10:9 殺し合い時間 開幕
第三週の殺し合い時間。赤の果実はゼルチュとの約束通り、深夜の二十四時丁度に校庭へと集まっていた。
(…憎しみによる殺意が芽生えているな)
この二週間はノアからすれば、あまり心地の良いものを感じていない。何故なら、ゼルチュによって家族を異形となる化け物へと変えられたブライトたちが、ゼルチュに対して憎悪を酷く芽生えさせていたからだ。
「お前らさ、もう少し冷静になれよなー? ゼルチュを殺してやりたいって気持ちは分かるけどよー? いざ戦うことになったら前が見えなくなるぜー」
「…でも、許せないよ。私たちのお母さんやお父さんをあんな姿に変えて、私たちに殺させるなんて。許せるはずがない」
「ヘイズ、特にはお前は落ち着いた方がいいぜー。能力のせいで仲間を殺しかけたこと、ハッキリと覚えてんだろー?」
特に殺意を高めているのはヘイズ。リベロは特に彼女へと"落ち着くように"と声を掛けるのだが、ヘイズは憎しみに囚われた表情のままで変わる様子はなかった。
「お前は大丈夫だろうな?」
ノアは隣に立っているルナへと一応声がけをする。
「うん、大丈夫。何千年も前に初代教皇として"憎悪を抱く"ことの恐ろしさを思い知ってるもん。私の中にもゼルチュを許せない気持ちがあるけど、私は落ち着いていられるよ」
「それならいい。殺意と憎しみだけじゃアイツには、ゼルチュには絶対に勝てない」
静かに「大丈夫」と語るルナを見てノアは少しだけ安堵をすると、
「…?」
校舎内の廊下に写る人影。それに気が付けば、視線を下駄箱がある校舎の入り口へと視線を向けた。
「…誰か来る」
レインは創造武器の刀を腰に携えて、警戒心を高める。他のメンバーもそれぞれの得物を召喚し、姿を現すであろう人物を待ち構えていた。
「全員に忠告しておく。相手が誰であろうと先手は打つんじゃない。能力の素性が知れないのに、無防備に突っ込むのは自殺行為だからな」
ノアは殺意と憎しみを抱いているヘイズたちが、むやみやたらに行動を起こさないよう注意喚起をしておく。相手がゼルチュならば尚更のこと。一撃で仕留められる可能性だってあり得る。
「おいアイツって」
「ゼルチュ、じゃないわね」
ヴィルタスとアウラの言葉通り、人影のシルエットは明らかにゼルチュのものではなかった。鍛えられた体に、短髪の髪型。ゼルチュとは真反対の人影だ。
「お前は、誰だ?」
「オレのことを忘れたのか? あれほど世話をしてやったのに」
人影が月明かりに照らされる。彼らの瞳へと鮮明に写り込むその人物。ノアは目を見開いて、その人物の名をこう呼んだ。
「――"メテオ"先生」
「今日は時間通りに集まれたのか。お前らはあの頃よりも成長をしているということだな」
「…メテオ先生、どうしてあなたがここに? あの校舎もこの校庭も、今の時間帯は"殺し合い"をするための場所だということを理解していますか?」
「オレは教師だぞ? この学園の規則を理解していなくてどうする」
メテオは右腕を軽く回しながら、ノアへとそう答える。その腕を回す準備運動は、まるで今から戦おうとしているようにも見えた。
「どうしてゼルチュの味方をしているんですか? あいつが何をしようとしているのか、それをあなたも分かっているはずです」
「分かっているからこっちについてんだよ」
彼は何故メテオがゼルチュ側へと付いているのかを尋ねるが、明確な返答を与えてはくれない。ノアとルナはメテオに敵意があることを確信し、他のメンバーと同様に創造武器を手元に召喚する。
「先生が殺し合いに参加するなんてありなのかよ…!?」
「大ありだぜー。実際にウィッチがオレたちを助けるために、Sクラスと戦ってたろー? もし禁止行為ならあの場で処罰されていたからなー」
リベロがビートへと説明をした通り、先生という立場だからといって殺し合いに参加してはならないという規則などはなかった。むしろノアたちと同じように、教師も"プレート"と"ネーム"を付けていることで、参加しても何ら不自然なことではない。
「おかしい」
「おかしいって何が~?」
「分からない。けど、最後に見かけた時のメテオとは何かが違うような…」
ノアは疑念を抱きつつも、それを晴らすために第一キャパシティの能力を発動した。
「
かなり強力な能力を模倣しようとしているのか。ノアは心臓付近を苦しそうに押さえながら、とある人物の"能力"を扱うために、右手の中指と親指を擦り合わせて、パチンッという乾いた音を鳴らす。
「何も、起きない?」
「ノア、能力の発動を失敗したのですか?」
