第39話 エピローグ
エピローグ
椋と出会ってから1年後。
雨に打たれていた花霞に声を掛けてくれ、助けてくれた椋と出会った時と同じ日。
花霞は真っ白なドレスを着て、小さな教会の前に立っていた。
髪は綺麗にアップしてまとめられ、淡い色でメイクされた顔はキラキラと光っていた。髪には大好きな花たちが咲いており、椋を助けてくれたラベンダーも一緒に添えられていた。
「あー。何だか緊張するな。本当に俺で良かったのか?」
「はい。滝川さんは私たちの命の恩人ですし。椋さんは言葉では言いませんけど、滝川さんの事をすごく尊敬しているので、嬉しいと思います。私も父がいないので、こうやって引き受けて貰えてとっても嬉しいです。」
ヴェールの下で微笑みながら滝川を見ると、彼も緊張しながらも笑ってくれていた。
両親がいない、椋と花霞の結婚式。そのヴァージンロードを歩くのを滝川にお願いしたのだ。
椋は恥ずかしくて言えないようだが、父のように慕っていたのが滝川だと花霞は知っていた。そのため、それを提案すると椋は驚きながらも、「いいんじゃないか。」と言ってくれた。
滝川もすぐに承諾してくれたので、花霞は今、滝川の腕を優しく掴んでいた。
「花霞さん。………鑑はしっかり者に見えてどこか危なっかしい。それはあなたがよく知ってる事かもしれない。けど、あいつはかっこいい男だ。信じて、見守って……時には叱ってやってくれ。」
「…………はい。椋さんの事は任せてください。私がしっかり幸せにします。」
「ははは。君は本当に頼もしい人だ。本当に警察に誘いたいものだ。」
「それを言ったら、椋さんに怒られますよ。」
「…………それは不味いな。あいつは怒ると何をするかわからんからな。」
ドアが開く前に、滝川とそんな話しをしていた。
椋が滝川を慕うように、滝川も椋を大切にしているのがわかる。本当の親子のようだな、と花霞は思っていた。
「それでは、ドアが開きます。ゆっくりとお進みください。花嫁様、お幸せに。」
スタッフにそう言われ、花霞は「ありがとうございます。」と、微笑み滝川にエスコートされながら、ヴァージンロードを歩いた。
小さな教会に集まってくれたのは、栞や椋の友人など少人数だった。
椋と花霞の親戚はいない。
けれど、とても温かい和やかな雰囲気で、花霞を迎えてくれている。
椋に「結婚式をしよう。」と、言われたときは迷ってしまったけれど、やはりしてよかったと思えるぐらいに、みんなが笑顔で見てくれた。
いろいろあったけれど、幸せだよ。そう伝えるために、この結婚式はあるのだと花霞は実感した。
ヴァージンロードの真ん中で、シルバーのタキシードを着た椋がこちらを見て微笑んでいる。少し怒っているのは、滝川ととても楽しそうに歩いていたからかもしれない。
「花婿がそんな顔をするな。」
「滝川さんのせいですよ。花霞ちゃんの見ながらデレデレしないでください。」
「しょうがないだろう。こんなに綺麗な人をエスコートしているんだ。おまえには勿体ないわ。」
「………結婚式でそんな事言う人いませんよ。」
ヴァージンロードで喧嘩を始める2人を見て、お客さん達も思わず笑ってしまっている。花霞もクスクスと笑いながら、滝川にゆっくりと頭を下げた。
「滝川さん、ありがとうございます。これからも、椋さんをよろしくお願いいたします。」
「あぁ………2人共、お幸せに。」
「はい。」
花霞は椋に腕に手を添える。
そして、ゆっくりと歩き始める。
1年前、こんな風に椋と結婚するなど思ってもいなかった。
けれど、今では椋が居ない日々なんて考えられるはずもなかった。
椋と出会えて、本当の幸せを知った。
椋と過ごして、大切な人を守りたいと強くなった。
椋と愛し合えて、2人で過ごす未来を見ようと思えた。
「椋さん。私、幸せだよ。」
「あぁ。俺もだ。………あいつにも見せてやろう。幸せな姿を。」
花霞と椋は、2人でゆっくりと歩き続ける。
お互いを守り、そしてキラキラと花が咲くように、笑い合いながら幸せを感じながら、歩き続けるのだ。
(おしまい)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます