第112話
表情を引き締め、悔恨とも決意とも取れる顔で加奈ちゃんは私を見詰める。
「子供のしたこと、知らなかった。そう宣った男の娘のせいで、私の前世の友人は、自殺した。だから思うの。大人だとか子供だとか関係ない。 罪は罪だと。だから、罰も当然、年齢に関係なくあるんだって。そして、無知も罪だし、知らなかったじゃすまないって」
その言葉は、私の心に酷く重く響いた。
罪。
前世の父の罪、母の罪。
……勇の罪。
――――私の、罪。
法的には裁かれなかったけれど、確かにあったのだ。
前世の父や母はそれを償ったのだろうか……?
そして、私は……?
無知の罪だって犯していたのかもしれないのだ。
だとしたら、私は償えるのだろうか……?
グルグルと考え込んでしまった私の耳に、加奈ちゃんの真剣な声が届いた。
「エリザベートがフリードリヒにゲーム同様の執着をしている可能性は本当に高いと思ってる――――ねえ、瑠美。エリザベートにはこれ以上の罪は背負わせたくないと思ってる? 最初に言ったとおりに、ヒロインであるエリザベートを死なせず、エルザの父親もエルザも死なず、皆が出来る限り幸せになる様にしたいという願いは変わらない?」
加奈ちゃんは真面目な表情で静かに私を見詰めている。
だから私も真剣に答えなくてはと、何度も深呼吸をしてからしっかりと加奈ちゃんを見詰める。
「はい。私の願いは最初と変わっていないわ。皆が幸せになって欲しいと思っているし、その為に私が出来る事はしたいです」
加奈ちゃんは力強く肯いてから、微笑んだ。
「了解。私も瑠美の願いが叶うように出来る限り協力する」
私は嬉しくて加奈ちゃんに抱き着いていた。
「ありがとう、加奈ちゃん!」
加奈ちゃんはポンポンと背中を叩きながら、それでも声を真面目なものにしつつ
「でもさ、実際世界の強制力は注意しないといけないと思ってる。それに私さ、考えてみれば学校への入学年齢が違うっていうのにそこがきちんと理解できてなかったんだと思う。学校名が同じだったから錯覚を起こしてたのかも。あれは高校設定なんだから入学年齢は満十六歳。で、こっち現世では満十四歳。他にも抜けてるところがありそうで怖いな……」
私も尤もだと思いながら
「見直しは大事かもしれないね。とはいえゲームと実際には違いがあるから難しい所もあると思う。臨機応変に対応するしかないかも……」
加奈ちゃんは私を見ながら肯きつつお道化て
「だよね。なら、ちょっと資料見直しでもしますか?」
それに私も微笑んで首を縦にした。
「分かりました! それなら今からでも出来るね」
二人で見直し終わり、お菓子を食べつつジュースを飲んで栄養補給。
「特に目新しい事もない感じだね。”遅咲きの桜のイベント”もどうなるか……って所だし。なんか桜の方も不思議とまだまだ持ちそうらしいよ」
加奈ちゃんの言葉に肯きながら、ふと、言葉が出た。
「そうなの? どうしてだろうね……イベントは出たとこ勝負、かな……――――あの、ね、加奈ちゃん。親が自分の子供の物を身勝手に取り上げて捨てたり断らずに使って壊したり、それをまったく謝らないどころか持ち主の子供をいつも責めて怒るって、その、どう思う……?」
彼女は目を見開いてから難しい顔をして吐き捨てた。
「そりゃ毒親でしょ。虐待親かもね。って、なに、知り合いにいたとか?」
加奈ちゃんの言葉にびっくりしつつ、ストンと胸に落ちてちょっと聞いていみる。
「……毒親って?」
彼女は苦笑しつつ
「子供にとって毒にしかならない親の事だよ。聞いた事ない?」
私は思い返してみてもその言葉は知らない、と思う。
「知らないかな……私が死んだ後に広まったのかも」
加奈ちゃんは納得顔で肯きながら
「かもしれないね。割と新しい言葉かも」
彼女の言葉が終ってから、私は目を瞑りながら息を深く静かに吐き終わると、前世の両親との事を加奈ちゃんに話していた。
ポロリと漏れ出た言葉に加奈ちゃんが当たり前のように返してくれた事で、私は納得してしまったのかもしれない。
だから話してしまっていたのだろう。
元々加奈ちゃんに訊こうと思っていた事も影響していると思う。
唐突過ぎるし言われても困る事だと分かっている。
普通は他人に言わない事なのかもしれない。
だが私一人で抱えるには重すぎて、自分で考えても分からなくて、零れ落ちてしまったのだ。
加奈ちゃんは静かに聞いていたけれど、私が話し終えると目を閉じ何かを考える様に眉間に皺を寄せ、深く息を吐いた。
「……加奈ちゃん、こういう親って、その、おかしいのかな……? 毒親、かな……? やっぱり虐待親、なのかな……?」
私は客観的な意見が知りたくて思わず聞いていた。
そうすれば、前世の両親に区切りが打てる気がしたのだ。
「――――毒親以外の何者でもないでしょ。毒親で虐待親……薄々思ってたけど、瑠美って従兄弟さんが居なかったらと思うと本当に怖い……瑠美、辛かったね、苦しかったね、よく頑張ったね、本当に頑張った……!」
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