数秒経っても変化が起きない。レインとティアは失敗したのかとノアの方へと視線を送るのだが、
「…そういうことか」
彼自身は抱いていた疑念が晴れたようで、険しそうな表情を浮かべつつもそうぼそりと呟いていた。
「何が分かったの~?」
「俺が再現した能力はウィッチの第一キャパシティ、
「それって確か"一度でも触れた相手の付近で自由に爆発を起こせる能力"…だったよね」
ルナの言う通り、一度でも自分から触れた相手の付近で自由に爆発を起こせる能力。ノアはその力を再現で模倣しようとしたのだが、
「能力は上手く再現できた。それなのにメテオの付近で爆発が起きなかったんだ」
爆発は一度も起こすことが出来なかった。そう述べるノアにルナはこう訴える。
「でも、私たちは一度もメテオさんに自分から触れてなかったよ? だから発動しないのは当たり前なんじゃ…」
そう、触れていなければこの能力は発動しない。自分たちはメテオと一切接しておらず、触れる機会など一度もなかった、とルナは説明をした。
「いいや、メテオと初めて出会った時、俺はあの"ネームプレート"に一度だけ触れていた」
しかしノアはたった一度だけ触れていたのだ。メテオを敵だと勘違いし、襲い掛かろうとしたあの瞬間。ルナに腕を掴まれて止められたが、彼の指先は確かにメテオのネームプレートに触れていた。
「嘘だと思うなら、あのネームプレートから指紋検査でもしてみればいい。俺の指紋が残っているはずだからな」
「……」
メテオの表情が急変する。
優しさなど消え去り、冷たさだけを感じさせる無表情へと。
「触れていたのに能力が発動しなかった。これが意味することはたった一つ」
ノアは両手に持っている二丁拳銃の銃口を、メテオへと向けた。
「――お前はメテオ先生じゃない」
「…クックックッ! ガッハッハハハ!!」
彼のその一言により、メテオは片手で自身の顔を押さえ、その場で大笑いを始める。
「そうだ。オレは本物のメテオじゃない。メテオの"クローン"だよ」
「クローンだって? 本物のメテオ先生はどこにいる?」
「本物? ああ、あれならとっくの昔に死んでるぞ」
メテオはとても気分が良いのか、本物の自分についての話をこう続けた。
「本物のオレの名前は
「ナイトメアの研究員、ということは」
「お察しの通り、Noel Projectに手を貸していた。レーヴダウンを代表する研究員が白金昴に対し、ナイトメアを代表する研究員として黒金鉄也がな」
小泉翔に託された破損していたファイル。文章がバグっていたせいで名前までは知らなかったが、ナイトメアにも代表する研究者がいることはしっかりと記されていた。
「あの"Noel V"っていう薬液も、黒金鉄也がこそこそと裏で開発を進めていたものだ。適応できない奴らは異形へと変えてしまう。そんな恐ろしい薬を黒金鉄也は作っていた」
「…ならどうして本物のメテオ先生は死んだ? Noel Projectに必要な人材だったんだろう?」
しかしその人物が既に亡くなっており、本物ではなくクローンがそこに立っていること。それがあまりにも不思議な光景で、驚くにも驚けずにいた。
「簡単な話だ。黒金鉄也は白金昴の計画の邪魔をしようとしたんだよ。「これは世界の為にはならない」と言ってな」
黒金鉄也は白金昴のNoel Projectは、世界の平和の為に動いているのだと思い込んでいた。だが実際は、クローン技術を多用し新たな支配者を生み出そうとする魂胆。それを知った黒金鉄也は阻止するために、ゼルチュへと刃向かった。
「その結果がこれだ。アイツはアニマとペルソナに殺され、代わりにオレがクローンとして生み出された。本物が死んだのは…九月頃ぐらいだったか?」
そして黒金鉄也はアニマとペルソナにより始末される。ゼルチュは念には念をと、代わりとなるメテオをクローンとして創り出し、このエデンの園に馴染ませた。
「そんなこと、ここで九官鳥のように喋り続けていいのか? カメラの向こうにいる"傍観者"に聞かれるぞ?」
「はっはっは! この周囲一帯だけカメラは停止している。俺たちのことは誰も見ていない」
メテオは笑いながら、両拳を自分の胸の前で合わせる。
「それに今オレがここで話したことは、すべて独り言になる」
「…来るぞ」
「何故なら」
右手に桃色の光、左手に黄緑色の光を宿し、
「――ここでお前たちは全員消えるからだ」
地面へと叩きつけて、辺り一帯を大きく揺らがせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます