第33話 何で?

「ん? あれ、ちょっと待てよ」

 ベンチから勢い良く立ち上がった大智だったが、何故か途端に首を傾げる。

「どうしたの?」

「なぁ、もし今回、剣都がこのまま勝ち進んで甲子園に行ったら、あの約束って、もうそこでおしまい、だよな?」

「え? 何で?」

 愛莉はきょとんとした様子で首を傾げている。

「いや、だって今回、剣都が甲子園に行ったら愛莉は応援に行くだろ?」

「うん。勿論」

 愛莉が真顔で頷く。

「じゃあ、それで剣都が約束を果たしたことになるよな?」

「それはまぁ、とりあえずはね」

「だろ? じゃあ、俺の負けじゃん。チャンスなくなるじゃん」

「だから何で?」

 愛莉は真顔のまま、再び首を傾げた。

 そんな愛莉の様子に大智は困った顔を浮かべる。

「いや、何でって……。愛莉が言ったんだろ? 自分を甲子園に連れて行ってくれ方を選ぶって」

「うん。言った」

「だったら、もし今回、剣都が甲子園に行ったとしたら、愛莉は剣都を選ぶってことだろ? まだ入部して間もないとはいえ、あいつはちゃんとレギュラーで出てるわけだしな」

 だが、愛莉は増々困惑したかのように首を大きく傾げていた。

「え? 俺、何かおかしなこと言った?」

 困惑している愛莉の様子を見て、大智は恐る恐るといった様子で訊いた。

「だって、私は甲子園に連れて行ってくれた方って言ったのよ?」

「いや、だからさっきからそう言って……」

「先にとは一言も言ってないでしょ?」

「は?」

 大智の目が点になる。

「だ・か・ら! 仮に今回、剣都が甲子園に出たとしても、大智にもまだチャンスはあるってこと。高校三年生の夏が終わるまではね」

「え?」

 大智は呆然と愛莉を見つめている。

「いやそれ、ちゃんと剣都にも言ってるのか?」

「剣都なら言わなくてもわかってるでしょ?」

「いやいや。流石に剣都でもそこまでは理解してないと思うぞ。まぁ、今年は先輩たちのチームに加わっただけだから、今回の出場は約束とは関係なしだ、みたいなことは言うかもしれんけど」

「え~、そうかな?」

 愛莉は納得がいかない様子で首を傾げる。

「いや、そうだよ。普通誰だってそう思うだろ」

「大智だけじゃない?」

「いやいやいや。他にも勘違いしてた人いるだろ」

「何処に?」

 愛莉がきょとんとした表情で訊く。

「え? それは……、え~っと……。画面の向こう側、とか?」

「はい?」

 愛莉が顔をしかめて大智を見つめる。

「もう。話はちゃんと聞いとかないと。どこに仕掛けが隠されているかわからないでしょ」

「いや~、全く全く。おっしゃる通り」

 大智はそっぽを向きながら一人頷いている。

 そんな大智の姿を、愛莉は眉を顰めながら横目で見ていた。

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