その、愛すべき辞典たちよ
大野城みずき
まえがき
ああ、本屋さんが、消えた。街また町の本屋さんが、消えた。近所から、本屋が、消えた。
いつからか、町から本屋さんが消えてしまいました。ちょっとためしに立ち読み……、がもうできません。どんな内容の本か少しだけ見てみるということが、できなくなってしまいました。
大型書店は、中心市街地に店を構えています。中型書店は、車がないとたどり着けません。小型書店は、消えました。
ちょいと近所の本屋さんで立ち読みして、購入候補の本を買うか買うまいか決め、そして、よければその場で買うということが、もうできません。
ウェブ購入のAmazonサイトで、立ち読みができます。Googleブックスで立ち読みができます。けれども、これらには限界がありました。
すべてのページが立ち読みできるわけでないのです。自分の調べてみたいページが公開されているかどうかは、運次第。人それぞれ、求めている知識・情報は違います。公開されているページが、立ち読みしたかった箇所なら、まさに実店舗と同じ立ち読みになるのですが、そう都合よくはいかないものです。ですから、Web上での立ち読みは、当てにならないのでした。
立ち読みせずに、買えばいい。
文庫や新書のような本なら、そういう買い方でもよいかもしれません。昔より値上がりしているとはいえ、なんとか低価格でありますから。
しかし、辞書はそういうわけにもいきません。誤って自分に合わないものを買ってしまったときの被害たるや……、まあ、想像してみてください。金額はもちろん、場所もです。辞書は分厚いですからね。
そもそも、自分に合った辞書の購入はムズカシイ。
大野城みずきは、立ち読みしても、なおそう思います。なぜなら、それは次に示すとおりです。
ある日、辞書を買おうと思い立ったとします。
そうしたらまず、自分に必要なことを、箇条書きにしてメモに書き並べていきます。例えば、対象者は誰か、用例がダッシュの省略表記か、語釈の特徴はどうか、などです。
それから、大型書店に向かいます。そして、辞典の置いてある書棚に立って、あれやこれやと見比べるわけですが、もちろん立ち読みです。ですから、その場で読むことしかできません。つまり、日々使い続けてどうか、というのは想像するしかないのです。おまけに、これまで考えてもみなかった新機能のついている辞典を、その売り場で初めて見つけたときには、目移りしてしまって迷うばかりです。
結局、買わずに終わってしまうこともあります。その場合、後日、やっぱりあの辞典を買おうかなと思ったときは、Webで在庫検索をして、家からいちばん近い本屋さんに行って、もう一度、中身を確かめてそれでよければ、購入に至ります。
こういうわけで、くだんのとおり、自分に合った辞書の購入は、ムズカシイのです。
それなのに、近所の本屋さんが、きれいさっぱり消えてしまいました。みごとに駆逐されました。一掃されました。立ち読みできません。
よく知っているジャンルの場合、どういう本が自分に向いているか、だいたいわかるものです。かつ、日々よく調べているので、どういう種類の本が出版されているかというのも、勘でだいたいわかるものです。ですから、わざわざ大型書店まで足を運ばなくとも、近所の本屋さんで、ちょっと立ち読みしてから買うという手順を、これまで踏むことができました。しかし、それももうできません。近所に本屋さんがないからです。辞典類も例に漏れず。
すべての大人が、車を運転できるわけでありません。また、車を所有できるわけでもありません。地方都市の外れ、また、片田舎、はたまた、運悪く近所に図書館も本屋さんもないという立地条件にお住まいの方々は、うまく世渡りしないと、本の立ち読みができなくなってしまったのです。
値も張るので、辞典はじっくり立ち読みしたい。それも、できるだけ、使い続けている感覚に近い状態で立ち読みしたい。
そう思っている方もいるだろうと、また、自分の備忘録も兼ねて、この大野城みずき、所有している辞典について、あれこれと書いてみることにしました。
執筆の姿勢としましては、使ってみての話でなく、使い続けてみての話を書こうという姿勢です。
では、さっそく筆を執って――、といきたいところですが、大卒でもない大野城みずきごときが、辞典の評価・レビューなどという身の程知らずなことは、とうていできそうもありません。
そこで、日記の形式を借りて、辞典についてのつまらないことを、とりとめなく書き留めることにします。
(クッキー踏ませて小銭でも稼いでやるかというリンクは、ひとつもありませんので、わりとまともな日記になろうかと思います。)
令和元年十一月六日(二〇一九年)水曜 著者記す
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