第81話 託されたもの

 燈太が目を覚ますと、恐竜が倒れていた。そして、少し頭が痛い。


「ふぅ……」


 ひと息ついて、指と指を離すと同時に、


「大丈夫か?!」


 紅蓮に肩をガっと掴まれた。


「少し頭は痛いですけど……、とりあえずは」


「お前、立ったまま気を失ってたんだぜ? 静馬がちょっとしたら目を覚ますって言うからほっといたけどよ」


 紅蓮の見る先には静馬がいた。恐竜を倒したからか、既に部屋の中に入ったようだ。「ほらな?」と言うかのように静馬は鼻を鳴らした。


「で、燈太クン。結果はどうだったんデス?」


 幽嶋が燈太の方へ近づき、そう尋ねた。瞬間移動を使って驚かすようなことをしてこないのが新鮮である。


「はい。見立て通り、やっぱり情報でした」


「成果は?」


「ばっちりです」


 ◆


 燈太はこの遺跡が現れた理由について皆に話した。


「時を操る『UE』……デスか」


「なんか、超オオゴトになってきたッスね……」


「だな」


「えーと、と、時を操る『UE』が既に発生していて……それを伝えるためにこの遺跡が現れた。『演算装置ハイド』はそれをもう観測しているんでしょうか……」


 藤乃の言葉に静馬が口を開く。『UE』の観測に関しては現象課が一番詳しい。


「……ここ3カ月で詳細不明の『UE』となると、2件だけだ。1件は――」


 静馬は燈太をみた。


「……あ」


 完全に失念していた。


「! ……え、燈太君は時操れるんスか?! 世界を破滅させるんスか?!」


 そう、燈太から観測された『UE』の詳細は全くわかっていない。


「いや……、そう言われても……」


 時を操る……。能力は環境の把握であり、そんな前触れもない。


「……あ? 2件・・? おい静馬。なんだよもう1件は?」


 静馬は舌打ちをした。


「……バカが、貴様の管轄だろう」


「『極夜の魔術団』デスね?」


 幽嶋の問いに静馬が頷く。


「そうか……、魔術を使った儀式をしたのは確かだが、その儀式に内容自体はわかってねぇのか」


 燈太から『UE』を観測した同日、『極夜の魔術団』が何らかの儀式を行い『UE』を発生させたと聞いている。そして、『アトランティス』突入前、日本ではまた動きがあったと対人課長は話していた。

 これが時に関わる『UE』という可能性は十分にある。


「てことは、『極夜の魔術団』が時を操る『UE』でなんか企んでるってことッスか?」


「結論を急ぐな。そもそも『演算装置ハイド』には観測できる『UE』に制限がある。観測できていない『UE』に時を操るものが含まれている可能性も捨てきれん」


「フム……、『演算装置ハイド』に漏れがある以上は、問題の『UE』を特定するのはまだ難しいと」


「そうなりますね。ただ、『お導き』と時を操る『UE』が無関係とは思えません」


「『白の名を持つ組織』デスか……。これに関しては、『極夜の魔術団』にも燈太クンにも関係ありませんねぇ」


 やはりどれも推測の域をでない。

 ちなみにここまで、会話に混ざらないネロはと言うと、部屋の端っこでシールと寝そべっている。


「……はぁ。今ここで議論してもどうにもならん。おい、燈太。『アトランティス』人から聞いた話を続けろ」


「あ、はい」


 静馬に促され、続きを話し始める。


「『アトランティス』を作った青年は、俺達に2つの物を託すと言っていました。一つはここにある無加工の『オリハルコン』。そして二つ目が……」


 燈太はポケットからメモ帳を取り出した。

 実は、燈太は意識を取り戻してから、数回にわたってあること・・・・を完璧にメモするために能力を行使した。


「あー、目ぇ覚ましてからなんか必死にメモ取ってたな……」


「それが、託された物なんスか?」


「はい」


 空が、スッと燈太の後ろに回り込み、メモを見た。


「……げっ、なんスかこれ?」


 空が拒絶反応を示すのも無理はない。正直燈太も深いことは理解していないのだ。

 メモにびっしりと書かれたそれは――


「これは、『公式』だそうです」


 燈太の言葉を聞き興味を示したのは、研究者である静馬、藤乃の二名。


「公式? なんの公式だ?」


「化学分野なら私も少しは力になれるかと……」


 メモに書かれた公式を二人が覗き込んだ。二人は顔を顰めるが、少しして顔色を変えた。


「これは……」


「……いや、でも、私の知ってる物と少し違う気が……」





「託された二つ目の物は、曰く『UE』検出公式の完成形です。この公式であれば、極微量・・・な『UE』であっても検出ができるとのことです……!」

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