第82話11月27日くしゃくしゃになった母の目

周囲のみなさんは

歩けるようになるよという

歩けるようになるのは当然だと思っていた俺

歩くが終着点のみなさんと

歩くが出発点の俺現実が見えているみなさんが正解なのだろう

それでも、駄々をこねちゃ、駄目だろうか



実際地獄だよね

人生のイベントを がんばることが楽しいと言う タイプの二人じゃなかったんだ

仕事であったり 趣味であったり

それに夢中になるのが 人生の快楽だったりしたわけで

そういう人間にとっては それらが奪われるということは

人生そのものが奪われるということなんだよ

これからいろんなことを楽しんでいけばいいと言っても

なかなかね

だから色んな話をするにしてもどうしても それらの話題を外してしまう

そうすると話すことなくなるよね


今日は 今後の話を少しした

どういう形で 俺が顔を出せるか と

結局号泣された

土日の交通手段が確保できなくて 平日しか 来れないと言えば、泣くよねそりゃ

土日って空き時間が長いからね

むしろずっとリハビリやっていれば安心だそうだ

リハビリはしんどいけど体が動くので楽しいとのこと

その一言はとても救われる

一方で リハビリがない時間は ひどく寂しくなる

夕ご飯の後7時から8時9時 その辺りは とても孤独で孤独で寂しくて

どうにか 誰かに来てもらいたいとポロポロと泣く

その辺のことを看護師さんに相談したいので 呼んできてというので、少し病室を離れる

看護師さんに話を通してから帰ると ぶつぶつとうわ言

誰かに来てもらいたいよう 誰かに来てもらいたいようと

幼子のように繰り返す

不気味でさえある

このまま精神が 壊れてしまうのだろうなと

その気配がする

くしゃくしゃになった母の目は まともな 潤いをしていない

何かがもう 時間の問題のような気がするんだ

それでも 生きなきゃいけない

それでも生きなきゃいけないなんて

誰が決めたん だろうな  

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