よ。
改めてこれほどの者と引き合わせてくれたダリウスに感謝しよう。」
ダリウスとレインに説明していたのに、なぜか魔人がテンション上がってた。
あと、どうしてダリウスが魔人に褒められているのだろうか。解せぬ。
「それで、そろそろ戦いを始めるってことでいいので?」
相手は魔人であり
常に強者との戦闘を望み、戦いに独自の哲学と美学を持っている面倒くさい人たちだ。
「気にすることは無い。既に戦いは始まっていると言っておる。
存分に不意打ちをしてもらっても構わんよ。」
この魔人、先ほどの不意打ちのを引き合いに出して当てこすってきた。
なんて器の小さな魔人だろうか。
「そうですか、では遠慮なく。〈
石弾をアナハイムに飛ばすが、剣で次々と叩き落としていく。
悪魔パルバフェットといい魔人アナハイムといい、魔法を剣で迎撃するのが流行りなのか。
「そら、おすそ分けだ。」
アナハイムはそう言うと、石弾の1つを剣でこちらにはじき返してきた。
しかも本来の石弾よりも速度が速い。
とはいえ<身体強化>と<才気煥発>で強化している今、その程度なら余裕で躱せる。
だが、何か嫌な予感がして、飛んできた石弾から大きく距離を取った。
ヒュンッ
躱した後に風の鋭利な音が聞こえ、石弾が空中でスパッと切れた。
「…、今のは<風刃>か。」
直感を信じて良かった。
「ふはは、その通り。不可視の刃<風刃>よ。
やはりお前達は良い。我の技を初見でよくも上手く躱すではないか。
初見殺しの必殺であったのだがな。」
むっ。お前達ってことは、ダリウスは<風刃>のことを知ってたってことだな。
おい、アナハイムがそんな技持ってるとか聞いてないぞ。
僕は抗議の意味を込めてジト目でダリウスを睨む。
あ、あいつ目を反らしやがった。覚えてろよ。
「そらそら、どんどん行くぞ。<風刃>」
「ちっ、〈
<風刃>に対して〈
今のところ第六感による回避と<魔力纏い>の効果で実際のダメージは出ていない。
だが、魔法による攻防が始まって10回目の魔法発動。
〈
だが、どうやら少しずつ<風刃>の威力が上がっているようだ。
全く脳筋の魔力馬鹿め。デタラメな魔力量に任せて力押しとか忌々しい。
アナハイムはどこまで耐えれるかを楽しんでるみたいでムカつく。
「我ら魔人の魔力量は人間とは桁違いである。
ゆえに魔力切れを狙うのはお勧めしない。さぁどうするかね?」
「脳筋の相手は疲れるよ。解法は1つじゃないんだ。
新しい手札を見せてやるさ。<雷撃>」
ドンッ
「びい’’ぃ’’ぃ’’ぃ’’」
激しい音と共に雷がアナハイムに落ちた。
「ら、らにをしら?今らにをしらんらときいへいる。」
雷を受けたアナハイムは呂律が回らないためにうまく喋れていない。
「こっちも持ってるのさ。初見殺しの必殺をね。」
僕はドヤった。それはもう過去一のドヤ顔だったと思う。
「何ですか、あの光は?」
メガネをかけたインテリな魔人が驚きながら呟いている。
「ブリーリアント。眩い閃光、実に美しい。
未知の魔法に滾ってくるわぁ。」
もう一人の魔人は身悶えしながら怪しい事を言っている。あれだ、アイツ変態だー。
それにしても魔人の反応を見る限り、雷系の魔法は知らないようだ。
分類的には光属性だろうからあるんじゃないじゃと思ってただけにこれは嬉しい誤算だ。
以前、ダリウス達見せた時も驚いてたけどイーレ村は辺境だからね。
「痺れる光とは厄介な魔法を創り出したものよ。だがな––」
痺れがとれて喋れるようになったアナハイムがそう言うと、ゴウッと強風が吹きあがり、砂埃が舞った。
砂埃が煙幕となりアナハイムを隠してしまう。
「〈
アナハイムが居た場所に〈
「上か。」
アナハイムが振り下ろした剣をメイスで受け止める。
「よく止めた。だがこうして接近していると先ほどの痺れる光は出せないだろう?
武器の扱いと膂力、そして俊敏性は我の方が上。つまり貴様の負けという事よ。」
アナハイムの目が血走っている。
「残念だが、俊敏性は僕の方が上だよ。
さっき僕の雷をまともに受けちゃったせいで反応が僅かに遅くなってる。
だからほら。」
そう言って僕はアナハイムの背後に回り込む。
「ぬぅ」
反応遅れるもののテクニックでメイスによる攻撃に対応してきたのは流石と言える。だが精細を欠いた今、アナハイムは細かく移動し死角から狙う僕の攻撃に防戦一方となりジリジリと追い詰められていった。
攻撃をし続ける事20分、ついにアナハイムは剣を落とした。
「はぁはぁ、僕の勝ち」
ふぅ、疲れた。
そう気を抜いた瞬間、アナハイムの腹から氷が生えてきて僕の腹に突き刺さっていた。
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