第68話

林達が松明を掲げ、明るくしてくれている中、来た時と同様に探し始めた。


来た時は全く見つからなかったポイントは、糸も簡単に見つかった。


「ここだ!」


亀一の叫びと同時に亀一が消え始めた。

龍介達は亀一を追いかけながら、林達に礼を言い、そして消えた。


「なかなかのワッパであったのう…。特にあの龍と呼ばれておったワッパ。若に言った事もなかなかじゃ。家臣に欲しいわ。」


林はそう言って寂しそうに笑うと、家臣達を促して館に戻って行った。




龍介達が目を開けると、そこは小原家の裏の林だった。

時計も、どこにかざしても普通に動いているし、時間はタイムスリップした時の時間になっていた。


「やっぱ望まれてタイムスリップなんてあるんだね…。やる事やらないと帰って来れなかったんだ…。」


朱雀が言うと、理論的に納得出来ないからか、不機嫌そうな亀一がジーンズの土を払いながら立ち上がった。


「全く…。変な人助けしたもんだ。」


寅彦が、まだそこら中に時計をかざしているが、もうポイントは消え去ってしまった様だ。


悟が神妙な顔で、龍介に聞いた。


「加納、山中家は無くなってるってどうしてなくなったったの…?」


「さすがに資料はあまりなくて、細かい経緯は俺もよく分かってない。だけど、大炊助には娘が1人生まれただけだったみたいなんだ。」


「貞心さんとの間に?」


「そうだと思う。

その娘が大炊助の死後、自殺しちまって、貞心さんは寺に入ったんだ。

大炊助は若死にっていうからどれ位の年か分からねえが、娘が自殺する年齢っていうと、俺たち以上だろう。

まあ、娘が自殺したのが13と考えると、生まれたのが、大炊助が15歳くらいなのかな。

で、当時の平均寿命から察する若死にっていうのも考慮すると、28か、30そこそこ位で死んじまったのかもな。」


「可哀想だね…。病気だったのかな…。」


「分からない。」


「それで山中家の血筋は絶えちゃったのか…。」


「そういう事。

貞心さんを守り続けた家臣の井上さんと福田さんて人の子孫はずっと残ってて、この辺の人の苗字は、つい最近まで井上さんばっかだったらしい。」


「ふーん…。」


「行ってみっか。天応院。ここから20分もあれば着くぜ。」


みんな気分的に直ぐには帰りたくもなく、また、関わりを持った人の行く末も悲しいものであった為、お参りしたいという思いがあったのかもしれない。


龍介の道案内で、天応院の中の山中貞心神社にお参りをしに行った。


「けどさあ、これ、結果論かもしれないけど、悟のせいじゃないんじゃない?今回のタイムスリップは。」


朱雀の言葉に反論しようとする亀一を、龍介が止めた。


「それは言えてる。今回、佐々木のせいで何か起きた訳じゃない。必然だ。」


「でしょう!?それに悟だけじゃなく、龍も居ないとダメだったんだよ。

こんな細かい歴史、学校でだってやらないもん。

龍が居なかったら、助けてあげるのも拒んで、山中さんちはお取り潰しになっちゃったんだろうし。

それに、大炊助さんの説得だって、龍がしたんだから。」


亀一が困り顔で、苦笑しながら朱雀に聞いた。


「そんで?龍への接近禁止令は解除しろってか。」


「そう!やっぱ楽しいでしょ!?5人の方が!」


何故か青くなる寅彦。


「そ、それは困る…。真行寺さんから貰った半年分のギャラが…。返すのはもう無理だし…。」


やはり何か貰っていた様だ。


龍介も苦笑しながら寅彦を睨んだ。


「寅あ~?返しとけ~?」


「ええ!?もう俺のダイナに組み込んじまったんだよ!それに、これならマイマシンで組長の所のアルバイトだって出来るレベルなんだよおお~!!。」


「けど、俺、なんか気分悪かったんだよ。佐々木を避けるとかってさ。」


「そうこなくっちゃ!流石龍!」


龍介はクスッと笑うと、柏手を打ち、手を合わせた。

5人揃って手を合わせ、少し気持ちが晴れた様な気がした。




「しかし、なんでお前さんの元服式は今なんだ?数えでいったって14になってからじゃねえのか?」


