第43話

 ベッドの住人になる事十日。

 する事が無くて暇である。



 家からは侍女が六人も来て、二人ずつ、三交代制で私の面倒を見てもらっている状態だ。



 そんなにしてもらわなくても大丈夫だと個人的には思うのだが、私の感じ方と私の状態は違うらしく、仕方がないので大人しくしている。

 入学してから初めての執行科の活動も出られず、二回目の活動も、私はお休みなのだ。



 ひいお祖父様、ひいお祖母様、大叔父様や大叔母様達を始めとした親戚の方々、お祖父様やお祖母様、お父様まで当日は駆けつけて、私の部屋の人口密度の高さには眩暈を禁じ得なかった。

 心配で居ても立っても居られなかったらしく、何とか仕事を速攻で終わらせ夜遅く駆け付けたお父様は疲労の色が濃くて、こちらが心配したし、申し訳なくなる。



 本来、寮には応接室以外では外部の人間は入ってはいけないらしいのだが、今回は私の容態が本当に重体で危機的な状況にあったらしく、特別な許可が下りたらしい。

 侍女達の派遣は、身体が弱かったり病弱の人の為に元々寮でも許されているらしいが、倒れたり、介護が必要にならない限りは許可されないらしいとも、説明を寮母さんから受けた。



 特別に許されたのは一日だけだったから、それ以後は家族は見舞いには来なかったが、カーラ達我が家に仕える学校に通っている子達は様子を見に来てくれたりしていた。

 尤も、特別に許された家族以外の男性は、女子寮には決して入れないから、女性ばかりだったが。

 それに私は絶対に安静だったらしく、先生の判断で七日を過ぎたあたりから、介護も兼ねて様子を見に来てくれたりしたのだ。



 昨日また診てもらった結果、大丈夫だろうとの事だが、念のため、本日も安静にとの事だ。

 明日は気を付けるのならばと外出も許可してもらえたから、ちょっと出かけたいなぁと思っていたりする。



 十日前の医務室で、アンドが言っていたのだが、


「相当悪いらしいですけど、こちらに医者を呼ぶんじゃなくて、王都の病院に転送した方が良いんじゃないですか? それに、話していて大丈夫でしょうか? 本来話せないはずなら、話すのもいけないんじゃ……?」


 そんなアンドの心配げな問いに、ヨハネ教官は溜め息を吐きつつ


「転送の衝撃で何がどうなるか分からんから、現状安定しているこっちに呼んだ方が良い。エルザが話しているのは問題なんだが、話している事で気が紛れるのか、大分心が安定してきたからな。エルザの気持ちの持ちよう次第な所も大きい。だから心が落ち着いているのなら、それに越したことはない。話さず黙って静かにいたとしても、それで心が乱れてどうにかなったらその方が問題だしな」


 との事だが、転送も危ないというのには驚いてしまった。

 私、どれだけ悪いの……



 等色々話していると、ヒューおじ様、つまりフェルの父親である魔導師総長様と、私の主な主治医のクラウス先生がいらっしゃった。



 おじ様は既に色々カルテ的な物も見ていたらしいが、念のため早速診察して、それから私の治療に取り掛かって下さったのだ。

 虹色の暖かい光に包まれたら、今まで結構身体が重かったのだと認識出来る位には、全身が極端に軽くなる。



 どうも、復元魔法を使って下さったらしい。

 それ以外では対処の仕様が無かったとの事だ。



 私の主治医はヒューおじ様とクラウス先生なのだが、ヒューおじ様は忙しい為、主にクラウス先生が診て下さっていて、相当悪い時にヒューおじ様になるのだ。

 ただ、今まで事件後以外だとヒューおじ様が直ぐにいらっしゃった事は、あまり無かった様な……



 首を傾げている内に、人払いがされて、ヨハネ教官、ヒューおじ様、クラウス先生だけになった。

 不思議で目をパチパチしている私に、教官が話しかけてくる。


「エルザ、何があったか話してもらえるか? 何も無くてこの状態な訳が無い。言いずらい事もあるかもしれんが、正直に話してくれないだろうか」


 ヨハネ教官やヒューおじ様、クラウス先生の真剣な眼差しと表情に、私も気を引き締めた。

 寝たままだけれど……

 まだ起き上がるな、寝てろと言うので仕方がないのだが、何というか、いつもベッドに横になっている時に来客があると思う事は、寝たままでごめんなさい、だ。

 申し訳なさが後から後から湧いてくるが、下手に起き上がると逆に心配されてしまい、横になっていた方が結果的に良いという、何とも居た堪れない状況になるのが常だ。


「あの、ハンバートに会った辺りから、何かおかしくて、舞踏会以来の気持ちの悪い感覚もしました。そのため一人になろうとしたら、更に具合が悪くなって意識を失ったらしいのです。それで介抱してもらっていた所に、エドが来たという状況です」


 何とか説明できた、かな。

 実際そうだったし、あの感覚をどう説明したら良いのかも分からないし、思い出すだけで怖気が走る。


「意識を失う程、今回は強力だったのか?」


 ヨハネ教官の問いに、肯く。


「はい。今回は、ルディアス殿下やフリードリヒ殿下がいらっしゃらなかったからかもしれませんが、耐えられませんでした」


 ヨハネ教官は難しい顔。


「……舞踏会以来、というと、例の、這い回られている様な、という奴か?」


 ヨハネ教官に重ねて訊ねられ、思い出すだけでも具合が悪くなりそうだが、気合を入れて、必死に答える。


「はい、そうです」


 ヨハネ教官達は、何か目で会話しているらしいのは分かるのだが、何だろう?

 首を傾げていたら、新たな声がした。


『ヨハネス、その話題はここまでにしておけ。エルザの体調に差し障りが出かねん』


 その声のする方を視てみたら、驚いてしまう。


「カイザー、エーデル、どうしたの!?」


 いつもの通り、ルチル程のミニミニサイズのカイザーとエーデルが、ベッドに寝ている私の足の上に浮いていたのだ。

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