【第8話:調査依頼】
「昔、その森に魔王が魔界門を開いて、多くの魔物が放たれたからですね」
ゼロの言葉に、ギルドマスターのメルゲンが感嘆の声をあげる。
「ほぅ。良く知っているな。この国でも知っている者はわずかなはずなのだが?」
その門を開いた本人なのだから知っていて当然である。
「……お前なぁ……」
驚きの視線に混ざって、またお前かと呆れた視線を送るのはもちろんステルヴィオなのだが、ため息一つ吐いて今更かと聞かなかったことにしたようだ。
メルゲンは、何かの文献で読みましたと飄々とこたえるゼロに感心しつつ、話を続ける。
「その魔王の送り込んだ魔物の大軍のせいで大規模な魔力汚染が起きてな。その影響であの森には継続的に多くの魔物が発生するようになったらしい」
正確には単に魔物の大軍が集まっただけではそのような事は起きないのだが、この国の歴史学者の間では、それが定説とされていた。
「まぁとにかく、大量の魔物がわくようになったわけだ。そうすれば、今度は自然とその魔物を目当てに多くの冒険者が集まるようになる。そして、長年にわたる冒険者と魔物との戦いの結果、そこには数々の冒険譚が生まれ、吟遊詩人によって世界中に『冒険の街ヘクシー』の名が知れ渡る事になったんだ」
魔物というのは、魔力汚染された
しかし、本当はこことは違う世界があり、そこで生まれたモノが、魔力汚染された地の歪みを介して這い出して来ているだけで、魔力汚染された土地から生まれているわけではない。
だが、ギルドマスターであるメルゲンですらその事実は知らなかった。
「だが、その
ステルヴィオのその直接的な問いかけに、メルゲンは顔を歪める。
「答えにくい事を……だが、その通りだ。ここの冒険者ギルドの依頼のほとんどがサグレアの森に発生する魔物の討伐依頼で成り立っている。そして、この街はその魔物の素材と、冒険者が街に落とす金でまわっている」
冒険者ギルドのギルドマスターとしては、色々答えにくいところなのだろうが、実際問題、魔物が発生しなくなれば、この街が衰退するのは間違いないだろう。
「別にメルゲンさんが恥じるような事でもないさ。あの名高い迷宮都市だって似たような形で成り立っているそうですから」
そしてその事情を汲み取り、肯定の意を唱えたのは、意外にも勇者のレックスだった。
勇者と言うのはもっと頭の固い奴が多いのだが、レックスはステルヴィオが思う以上に柔軟な考えの持ち主のようだった。
「まぁ世の中、綺麗ごとだけでは片付けられん事の方が多いのでな。勇者様にそう言って貰えるのは助かる。要するに魔物が発生してくれないと、この街としてもギルドとしても困るわけだ。だが……その魔物が数週間前からほとんど発生していないだろう事が確認されたのだ」
しかし、3人の会話を頭では理解できても、納得ができない
「あの……魔物が発生しなくなることは、そんなに問題なのですか?」
純真なアルテミシアの疑問に、勇者レックスが苦笑いを浮かべ、
「大きな視点で見れば確かに良い事なのでしょう。ですが、小さな視点で見た場合には複雑なのですよ。特にこの街の冒険者たちや、その冒険者たちを相手に商売をしている人たちにとっては死活問題なわけです」
そして「この状況が長引くとね」と伝えると、少し申し訳なさそうに口を閉ざした。
ステルヴィオたちの中では一番常識的なアルテミシアだが、小さい頃に勇者として召し抱えられたために、あまり庶民の生活などについては詳しくなかった。
「しかし、そういう事だったんだな。どうりでこんな時間にギルドに冒険者が溢れているわけだ」
「やっぱり気付いていたか。それで、ようやく本題なんだが……ここにいる勇者レックスのパーティーと合同で、ある事を調査して欲しいのだ」
そう言ってメルゲンは、ステルヴィオたちを真剣な眼差しで見つめる。
「ん~? 魔力汚染の調査と言っても何か手がかりがあるのか? そもそも魔力汚染がただ単に弱まってるとかだと、原因らしいものなんて何も無いのかもしれないぞ?」
ステルヴィオとしては、この国の勇者と接触するつもりだったので断る気はなかったのだが、ナニカの調査と言う漠然とした依頼は、やたらと時間がかかる場合があるので、少しでも情報があるのなら聞き出しておきたかった。
「いや、調査するのは魔力汚染についてではない」
しかし、魔力汚染の調査だとばかり思って尋ねたステルヴィオのその問いは、どうやら間違っていたらしい。
「え? だとすると、何の調査なのですか?」
アルテミシアも、話の流れ的に魔力汚染の調査だとばかり思っていたため、思わず聞き返していた。
しかし、暫くの沈黙の後、メルゲンは悩まし気にステルヴィオたちを見つめ、
「……すまないが、ここから先を話すには、依頼を受ける了承を貰ってからしか話せない。何も聞かずに受けてくれないか?」
そう言って、頭を下げた。
そして、その様子を黙って見守っていた勇者レックスが、何か助け船をだそうと口を開きかけたその時……、
「いいぜ。その調査依頼受けよう」
ステルヴィオがあっさり依頼を受けると即答したのだった。
説得しようと思っていた所、あまりにもあっさりと引き受けたステルヴィオを見て、レックスは心底楽しそうに、
「僕が言うのも何だが、ステルヴィオは変わっているね」
そう言って、堪えきれずに声を出して笑い出した。
すると、「変わっている」のワードに激しく反応する
「うん! ヴィオはすっごい変わってるにゃ!」
「そうだね! ヴィオ以上に変わってる人をトトトは知らないのにゃ!」
「確かに、ステルヴィオ様は良い意味で変わってますよね」
幼女二人と美少女一人の間髪入れない賛同に、顔を引き攣らせるステルヴィオ。
「お、お前らな……」
「まぁ事実変わっているのですから。ステルヴィオも自分でそう言ってたではないですか。あれは5歳の時でしたか?」
「うおぉぉ!? もういい! とにかく! 依頼は受けるから話を進めてくれ!」
そして、反論しようと口を開きかけたステルヴィオを、一刀両断するゼロの言葉でようやく話が進む。
「あ、あぁ、そうさせて貰おう……」
こうしてステルヴィオたちは、勇者と共に
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