【第23話:穏やかな時間】
ステルヴィオは、宣言通り冒険者ギルドを後にすると、皆で近くの食堂に行き、たらふく飯を食べていた。
冒険者に人気の量が自慢の店らしいが、3人はあっという間に綺麗に平らげ、今は満足気に食後のお茶を飲んでいた。
「はぁ~美味かったなぁ♪」
「ほんとだね~! ネネネ、またこの店きたいにゃ!」
「トトトもにゃ~!」
3人が満足そうにそう言うと、この店の年嵩の女性が嬉しそうに話しかけてきた。
「それは嬉しいねぇ。あんたら凄い食べっぷりだったけど、うちのご飯はそんなに美味かったかい?」
その女性の問いかけに、ネネネとトトトは少し被せ気味に、
「「うまかったにゃー! もっと食べるか迷ってるぐらいにゃ!」」
双子らしく綺麗にハモってそう答えた。
「これはたまげた。二人はまだ食べれるのかい?」
獣人の双子の幼女と普通に会話を続ける女性。
この国は亜人の差別が色濃く残る国だが、その年嵩の女性は全く気にしていないようだった。
「ネネネちゃん、トトトちゃん、良かったら私の少し食べる? 私にはちょっと量が多すぎて……」
アルテミシアは別に小食という訳ではないのだが、本当にここの食事は量が多く、少し食べきるのに苦戦していた。
「「食べるにゃー!!」」
両手にフォークとナイフを持ってはしゃぎ、アルテミシアに余った料理をよそって貰うのを待つ二人は本当に嬉しそうだ。
獣人はその高い身体能力と比例するように食事の量も増えると言われているが、まさにその通りなのだろう。
アルテミシアに促され、もう一度「頂きますにゃ!」と言って食べ始めた二人は、余裕をもって平らげそうだった。
「凄い子たちだねぇ。あんたよりずっと大きい冒険者でも腹いっぱいになるようにって、出してる料理なのに……」
その様子を驚いた様子で見ていた年嵩の女性に、ステルヴィオは当然だと答える。
「まぁこいつらは、その分すげぇ運動するからな。これぐらい食べるさ。さっきも凄い運動してきたとこだし、その後はいつもこうやって食べたいだけ食べさせてるんだ」
普通
「え? あの子たちを、あんたが育ててるのかい?」
しかしその年嵩の女性は、
「ん~、もちろんオレ一人でじゃないぜ? そこのゼロにも手伝って貰ってだけどな。こいつら両親亡くしてるし、放っておけるわけないじゃん」
何でもない事のようにそういうステルヴィオに、女性は感心したように頷くと、
「あんた気に入ったよ! またうちにおいで! 量だけならいくらでもおまけしてあげるから!」
そして「まだこの街にいるんでしょ?」と尋ねる。
「あぁ、また来るから美味しいご飯いっぱい食べさせてくれよな!」
その気持ちが嬉しくて、ステルヴィオも嬉しそうにそう答えたのだった。
~
その後、食堂を出たステルヴィオたちは、あらためて宿をとるため、さっきの年嵩の女性に勧められた宿に向かって歩いていた。
だが、お腹が膨れて満足そうに歩くステルヴィオたちと対照的に、不満そうにしている
『ねぇねぇ~』
『……ねぇ……』
『俺の飯はどうなってんだよぉ!』
「わ~かってるよ……さすがにここで魔界門出すわけにもいかねぇだろ? そもそも高位魔物なら魔力さえ供給受けてりゃ飲まず食わずでも死なねぇだろ……」
ケルは本来の姿で食事をしたがるのだが、もちろん街でそんな事はできない。
魔界門を手に入れたので、その中でならそれも可能だが、そもそも魔界門を回収した事を伏せてあるので、それも出来ないだろうと言外に言っていた。
それにステルヴィオの言うように、確かに高位魔物であるケルなら、数十年単位で何も食べなくても全く問題はない。
ハッキリ言ってケルはステルヴィオと出会うまでは、食事というものを楽しんだことも無かったのも事実だ。
だけど……、
『そんなの横暴だぁ! それならそれで、ケルはご主人様が虐待するって訴える用意があるよ~!』
『……虐待・ダメ・絶対……』
『そうだぜ! ご主人様がそのつもりなら、こっちだって出るとこでるぜ!』
そもそもどこに訴え出るつもりだと言うのは置いておくとして、一度、嗜好品としての食事を覚えたケルは、そんな生活に戻るつもりは毛頭無かった。
「うるせぇ! 後でちゃんと何か食わしてやるから、今はこれでも食っとけ!」
ケルの事を一見邪険に扱いながらも、空間から干し肉を取り出して、投げつけるステルヴィオ。
ただ、投げる方は投げる方で全力投球だし、受ける方も受ける方でいとも簡単に口でキャッチしてみせたり、周りの者たちはその光景を目を見開いて見ていたのだが……。
「ふふふ。ケルとステルヴィオ様は本当に仲が良いですよね」
そんな二人を見て嬉しそうに微笑むアルテミシアだったが、指摘されるのは嫌なのか、一人と一匹はお互いそっぽを向いて競うように先に歩いて行ってしまった。
「まったく……ステルヴィオもケルも、肩に力が入っていない事を褒めれば良いのか、抜けすぎていると注意するべきなのか悩みますね」
その姿を見守っていたゼロがそっと呟く。
「良いんじゃないでしょうか」
それに対して声をあげたのは、またアルテミシアだった。
「いつだってステルヴィオ様は、ステルヴィオ様でいて欲しいです。ステルヴィオ様がステルヴィオ様でいてくれるから、私たちはいつも通りでいられるんだと思うんです」
「アルテミシアは本当にステルヴィオの事を尊敬しているのですね」
ゼロのその言葉に、振り向きながら笑顔で「はい!」と答えるその姿は、歳相応の少女のものだった。
「「
ただ、獣人の幼女二人には、その言葉の意味を理解するのは、ちょっと難しかったようだ。
「尊敬って言うのはね……」
こうして、ほんのわずかな休息の時は、和やかに過ぎていったのだった。
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