第39話 集会
『黒葬』がアトランティスへ出発した同時刻。
『極夜の魔術団』は都内某所にて集会を行っていた。
「案外少ねーんだな」
『白金遊戯の会』の3名も参加している。今、口を開いたのはドレッドヘアの男、篠崎である。
「この場にいるのは暁部隊が6人、黄昏部隊が6人、その他が6人で魔術師は計18人ですね」
『黄昏の2』シャルハットはそう答えた。
本来は集会に『白金遊戯の会』をいれる必要はない。しかし、今回は明日の作戦会議を行うためそのために呼んでいる。
「――始めるか……」
髭をもじゃもじゃと生やした高齢の男がそう言い集会は始まった。『暁の1』である。黄昏部隊は戦闘が主であるため若者が多いが、暁部隊は儀式が専門となるため年寄りが多い。
「まずは暁部隊の報告じゃ。儀式にはあと5か所に『陣』を完成させる必要がある。知っての通り、『黒葬』が邪魔をしておる。特に進展はない」
通常の魔術は自然のエネルギーを体内で魔力に変換し、『器』に蓄え、詠唱で変換するが、『儀式魔術』は、巨大な魔法陣を書き、供物を捧げ、自然のエネルギーをその場で魔力に変える。
そうすることで、手間や時間は掛かるが、より強大な魔術を行使することができる。
『極夜の魔術団』が行おうとしている儀式は第一段階として『陣』を6つ作らねばならない。
『陣』を生成すると、魔力が発生する。
一つ目の『陣』を生成した時、それをかぎつけた『黒葬』が恐るべき速度で飛んできた。生成は間に合ったが、後始末ができなかったため、『黒葬』に『極夜の魔術団』が入国したことが露見した。
初動でこれなのだ。もう『極夜の魔術団』はマークされている。
二つ目以降の『陣』の生成は、『黒葬』を消してからという決定をした。
「……なんで日本にこだわるんです?」
木原が声を潜めてシャルハットに話かけた。
「日本でなければ、実現不可の儀式なんですよ。仕方なくです」
今回『極夜の魔術団』が行おうとしている儀式は『儀式魔術』の中でも桁はずれに魔力を使う。自然のエネルギーが大量に出ている場所でなくてはならない。
それがここ日本の東京だけであった。
魔術内包者が日本で多いのもそのせいだという話も聞く。
「暁部隊の報告は以上」
「……黄昏部隊から報告を始める」
『黄昏の1』が口を開く。彼が黄昏部隊の中で一番の実力者である。30代であるが、そうは見えないほど貫禄がある男だ。
「『暁の6』の協力により、『黒葬』のアジトの場所が割れた。予定通り24時間後に強襲する」
『暁の6』の魔術で『器』を分けた少女の居場所から『黒葬』のアジトが判明した。そして、『暁の1』の占いから24時間後が良いと出た。この占いの結果は、大きくは外れない。実際、アジトを監視していた魔術師からの連絡で大人数がさきほどアジトから出ていったとのことだ。
今、『黒葬』は手薄なのかもしれない。全員殺せずともアジトを壊滅に追い込めば、『極夜の魔術団』に構っている場合ではなくなるだろう。
「人選はどうする?」
「『黒葬』強襲には、補助の魔術師8名、『黄昏の3』、そこの殺人鬼から1名。これで行く」
「……僕らか」
木原が声をあげた。
「誰がいくぅ?」
「……福田君。行ってもらえる?」
「俺? 構わねえけど
――任せとけ!
――嫌だ!」
「……シャルハットさん、福田君が行くそうです」
「……否定してません?」
大丈夫か?とは思うが、シャルハットはそこまで期待していない。
「多数決で考えると承認してますから、問題ありません」
「気にすんな!
――任せときな!
――行きたくねぇ! やめろ!」
「……そうですか。だそうです『黄昏の1』」
『黄昏の1』は頷いた。
まぁ、正直『黒葬』強襲に向かう人選は『黄昏の3』がいれば、他は
「話を続けるぞ。強襲と同時進行で『陣』の生成を行う」
『黒葬』へ乗り込む間に『陣』の生成を行えば、『黒葬』戦力は分散しどちらの作戦の成功率も上がる。
「そこからは儂が話す。同時に二つじゃ。地点Aには『暁の2』『暁の3』『黄昏の1』『黄昏の2』。地点Bには残りの全員で行く」
「……大丈夫なんです? そんなチンタラやってて」
『暁の6』ハールトだ。「また余計なことを」とシャルハットは思った。
「……文句でもあるのか『暁の6』」
「あと、2か月ないでしょう? 一つ目の『陣』の効果が切れるまで。また生成し直すのは面倒ですよ」
『陣』は3か月たつとその効力は消える。10月上旬に陣を張ったので、1月には消える。もうそろそろ12月に入ることを考えると、焦る気持ちはわからなくない。
「強襲と同時進行で生成する『陣』は二つが限界じゃ。本腰を入れるのは『黒葬』を潰してからでよかろうて。暁部隊が一人でも欠けてみろ。無理はできん。考えなしに
ハールトは不満げに口を閉じた。
「……シャルハットさん。僕にはわからないんだけど、『陣』を作ることで相手戦力を分散させるより、黄昏部隊を全員『黒葬』にぶつけるほうが良いんじゃないですか……? 聞いてたけど、黄昏部隊から一人なんでしょう?」
木原が小さな声で話しかけてきた。
こいつは他の殺人鬼に比べると、少しは頭が回る。
「これが最善ですよ」
「……そうですか。怖いなぁ……」
木原は不安を隠しもしなかった。
まあ、木原の言い分はもっともだが、『黄昏の3』にしか今回の作戦は務まらないのだ。
今回の『黒葬』襲撃は『黄昏の3』と『その他』というメンバー構成である。もしここにシャルハットが参加しようとも、シャルハットは『その他』に属す。
それほどに『黄昏の3』がキーパーソンであり、
――これが成功すれば確実に『黒葬』の裏をかける。
「では今回の集会は終了とする。各自準備は怠るな。
――陽光よ、どうか我らにご加護を」
「陽光よ、どうか我らにご加護を」
魔術師は祈りをささげた。
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