【第21話:報告と知らせ】
「ほ、本当なのか……」
一通りの話を聞き終わった後、ギルドマスターのメルゲンが発する事が出来た言葉は、その一言だけだった。
「し、信じられん……」
「……え……」
そして……ギルドセイバーの男と、職員の男も。
いくら丁寧に
魔王門が開かれた辺りまでは、何とか我慢して話を聞いていたメルゲンたちだったが、たった5人と1匹で魔王軍と戦い始めた話をし始めた頃には、もう驚きを隠せなくなっていた。
それでも勇者レックスの「はいはい。最後までまずは話を聞いて下さいね」という言葉に、メルゲンが「ぐぬぬ」と唸りながらも黙って話を聞いてくれたお陰で、15分ほどで話し終わる事が出来たのだが。
そして話が終わり、ようやく出た言葉が先の言葉だった。
「本当ですよ。まぁ戦いに関しては、僕も実際に目にしていたわけではないですけど、戦いの痕跡は確認しましたから。あれは間違いなく数千を超える数の魔物がいて、それらと争った跡でした。いえ……蹂躙した跡と言った方が良いかな?」
しかしステルヴィオは、レックスにした説明の中で、一つだけ嘘を吐いていた。
それは、魔王門を回収したのではなく、破壊したという事にして説明した事だった。
「魔王門を破壊したって話も、どうやって破壊出来たのかはステルヴィオが教えてくれないのでわからないけど、元々門があった場所付近は、特に破壊の限りが尽くされていて、門が跡形もなく無くなっていたのは事実ですよ」
開き直ってそう話す勇者レックスに、メルゲンがいったい何から問いただせば良いのかと頭を悩ませていると、扉を激しくノックする音が響いた。
「な、なんだ! 大事な話をするから、取次ぎはするなと言っておいたはずだ!」
「ひぃぃ!? で、でも、急ぎなんです!」
自分の思考を邪魔され、少し苛立たし気に怒鳴るメルゲンを宥め、ギルドセイバーの男が扉を開けて対応する。
「ギルマスは今ちょっと取り込んでいるんだ。いったいどうしたんだ?」
扉の向こうにいたのは、新人くんの代わりにステルヴィオの対応をした受付嬢のサリーだった。
「た、大変なんです! 『古都リ・ラドロア』の冒険者ギルドから、緊急の連絡が入って……」
その慌てように、ようやくただ事ではないと思い至ったギルドマスターのメルゲンが、
「緊急の連絡って……まさか、魔導サインか?」
と、そう尋ねる。
魔導サインとは、遠隔地との情報伝達手段の一つで、魔道具の石板上に描いた文字や絵を、指定した別の石板に同じものを再現して情報を届ける事ができるというものだ。
ただ、その文字や絵は、非常に稀少な鉱石を用いて描く必要があるため、軍事や街の存続レベルの緊急の事案が発生した時にのみ用いられる最終手段とされていた。
その最終手段とされている魔導サインを用いてメッセージが届けられたため、受付嬢のサリーは慌てて飛んで来たのだ。
「そそ、そうなんです! ですから、至急ギルドマスターに確認して頂きたくて! 被せてあるカバーを取って良いか判断がつきませんし!」
「ちっ! 仕方ない。いったい何が起こったって言うんだ……。すまないが、お前たちは少しここで待っていてくれ。続けざまで悪いが、場合によっては第一級指名依頼制度を発動させて貰うかもしれん。あと、お前らとレックスたちも一緒に来てくれ」
メルゲンはそう言うと、ステルヴィオたちを残して、慌ただしく部屋を出ていってしまったのだった。
~
「アル~、第一級指名依頼制度って何だっけ?」
皆が部屋を出ていったあと、ステルヴィオがアルテミシアにそう尋ねる。
「えっと……確か、一定の条件を満たした状況下においてのみ、Cランク以上の冒険者に対して半強制的に依頼を受理させる事が出来る制度だったかと思います」
「へ~、そんな制度があるんだな」
「一応正当性のある理由がある場合は断る事も出来たかと思いますが、その場合はかなりのマイナス査定が付くのだとか、説明を受けた気がしますね」
実際はステルヴィオもCランクに上がる際に説明を受けているのだが、微塵も記憶に残っていないようだ……。
「ところで、ゼロ……どう思う? 思っていたよりかなり早いけど、やっぱり……
静かになった室内で、ステルヴィオがゼロに向かってそう話しかける。
ステルヴィオのその質問に、他のメンバーが息を呑み、今まで少しだらけていた部屋の雰囲気が急に引き締められた。
「そうですね。こちらの予想では1ヶ月以上先だと思っていたわけですが、間違いないでしょう」
そう答えるゼロの表情にも、珍しく少し焦りの色が浮かんでいた。
「とうとう動き出したのですね……」
「ネネネもトトトも強くなったから大丈夫にゃ!」
「もう後れは取らないのにゃ!」
そして、不安そうに呟くアルテミシアに、気を吐くネネネとトトト。
『だけど、準備はしっかりしていった方が良いね~』
『……強い敵と書いて
『まぁ確かに奴らは強敵だぜ……』
「強い敵と書いて強敵って普通だな。おい」
しかし、そんな空気がいつまでも続かないのがこのメンバーたちだった。
「はぁ……ステルヴィオ様は凄いですね。私は
「「ヴィオは凄くないにゃ! 何も考えてないだけにゃ!」」
「うっせー! そう言うとこだけ綺麗にハモるな!」
少し真面目な雰囲気を更にぶち壊してじゃれ合いを始めるステルヴィオと、ネネネ、トトトの3人を見て、アルテミシアは少し表情を緩めて苦笑する。
「まぁ、怖いと思うのも別に良いのではないですか。無理に強がらなくても。ですがアルテミシア。必要以上に恐れる必要はありません。
「は、はい! わかりました」
ステルヴィオは、ゼロの言葉を受けて少しだけ自信を取り戻したアルテミシアに、そっと優しい視線を向ける。
そして今度は、表情を一転して眉根に皺を寄せると、天井を仰ぎ見て、
「でもなぁ……『古都リ・ラドロア』の冒険者ギルドから緊急の連絡が入ったって事は……もう間に合わねぇよなぁ~」
そう言って、少し悔しそうな表情を浮かべるのだった。
皆にその表情が見えないように……。
この日、その長い歴史を讃え『
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