第47話

 どう反応して良いのかさえ分からず混乱する。

 上手く話しが入ってこない。

 一体全体何が起こっているの……?


「ここにきて今更だけど、エリザベートの能力ってさ……人を思い通りに操るじゃなくて、人の心にかけている枷を外すなんじゃないかと」


 顔を顰めてリーナは告げた後、更に表情を歪める。


「しかも枷を外しての言動の理由として、枷を外した張本人のエリザベートを利用するんじゃないかな」


 ……心の枷を外す……?

 それはとても恐ろしい事の様な気がした。



 誰しも隠したい思いや感情はあるだろう。

 それを白日にしてしまうというのは――――


「エルザ。あまり時間が無い状況でも兎に角知っておかないと危ない事だけ告げてる。最重要を今から伝えるのは……今までの話を踏まえてじゃないと分かり難いからなのよ。大丈夫……?」


 真剣そのもののリーナを目にして、今は他の事を考えずに聴かなくてはと気合を入れた。

 そうしないと何も頭に入ってこなそうだったのだ。

 私には衝撃的過ぎて……脳内は何が何やらという状態だった。



 ――――正直に言えば……逃げ出したい。



 幼馴染達が変わってしまった姿と対面するのが怖いのだ。

 私が知っていたと思っていた彼等は……幻なのかとさえ思えて怖くて仕方がない。



 だが……リーナやアーデルハイト様、ベアトリス様を始め私の意識が無い間に守ってくれていたらしい人達を置いて逃げるなどあり得ない。


「ええ。お願い。しっかり頭に叩き込む」


 自分にも言い聞かせるように言ってリーナの話に集中する。


「今は真っ当に真っ当な事を言ってもあの時死んだ人達以外には届かない。貴族の言う事でさえ平民が逆らうし嘲笑うのが現状。エリザベートの言う事だけが正義で法律。けれどね……それを覆してこちらの要求を飲ませる方法があるの」


 一度言葉を切った後、どこか遠い目をしながらリーナは告げた。


「それはね……高慢ちきな言動をする事」


「――――はい……!?」


 思わず素っ頓狂な声が出た。

 今までで一番訳が分からない。


「分かるわ。分かるわよその気持ち。でもね……本当なの。いわゆる傲慢な態度で偉そう且つ見下す感じに言葉を発すると、その言動をした人の身分以下の人達は従うのよ。高慢な態度で発せられたその人の言葉にね」


 ……どういう顔をしたら良いかが分からない。

 何を言ったら良いのかも分からない……


「これで分かったと思うんだけど、重要なのは態度と身分。……瑠美は、悪役令嬢的な言動って分かる?」


 加奈ちゃんは真剣そのもので私に問うが……


「ええと……悪役令嬢的な言動は分かりかねます……」


 どうにか言葉を絞り出す。


「まあそうよね……そもそも悪役令嬢自体を瑠美知らなかったからね……でもさ、漫画とか小説とか現実でも良いけど、すっごい高慢極まりない言動する人とか見た事はない?」


 どうにか疲れ切っているらしい脳味噌さんを起動させる。


「……知らない訳ではないけれど……」


 私の言葉を聴いた途端、加奈ちゃんはホッとした表情になる。


「目の前で実践しなきゃかと思ったけど、良かった……大人が誰も居ない現状だと、フリードリヒをどうにかできるのはエルザだけなんだよ。私達にとっての切り札」


 必死な表情に瞬時に切り替わって告げられた事に、目を瞬かせることしか出来ない。


「……どういう事……?」


 大人が誰もいないという事もそうだが、切り札とは一体……?


「あのキチガ……もとい、エリザベートは頭がオカシイと思う。うん、本当に。純粋にあいつは狂ってると思ってる。狂人の類。あいつ……自分に敵対する相手や気に入らない相手を手下どもに拷問させたり輪姦させるんだよ。男も女もね」


 表情をこれでもかと歪め、唾棄するようにリーナは告げる。

 ……私は本当にそれこそ理解が追い付かない。


「……拷問に……輪姦って……」


 言葉が掠れる。

 理解の範疇外の出来事に本当に頭はもう逃亡を試みて停止しそうだった。

 けれど……それだけはしてはいけないとどうにか意識を保つ。


「閉じ込められてからだけどね……まだ数日だっていうのに地獄絵図だよ。拷問も性的な代物。輪姦せずの強姦もありとか狂気の沙汰だよ、あの糞女。それに従っちゃう手下どもも草極まりないわ、本当に」


 吐き捨てるリーナの目は怒りしかなかった。

 掌に爪が食い込む程握りしめているのだろう、血が滴り落ちる。


「あの時死んだ連中には男の貴族と士爵もいたでしょ? 一応そいつら含めて大体死んだ人達は無事。リオニー様には足を向けて眠れないというのが私達の総意」


 リオニー様というと確か――――


「ヴァルデック侯爵家の?」


 私が反射的に呟いていた言葉にリーナは力強く肯いた。


「そう。侯爵家の中でも私の家に次ぐ家柄の」


 ああ、あの方は……ちょっと言動が華やかなのだ。


「なんかエルザの中では良い感じに変換されてる気がするけど、ほら、リオニー様は、こう……物語に出てくる高慢な御令嬢そのままみたいな方でしょ? それが功を奏する結果になったの」

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