第19話 オーダー発表
さて、期末テストも無事に終わり、いよいよ夏の選手権大会地方予選が開幕目前!
グラウンドでは試合に向けて汗を流す千町高校のナインの姿がある。
「さてさて、オーダー発表のついでにここいらでメンバーのおさらいもしとこうかね」
三十代男性が言う。
「あ、お久ぶりです。皆さん覚えてらっしゃるでしょうか? 以前、春野大智との対決で腰を痛めて救急車で運ばれた野球部監督の藤原です。ぎっくり腰はすぐに治って復帰したんですが、何せ出番がなかったもので」
藤原が上を見つめる。
ギクリ……。
「ま、それはさて置き、それではメンバー発表、いってみましょう!」
一番 ショート 難波一輝 (一年) 右投げ左打ち
今大会はバスケ部からの助っ人として参加。本格的に練習に参加したのはバスケ部のインターハイ予選を終えてからなので練習不足は否めない。センスは感じられるが全体的にプレーが大雑把。フットワークは良いが捕球動作に雑なところが目立つ。他にもブランクを感じられるとこが多々有る。バッティングは大振りになることが多い。足があるのでミートを心がければ良い一番打者になれるのだが。センスだけに頼らないようにすれば春野や大森にも匹敵する選手になれる可能性を秘めている。
二番 ファースト 上田刀磨 (一年) 右投げ右打ち
中学時代に肩を壊して一度は野球から離れるも、春野からの勧誘を受けて野球界に復帰。今大会は肩を壊したまま利き腕での出場。右の長距離砲。強豪校と対等に渡り合えるポテンシャルは十分にある。試合までにブランクをどれだけ埋められているかが鍵。長打が期待できるのでクリーンナップに置きたいところだが、ブランクとチーム戦力の関係で今大会は二番での出場。来年以降の活躍にはかなりの期待感が持てる。
三番 ピッチャー 春野大智 (一年) 右投げ右打ち
ノビのあるストレートが持ち味のエース。伸びしろもまだまだ有る。持ち球は縦横二種類のスライダー。高校入学後、試合経験がないので、九回を投げ切るスタミナがあるかどうかわかっていないのが不安要素。港東高校に通用するピッチングをどれだけ続けられるかが勝敗の分け目になる。バッティングはピッチングほどではないがそれなりにセンスはある。ただし、チャンスにはめっぽう強い。
四番 キャッチャー 大森哲也 (一年) 右投げ左打ち
小柄ながら全身を使ったパンチのある打球を飛ばす、左の中距離ヒッター。外野の間を抜く二塁打を打つのが得意。春野の中学からの相方。春野の球の凄さで目立たないが、野球IDはかなりのもの。学校の成績はそこそこ。春野のスタミナに不安があることを考えると大森のリードが試合の行方を左右する一つの大きな鍵となりそう。
五番 サード 小林 (三年) 右投げ右打ち
キャプテン。リーダーシップを発揮するタイプではないが、人一倍真面目で努力家。その為、春野や大森ら一年からの信頼も得ている。優秀な指導者や後輩が入って来たことで技術面が大幅に成長。もう一年あればと悔やまれる。真面目で責任感が強いのでプレッシャーに押し潰されないかがやや心配なところ。
六番 レフト 木村 (三年) 右投げ右打ち
副キャプテン。二人しかいない三年生のうちのもう一人。小林の親友。全体的にどれも上手くはないが下手でもない。ミスター器用貧乏。
七番 ライト 加藤 (二年) 右投げ右打ち
当たれば飛んで行きそうな体格とスイングの持ち主。ただ、滅多に当たらない。当たれば儲けもの。
八番 センター 大橋 (二年) 左投げ左打ち
足は速いが非力。盗塁はチーム一上手い。如何に出塁して上位打線に回せるかどうかが活躍の鍵。
九番 セカンド 大西 (二年) 右投げ右打ち
上級生の中では一番守備に安定感がある。バントは部内で一番上手い。一見目立たない選手だが、職人気質の仕事ができる貴重な選手。
「以上九名。一人でも欠けたら不戦敗になってしまうギリギリのチーム。さぁ、次回はいよいよ夏の選手権大会地方予選が開幕! 千町高校対港東高校。紹介は千町高校野球部監督、藤原がお送りしました。では次回、乞うご期待!」
藤原がビシッと何処ともなく指を指す。
「誰に言ってんすか?」
藤原の許にやってきていた大森が訊く。側には大智もいた。
「誰って、そりゃあ……。なぁ?」
藤原が大智に視線を送る。
「ねぇ」
大智は躊躇することなく返事を返した。
「はい?」
そんな二人の様子を見て、大森は首を傾げていた。
「読者の皆さんでしょ」
大智と藤原が大森のことを真顔で見ながら言う。
「いや、だから読者って誰よ? てか、どこで気が合ってんだよ」
大森は呆れたような目で二人を見ながら言った。
夕焼けの空でカラスが鳴いていた。
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