第51話
龍介が茂みに飛び込むと、悟は丸で恐竜の様な、大きなトカゲらしき物に、足を舌で掴まれて引き摺られていた。
体長は、ほぼ龍介位だから162センチはある。
コモドドラゴンに近い様な感じで、皮も硬そうだ。
龍介はフランスに来る前の誕生日に龍太郎から貰った、剣の柄だけの物を出し、ボタンを押した。
ビーンという音と共に、レーザーの様な剣が出る。
これは人間の身体など容易く真っ二つになってしまう物だそうで、貰った方も、なんて物騒な物をと思ったが、龍太郎がやたらと真剣な顔でいつも持ってろと言うので、持って来たが、まさか使う事になるとは思わなかった。
多分、この大きさのトカゲ擬きに太刀打ち出来るのは、これしか無い。
龍介は悟の足を掴んでいる舌を斬り落とした。
大トカゲはのたうち回っている。
「うわ、本当に凄えな、これ…。」
感心してしまったが、直ぐに我に返って、呆然と転がっている悟に怒鳴った。
「早く逃げろ!」
「あ、は、はい!」
2人で逃げようとしたが、地中から素早い動きで出て来た2匹に、今度は2人共足を掴まれてしまった。
龍介は、悟の方のトカゲの舌から斬り、自分の足を掴む、もう1匹のトカゲの舌を斬りながらまた言った。
「早く行け!」
悟はその場から逃げたが、龍介が来ない。
龍介は、更に穴から出て来たトカゲ数匹に腕まで掴まれてしまっていた。
「加納!!」
「早く逃げろ!」
トカゲに囲まれてしまい、もう姿は見えず、声しか聞こえない。
そこへ龍彦としずか、亀一が到着した。
「龍介ええええ~!」
龍彦の叫びも虚しく、龍介は穴に引きずり込まれてしまった様で、龍介に斬られたトカゲも含めて、誰も居なくなってしまった。
龍彦は止める間もなく、直ぐさま龍介を追う様に、穴に飛び込んだ。
冷めた目で穴を覗き込むしずか。
「まったくもう。銃しか無いくせに、一緒に飛び込んじゃってどうすんのかしら。大丈夫~!?あと5分は持つ~!?」
暗がりの穴の中で、龍介のレーザーソードの光と、龍彦の拳銃の発砲音が聞こえる。
「5分なら持つと思う!ごめんね、しずか!」
「はいはい。じゃ、きいっちゃん、一回車戻るわよ。」
亀一はまたしても苦手な謎の生物との遭遇で、ボーっとなっていたが、我に返った。
「あ、ああ…。」
そして、しずかは悟を振り返って見た。
無表情なのが、却って怖い。
「怪我は無いかしら?」
「は、はい…。お陰様で…。」
「あなた足速かったわね?きいっちゃんと車に行って、きいっちゃんが出す物、一緒にここに持って来て。」
「はい。」
「きいっちゃん、私の車のトランクに、ロープと、龍太郎印って書かれた大きなジェラルミンケースがあるわ。それ持って来てくれる?」
「了解。」
車に走りながら、悟は思わず亀一に言った。
「加納のお母さん、普段あんなに表情豊かで可愛いのに、無表情になると、あんな怖いんだね…。」
亀一がニヤリと笑った。
「ありゃしずかちゃんが最大級に怒ってる時の顔だよ。」
「ーえっ!?」
「眉間に青い血管出てたし。こめかみに青筋立ってたし。相当怒ってんの、抑えてると、ああなる。」
「やっぱり、怒りの矛先は…。」
「勿論お前に決まってんだろうがよ。覚悟しとけ。」
「うう!?」
その頃、龍彦は龍介の盾になりながら、銃でトカゲの急所を狙って撃ち、龍介は盾の龍彦が邪魔ながらも、トカゲをレーザーソードで斬り倒していた。
しかし、こんな小さな茂みの下には、驚く程広大な巣穴が出来ていたらしく、トカゲは無尽蔵に出て来ては、2人に襲いかかって来る。
「お父さん、やっぱ俺達、餌にと思われてんのかな。」
「だろうな。」
「グランパにサンプル持って行ってあげなくていいのかな。」
「サンプルっつったって、こんなのどうやって民間機で運ぶんだよ。ここにも親父みてえのは居んだろうから、京極に後で連絡させときゃいいさ。」
