第3話
職員室に戻った俺は、早速今日の日誌と宿題プリントの作成に入った。
「先生のクラスは、また話し合いをされてたんですか?」
一組の、学年主任のおばさん先生がのぞき込む。
「えぇ、おかげで授業の進行が大変ですよ」
へらへらと笑ってみせると、彼女は難しい顔をして隣に座る。
「先生の、生徒指導は本当に熱心ですね」
手のかかる面倒な児童を、俺たちのような若手に全部押しつけておいて、何が指導熱心だ。
だったらもっと、楽なクラス編成にしてほしい。
「まぁ、それが学校教師になった、醍醐味の部分でもありますんで」
俺は、宿題プリントの制作に取りかかるフリをする。
実際はまとめて作ってある俺の秘伝の書を、そのまま印刷して使えばいいようになっているので、それほど手間と時間はかからない。
そういった努力もしないで、生徒指導を放棄しているのは、どっちの方だ。
おばさん先生はまだ、俺の横で何かを言いたげにもぞもぞしているが、それを無視する。
「先生、お呼び出しですよ」
副校長の声かけで振り返ると、職員室の前に俺のクラスの生徒が来ていた。
「先生、ちょっといいですか?」
先ほど殴られた左の頬が、わずかに青く変化している。
「あぁ、いいよ。ちょっと待ってて」
俺はすぐに席を立つ。
助かった。
長引きそうな学年主任の小言から、これで逃れられる。
俺はその子どもを連れて、生徒指導室に入った。
入り口の扉に鍵をかける。
「どうした」
彼はじっと黙ったまま、うつむいている。
「うちのお母さんが、ずっと帰ってこなくて、お父さんもいなくなって。今日は朝から変な人たちがたくさん来て、今日は絶対に学校に行きなさいって」
「うん。よく来たね。えらいよ」
俺は彼の両肩に手を置いた。
しっかりと視線を合わせて、その顔をのぞき込む。
「大丈夫。先生が、ちゃんと守ってあげるからね」
この子どもの相談を受けた時から、俺は心に決めていた。
彼の母親は、昨日遺体で見つかったと、刑事から聞いたばかりだ。
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