第19話
春になりこれでようやく九歳になった。
これで幻獣と誓約を交わす事が出来る年齢になった訳だ。
本来なら八歳位でも良いらしいのだが、私は身体が丈夫じゃないから、一年遅らせたという。
その為、九歳で幻獣に会いに行くことになったらしい。
私の場合、早めに幻獣と誓約を交わす必要があるから、早すぎはしないが、早い年齢ではあるみたいだ。
貴族の子供達は士爵や平民とは違い、魔法学校で幻獣と対面する訳ではない。
幻獣の森といわれる所に出向き、幻獣の王の許しを得て森に入り、過ごして、幻獣と出会うのだ。
幻獣の森には何度も行っていい訳ではない。
一度きりだ。
だから一週間位幻獣の森で過ごすのが当たり前らしい。
最高でも一か月で森を出なければならないという。
幻獣の森の中には人が滞在できる場所もあるというが、遠出したりする事で新たな幻獣に出会える可能性が高まるから、始めはその滞在場所に居ても、移動するのは良くある事だという話だ。
幻獣の森にいる間に幻獣と誓約を交わせなければ、魔法学校で幻獣と出会うしかない。
魔法学校には幻獣が来てくれるらしいから。
毎日くる場合も多いのだが、必ず朝に来るから、午前中に幻獣とお見合いみたいな感じになるという。
高位の幻獣はやっぱり珍しいから、高位の幻獣を得るためには幻獣の森に行った時が一番の機会だそうだ。
人生で一度のチャンス位の位置付けだというから大変。
貴族なら魔法学校の入学年齢である満十四歳になる年までに、幻獣の森に行っておかなくてはならないという。
初夏の過ごし易い季節に幻獣の森に行く事になった。
しかも大人数になってしまったのだ。
ルディとフリードも一緒だし、四大公爵家の年頃の子供に、ディルやシューにユーディという紫の瞳の子供が一斉に行く段取りとなった。
何故だ!?
どうやら、ルディもフリードも、もっと早く幻獣の森に行っても良かったらしいのだが、
「エルザと共に行く」
そうルディは譲らず、フリードは
「折角なら皆と一緒だと楽しいな」
と言っていて、この事態らしい。
二人共、この機会に珍しく我が儘を言ったらしいのだ。
確かにこの二人は、普段あまり我が儘といえる要求はしないから、驚いた。
幻獣達の住む森には、普段、幻獣達か妖精以外入れない様に結界が張ってある。
それを幻獣の王に頼んで結界を解いてもらい、森に入って幻獣と誓約を交わすのだ。
森の入り口に転移門があるので、第一転移門発着港に家から向かったのだが、凄い事になっていた。
発着港が人であふれかえっていたのだ。
どうも帝宮からのルディとフリードの護衛と、四大公爵家それぞれの護衛の数が多かったから、この有様だったみたい。
私が巻き込まれた事件以降、高位の貴族の子弟には、過剰に護衛が付くようになったからというのもあるのだろう。
常に人が近くに居るというのは、ちょっと疲れるけれど。
私の場合はまだマシなのだという。
量より質で、最低限の人数らしい。
しかしこの護衛が森の入り口まで付いてくる事になるらしいのだが、入り切れるのだろうか。
森に入るには決まりがあるのだ。
幻獣の森は、入る許可が下りた子供一人につき、護衛が一人だけ入る事が許されるらしい。
私の場合はディート先生が護衛になった。
弟のイザークは我が家の執事のバルドが護衛だ。
ディルは騎士の中から護衛の人が選ばれた訳だが、良くシューの護衛もしている顔見知りの人だった。
驚いたのはヒルデガルト先生がルディの護衛で、クレメンス先生がフリードの護衛だったことだ。
先生達、私が知らないだけで凄いのだろうか。
幻獣の森は初めてだし、帝都に来てから初めての旅行の様で、ワクワクドキドキしてこの日を待った。
何せ頻繁に体調を崩すから、この日の為に万全の状態に持っていくのに苦慮したのだ。
それでもこの頃は体調も良い日が続いていて、身体が丈夫になったみたいで嬉しくもある。
それより何より、やっとの帝都からの外出が楽しみで楽しみで仕方がなかったというのが大きい。
本日は快晴で、風も気持ちが良いのだ。
薫風というものだろうか。
あちらも天気が良いと嬉しい。
気候は帝都とそう変わらないが山間部らしいから、丁度良い感じだろう。
期待に胸は膨らむばかりだ。
それぞれの馬車に乗り、転移門を潜った。
馬車から降りてまず目に飛び込んできたのは、鬱蒼とした森とその手前の広大な広場だ。
森を見ているだけで、知らず知らず圧倒される感じがする。
なんというか、迫力が違うのだ。
こちらの世界の森を見るのは帝宮以外で初めてだが、普通の森とも違うのだろうか。
前世の知っている森より、神聖で、荘厳な印象を受ける。
森の入り口に転移門発着場があるのだが、かなり広い。
大型の戦艦も着陸出来るんじゃないかな。
これなら護衛の人達も大丈夫だろう。
そうそう、戦艦とかは陸海空全てに対応していて、飛空船って言うらしい。
空を飛ぶ船だから、確かにその呼び名の方が飛行機よりもしっくりくる。
飛空艇とも違う感じだ。
むしろアニメとかの宇宙船とか、そんな感じに見える。
ぐるりと見回すと、付き添い以外の護衛の人向けに発着港には宿舎みたいなのが沢山ある。
ここで幻獣の森から出てくるまで護衛は待つらしいのだが、大変だなぁと思ってしまうけれど、これも仕事なのだろう。
ここで待つ人よりも、森までついて行く人のほうがより面倒なのかもしれない。
貴族とはいえ子供の世話係も兼ねる訳だし。
なるべく面倒をかけないように、出来る事は自分でしようと決意した。
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