「ああ、そうなんだ。」
こんな会話も出来る程慣れてきてしまった頃、亀一達が到着した。
「ありがと。きいっちゃん、ロープで龍達を引き上げたら、一斉に退避よ?」
「はいよ。」
今度は下の2人に叫ぶ。
「ロープ垂らすわ!援護するから登って来て!」
先ず龍介が、下で龍彦の援護、上からしずかの銃撃の援護を受けながら上がって来た。
直ぐに亀一と龍介が、銃で上から援護し始めると、しずかは龍太郎印と書かれた、大きなジェラルミンケースを開け、見た事も無い、おかしな形の小型のランチャーの様な物を出した。
龍彦が無事に上がると、
「子供は退避!」
と有無を言わさぬ迫力で叫んだので、龍彦を残して、子供達は退避した。
そして、しずかは、穴の中に向けて、その小型ランチャーを撃った。
シューッという音と共に、バリバリだかバラバラだか、何かが一斉に燃える様な音がして、辺りは静まり返った。
小型ランチャーが入っていたケースの中から、今度は目玉親父の様な物を取り出し、穴の中に投げると、リモコンを操作。
その操作盤にはモニターが付いている。
目玉親父はカメラの様だ。
子供達も戻って来て、一緒にモニターを覗く。
トカゲは影も形も無い。
あるのは、大量の灰だけだ。
「ふんふん。流石龍太郎さん。」
「ーしずか…。今の新作のIH砲か…?」
龍彦が若干青ざめた顔で聞くと、笑顔で答えた。
「うん!使っちゃった!」
「つ、使っちゃったって、海外で、しかも俺は殆どコネの無いフランスでかよ!?しかもこんな観光地で!?どうすんだあ!」
「だってさ…。ストレス溜まってしまったんだもの…。」
すると龍彦はしずかの頬に手を当て、ニヤリと笑った。
「それもそうだな…。京極にこれくらいの処理させたって、お釣りが来るぜ…。」
「うん。諸々スッキリしたわ。」
そう言うと、龍彦に抱きつくしずか。
京極の仕事とは、仲間に遺恨を残すものなのか…。
「良かったわ、無事で。」
そして、またちゅー!!!なので、しずかの怒りは収まったのかと思い来や、ちゅー!!!が終わると、仲良くギロリと悟を睨みつけた。
「悟君、あなた本当に佐々木君そっくりね。
なんで集団行動から離れて勝手な行動すんのよ。
1人じゃトラブルに対処する事も出来ないくせに、冒険も大概にしなさいな。
冒険したいなら、スキル積んで、人に迷惑かけない様になってからにしなさいよ。」
「す、すみません…。」
しずかの激怒顔も相当怖い。
目が殺意で満ち溢れているかの様だし、全て正論である。
もうぐうの音も出ない。
そして更に龍彦だ。
こちらは龍介と同じお怒り顔である。
こめかみに青筋が立ち、目は殺気全開。そして不敵な笑みを浮かべている。
その上、こちらは、龍介よりも経験は積んでるし、年もとっている。
整った顔立ちや、優しげな物言いの為、あまり気にならないが、元々は、龍介の目つきの鋭さすら遠く及ばない様な、眼光鋭い人である。
龍介の迫力の比では無い。
その人が全身全霊で怒って、悟を見据えているのだから、生きた心地がしないを通り越して、もう死んだ方がマシ位。
「こんな突然変異の大蜥蜴、今迄発見されたなんて、京極にもここ来る事言ったけど、京極も掴んで無かった。
つまり、こんな立ち入り禁止の茂みの中になんか足を踏み入れなきゃ、遭遇しなかったって事だ。
君はトカゲ達の縄張り荒らしと見なされ、襲われたんだ。」
「はい…。すみません…。」
「しかも、結局助けるのは俺の息子…。この際だから、はっきり言う。君ね…。」
ズイッと悟に寄り、目を見据えて、ニヤリと笑った。
「加納家出禁は勿論。龍介達に半径10メートル以上接近禁止だ。見てるからね。俺。」
悟はあまりの恐ろしさに貧血を起こして倒れてしまった。
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