第13話
夕食を食べ終わり、一人一人前もって自分たちで張っておいたテントで今日は就寝だ。
一人用のテントである理由は慣れておく訓練、なのだという。
食事を皆で摂ってからというのは助かったと話している声を複数聞きながら、灯代わりのテント前にある焚火の炎をぼぉーっと眺めていたら、近くのテントの加奈ちゃんが現れて驚いてしまう。
「どうしたの?」
加奈ちゃんでありリーナでもある彼女は、苦笑しつつ私を見る。
「……ああ、その、お話をさせて頂いても?」
貴族令嬢の仮面を慌てて被り直した彼女に目を瞬かせた。
「それは構わないけれど。規則違反にはならなかったはず、だよね」」
リーナは悪戯っぽく微笑む。
「このクラスには同性しかおりませんし、明日に支障が無ければ同じクラスの者と語り明かしても良い、そうですわ。男性のクラスは些か離れた場所ですし、問題は無いかと。他の皆様も集まってお話しなさっておられるようですし」
確かにそうだ。
漏れ聞こえてくる声は何か語らっているらしいのは察せられてはいたから。
今日は貴族令嬢のままのリーナに首を傾げつつテントから出た。
「椅子を出した方が話しやすいでしょう……皆様少々離れてはおりますけれど話声が届いてしまうかしら……」
私も貴族令嬢の仮面を被りながら考え込むと
「ああ、それでしたらわたくしが」
「アーデルハイト様にお任せくださいませ」
そう言いながらまた新たな人物の登場に目を丸くする。
「ベアトリス様? それにアーデルハイト様も……」
驚いて言葉が続かない。
そして思い出す。
ベアトリス様もアーデルハイト様も、実力で言えば魔導騎士科に余裕で入れたはずなのだ。
けれど、一族の決定で婚約者との兼ね合いを考え普通科になったはず。
特にアーデルハイト様はいわゆるバフやデバフ系といわれる魔法の系統が得意な一族出身。
そう、実力は折り紙付き。
証明するように何か心地よいものに薄っすらと包まれたのが分かる。
「これで周囲にはこちらの声はもれませんが、周囲の様子は分かりますからご安心下さいませ」
アーデルハイト様は茶目っ気たっぷりに微笑んだ。
「ありがとうございます。あの、それで皆様、どうなさいましたの……?」
目を瞬かせながら訊ねる。
リーナだけならばまだ分かるのだが、ベアトリス様とアーデルハイト様まで私のテントにいらっしゃったのは何故なのだろう……?
純粋な疑問だ。
「はい。エルザ様とお話がしたく思いまして」
ベアトリス様が三人を代表してだろう告げた言葉に首を傾げる。
「それは構いませんが……」
やはりどういう事か分からず頭はハテナマークの乱舞。
「エルザ様、椅子を設置させて頂いてもよろしいでしょうか?」
リーナの三人を代表してらしい言葉に笑顔で肯く。
「勿論です」
私も焚火の側に予め配布されていた椅子を出して真っ先に急いで座る。
何せ私が座らないと皆が座れないのだ。
どうやら皆、テントと一緒に配布された椅子を持って来たらしいが、考えてみれば当然だ。
話をしようと思うのなら。
ただ、何故態々この実習の夜になのだろうかと相変わらず脳内はハテナマークがフワフワしている。
「エルザ様はキャンプの経験は終わりだったかと思いますが……」
リーナが言いながらベアトリス様とアーデルハイト様と顔を見合わせつつ、私の様子が面白いらしくクスクスと楽しそうだ。
「はい。演習はした事が」
私が答えると、ベアトリス様は優しく微笑みながら
「伝統ですのよ。最初の実習の際に眠らずどなたかとお話し致しますことは」
ようやく合点がいったが、何故それが私となのかが分からず首を傾げる。
「やはりエルザ様はご存じないようですわね」
アーデルハイト様が苦笑なさるものだから余計に分からず、ハテナマークは更に脳内に追加されて踊っている。
「エルザ様とこの機会に是非お話ししたいという方は大勢おりましたのよ」
ベアトリス様の言葉に益々混乱中。
私と話しても楽しいとは思えないのだが……
あ、あれかな、皇妃に決まっていて筆頭大公爵令嬢への顔繫ぎ的な感じでしょうか……
気を遣わせるのは非常に申し訳ない。
本当に皆大変だなぁ……
「エルザ様……相変わらず本当にご自分の事に疎くていらっしゃるから……」
リーナが仕方ないなぁと言わんばかりにため息を吐いているのだが……
「仕方がありませんわ。エルザ様はただそこにいらっしゃるだけで華になりますもの」
アーデルハイト様の言葉にベアトリス様も力強く肯く。
「アウレーリア様もユーディト様も良く仰っておいでですわ。エルザ様がいらっしゃらないと太陽が無いも同然だと」
……ええと、その……居た堪れないのですが……
「……持ち上げ過ぎの様な気が致しますわ……」
どうにか言えたのはこれだけである。
もう身の置き所が無くて無くて……
「エルザ様とどなたが今夜お話しするかは……ええ、それはもう……」
アーデルハイト様は何やら歯に物が挟まったかのごとき口調。
「ええ、まったくですわ……力技でしたもの……」
ベアトリス様はどこか遠くを見ていらっしゃる。
「ふふ……名門であることの意義ですわよね、こういう時は……」
……リーナの愉しげな様子がちょっと怖いです……
――――ああ、そうだった。
このクラス、というか、学年だと、私とギル、イザークを除けば、アーデルハイト様とベアトリス様の家に誰も敵わない。
更に付け加えるのならユーディの家よりもお二方の家は上だ。
それにリーナの家も侯爵家として一、二を争う名門で、公爵家のユーディの家より家格としては上とみている貴族達も多いのだ。
うん、同学年だったらギルと私とイザークがいないのなら、アーデルハイト様、ベアトリス様、リーナの家が三強だろう。
否、全学年でも、大公爵家、エドの家を除いたら彼女たちの家に敵う者無しだ。
……おや……?
私、良い家のお嬢様達を侍らせてる周りから見たら悪役令嬢っぽい……?
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