第6話
早めにベッドに入れられた。
お疲れでしょうから、と言われたら確かにそうなのだが。
昼に肉や魚と野菜を結構食べた。
バーベキューみたいに思えて楽しかったのだ。
揚げたての串揚げもあったからお腹は満腹だった。
外で昼食を食べるというのがこの世界で初めてで、浮かれてしまったのは否めない。
だから料理長に言って夕食は少なめにしてもらったのだ。
リゾットと具沢山スープにデザートと紅茶という品数少ないメニューになった。
具沢山スープが、ポトフというか、ミネストローネというか、判断に困るスープだったのも、前世を思い出し懐かしい。
お父様とも一緒の夕食だったが、お父様は難しそうな顔で
「フリードリヒ殿下か……。否、ルディアス殿下という線もある。まあ、どちらもエルザを大切にしてくれそうだし、うーん、我慢我慢。まだお嫁に行く訳じゃないし……」
何かブツブツ言っている、何だろう?
ゆっくり浸かったお風呂も気持ちが良かった。
温泉で、露天もあるのがありがたい。
内風呂も広くて大人でも泳げると思う。
私はそう長風呂じゃない。
あまり長くは入っていられないのだ。
温まれば十分だと思う。
だからサウナとかダメ。
とてもいられない。
今日は月も綺麗だったし、疲れも取れる。
温泉万歳だ。
しかもこの温泉はお肌ツルツルになるし、体も温まる上にケガも治るという良いこと尽くめの温泉なのである。
しかし月といえば、前世いた世界と違い、白、黄、青、緑の四つの月が夜空にあるのは初めとても驚いた。
異世界なのだと実感が湧いてきたものだ。
改めて見ると、とても感慨深い。
ベッドの中で思ったのは、今日のフリード様の事と、ルーの事だ。
帰り際にルーと会ったのだが――――
フリード様も退出して、私も退出する事になって一息ついていたら、ルーが現れたのだ。
「ルー、様。どうしたの、ですか?」
声を掛けたら、何処か冷たい声が返ってきて、驚いたのだ。
「エルザは人の事ばかりな気がする」
「そう? ですか」
溜息を付きながらルーが言う
「私の世話は焼いてくれぬな」
「だって、ルー、様は何でも出来るから私が世話を焼かなくても大丈夫じゃない、ですか。むしろ私の方が迷惑ばかり掛けて申し訳ない気持ちで一杯です」
しょんぼり言ったら
「私は迷惑だと思った事は無い」
そう言ってから、どこか悲しそうな声がした。
「私とて、全てが分かる訳でも、何でも出来る訳でもない」
そう言ったルーの表情は、とても傷ついているように見えた。
何て事だ。
ルーだって出来ない事だってあるのが当たり前だろう。
彼をとても傷つけてしまった。
謝らなきゃ
「ごめんなさい。あの――――」
「どうすれば、そなたは私の世話を焼くのだ」
私の言葉を遮ってルーが言う。
その瞳が狂おしい光を宿している様な、気がした。
ベッドでグルグルと考えている内に気が付いたら朝だった。
いつの間にか寝ていた様で、色々考えても、ルーの言った意味や態度が良く分からなかったのです。
彼を傷つけたのは、確かだと思うのだが……
うん、今度会ったらまた謝ろう。
どういう意味かも訊ねよう。
そう決意したのだが、ルーはというと、はぐらかすばかりで、きちんと教えてはくれなかった。
謝罪も要らないと言うから、どうしたらルーは喜ぶのかと訊いたら、複雑そうな、苦悩するような顔をして答えてはくれなかったのだ。
フリード様が観菊会からしばらくしてプレゼント持参で現れた。
プレゼントは天色の、私の着ていたのより豪華なドレスだったのです。
それと合わせた靴に、ネックレス、ブレスレット、イヤリングのセットだ。
頭が痛くなった。
私は大したことは本当にしていない。
ドレスはダメになったが、それだけだ。
病人だったのだから仕様がないし、気にもしていない。
そう伝えた。
だというのにフリード様の口から真っ先に出たのが謝罪の言葉だったのが頭痛の原因だ。
「気にしすぎ。私は本当に大丈夫。それよりも身体の方はもう良いの?」
「ああ、問題ない。だが、受け取ってくれないのか?」
心配そうで悲しそうな声と表情で言う。
「申し訳ないと思うし、過分だとも思うけれど、無駄にする訳にもいかないし、何より心が嬉しいから頂いておくわね。ありがとう」
そう微笑んで返したら、とても嬉しそうに表情を和らげて笑顔になった。
思わず
「フリード様は真面目で頑張りすぎ。もう少し肩の荷を下ろしたら? 荷物なら、私も手分けして持つから」
驚いた後、不思議そうに、本当に分からないみたいなフリード様は
「何故、荷物を持ってくれるのだ?」
「友達なら当然じゃない。それと、謝罪よりも感謝の言葉の方が嬉しい」
うん、そう思うのだ。
「そうなのか? ……ありがとう」
これまた不思議そうに言った後、おずおずと感謝の言葉を述べるフリード様に
「そうなの! こちらこそプレゼント、ありがとう」
微笑んで宣言しておいた。
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