泣きながら、真行寺に貰ったらしいパーツを取り外している寅彦の横で亀一が聞くと、龍介が寅彦の手を掴んで止めながら言った。


「寅、うちのお父さんは、んなケチ臭え事言わねえし、お父さんが帰って来んのは、冬休みになってからなんだから、どっちにしたって、外すのはまだいいよ。

元服式は確かにそうなんだが、この背の伸び方の勢いで行くと、鎧がつんつるてんになるんじゃねえかという事で。

お父さんも早めたらしい。」


「ああ、そういう事か。」


寅彦は涙目で龍介を見つめた。


「いいかな…。ギリギリまで共に居ても…。」


「いいんじゃねえか…?多分お父さん、返せなんて言わねえよ。」


「うう。良かった…。」


ダイナプロを抱きしめて頬ずり…。

相当愛しているらしい。


「寅、鸞ちゃんとどっちが大事なんだ?」


亀一がからかって、冗談で言ったのに、うんうん唸って、真剣に悩んでしまった。


「み、見なかった事にしようぜ…、きいっちゃん…。」


「お、おう…。そうしとこう…。」


亀一は気を取り直す様に、龍介を促した。


「そろそろ準備した方がいいんじゃねえか?今日も唐沢とコンサートだろ?」


「おう。そうだった。」


着替えに行ってしまった龍介の後ろ姿を見ながら、亀一は溜息混じりに言った。


「唐沢、相当空回りしてんだろ?大丈夫か?アイツ。」


「鸞の話だと、龍がその辺りが超鈍ちんだってえのは、無視する事にしたらしい。」


「そんじゃ素直に喜び噛みしめるだけにしてんのか。」


「そう。龍って呼ぶ事になったし。あのさ、龍って、ほら、蜜柑とか苺が洒落込むと、可愛いなとか言ってやんじゃん?」


「ああ、そうだな。」


「あの感覚のまんま、唐沢にも言うらしいんだよ。」


「おま、おま、お前、そんなキザな事…。」


「って感覚無えんだよ、アイツ。」


「それは罪作りだろお?!」


「だよなあ。段々話聞いてる鸞の方が切なくなってきたってよ。」


「俺も触り聞いただけでも切なくなってきたぜ…。」


「本当、誰に似たんだよ、あの鈍さと疎さ。」


「分かんねえなあ…。要するに興味無えんだろうけどな…。」


「あのさ。龍って先生と2人だけでキャンプ行く時もあったじゃん?」


「おう。」


「あん時、滝浴びして来たって言ってたろ?」


「ああ、レジャーがあんだなってちょっと驚いたが。」


「違うんだよ、きいっちゃん。アレ、遊びじゃねえんだ。」


「え?じゃあなんだよ。」


「煩悩を洗い流すって、修験道みてえな感じの…。」


亀一は真っ青になって、思わず寅彦の両肩を掴み、ガシガシと揺さぶってしまった。


「ぼ、煩悩って、先生はもういいかもしれねえけど、龍は煩悩消しちゃマズイだろうがよおおおお~!まだ13だぞおおお~!」


「だからこういう不具合が出てんじゃねえかって、この間、真行寺グランパが先生の事責めててさあ!」


「そら責めるわああ~!」




煩悩を洗い流してしまった男は、今日も瑠璃に可愛いねと言い、きっちり紳士的にエスコートして、手を繋いでチェロのコンサートに行っていた。


「龍。」


と、うっとりと呼べば、


「何?」


と微笑んでくれる。

気分は恋人同士。

気分だけは。


ーそう!例え気分だけでもいいのよおお~!!!


龍介が言っていた足のワイズも測って貰い、やはり日本人サイズでは無く、Bという龍介やしずかと同じワイズだったので、しずかがついでに瑠璃の分の靴も一緒に頼んでくれるようになったので、もうよろける事はなくなったのだが、手はそのまま繋いでくれている。


瑠璃も、ひょっとしたら、苺や蜜柑と同じ扱いをされているのではという疑念が無いわけでは無かったが、そんな事を気にしていたら、龍介を好きでいる事など出来ない。


ーいいの!これで!深く考えないの!


龍介のお陰で、大分強くなった瑠璃だった。








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