龍介くんの日常

桐生 初

第1話

2011年 3月


とある山の中の小さな家で、熊が10匹ほど、椅子に座って、黒板を見ている。

前に立つのは、白衣の男性。

黒板には、あいうえおが書かれている。


「今日は字を覚えようね。これが、『あ!』です。ありがとうの『あ』だね。覚えたかな?」


頷く熊達。


「次は『い』です。いっぱいの『い』だ。いっぱいの意味は覚えてるかな?例えば、お肉がいっぱいだったら、嬉しい?それとも、悲しい?じゃあ、イチロウ、悲しい?」


イチロウと呼ばれた熊は、首を横に振った。


「じゃあ、嬉しい?」


イチロウは嬉しそうに頷いた。




所変わって、ここは、米軍の秘密研究施設。

物々しい警備の中、大量のパソコンに繋がれた、屋根とタイヤが無い様な乗り物に、男性が乗っている。


「タイムマシン実験開始。カーター少尉、無事到着したら、ロシアのα文書を持って帰って来い。」


乗り物に乗った男性は敬礼し、カウントダウンが始まり、0になった時、目を開けていられないような眩しい光と共に、男性が消えた。


ところが暫くして、ある研究員は、自分が気絶するかの様に眠っていた事に気が付いた。

起き上がって周りを見ると、全員その場に倒れて、眠っていた。

研究員が目覚めて程なくして、全員が目を覚ました。

そして、口々に言う言葉に、耳を疑った。


「研究疲れかな。眠っちまったな。」


「本当だよ。さっさと仕上げなきゃ。」


「実験では誰が行くんだっけ?」


「ホワイト少尉だろ?」


「いいよなあ、タイムトラベルなんて。」


「でも、α文書取って来なきゃならない重責があるしな。大変だよ。」


まるで、さっきの実験は無かった様な口振りだ。


「ちょっと…。何言ってるんだ。さっきカーター少尉が行ったじゃないか。」


同僚達は全員、研究員を訝しげに見た。


「カーター?誰だ、それ。」


「カーター少尉は、ずっと開発にも参加してたじゃないか!何言ってるんだよ!さっき、マシンも完成して、行ったばっかりじゃないか!」


「何言ってんだ、お前。マシンはまだまだ完成してないじゃないか。ほら。」


同僚が指差した方向には、形にもなっていない、タイムマシンのパーツが転がっている。


言葉を失う研究員に、追い打ちをかける様に言う。


「大丈夫か?疲れで、少し精神的に参ってるんじゃないのか?カウンセリングに行った方がいい。」


「そんな…。なんでみんな忘れてしまっているんだ…。」


愕然とする研究員を同僚達が、憐れんでいるような、不審に思っているような目で見ていた…。




再び、所変わって、日本の自衛隊。

某所にある秘密研究施設。

取り立てて特徴の無い、平凡な見た目の将校が、パソコン画面の暗号の様なデータを睨み付けるように見ている。

そこへ、眼鏡に癖っ毛だが、見るからに頭の良さそうな、涼し気な二枚目の背の高い将校が来た。


「加納、磁気を強めてみるか。」


「うん。俺もそれ考えてた。問題はどの程度上げるかだな。」


「そうだな。」


「いっそ、倍でやってみるか。」


「倍⁈うーん、確かにデータに変化が無いもんな…。やっちまうか。」


「よし。揺れ幅60パーセント、磁力設定完了。」


加納と呼ばれた将校がセッティングをしている中、先程の涼し気な二枚目の将校が研究室の真ん中にある平たい振動装置の上に、林檎を置いた。


「全員離れろ。」


加納はそう言い、自衛隊員が観察室に全員入ったのを見届けると、


「作動。」


と言って、スイッチを押した。


激しい揺れが始まり、 火花が散って、林檎が消えた。

すぐさま、涼しげな二枚目の将校が電話をする。


「どうだ⁈えー?本当かよ。分かった、有難う。」


電話を切り、若干不安気な加納に告げる。


「隣の部屋に瞬間移動はしてるが、真っ黒焦げだってよ。」


「そっかぁ。またやり直しだな。」


加納は仕方なさそうに笑い、パソコンに向かった。






春休みと雖も、龍介の朝はいつも通り早い。


朝5時に起きて、祖父の竜朗に剣道の稽古をつけて貰うからだ。

自宅の道場でみっちり1時間稽古をつけて貰う。

龍介は、剣道が大好きだった。

他のスポーツもやれば出来るが、面白いと思えないが、これだけは、面白いと思う。

気付いた時には既にやっていた。

よく覚えていないが、3歳の時に、自分からやりたいと、同い年の子に比べてもかなり小さいというのに、竹刀を持って、ヨロヨロしながら、竜朗に教えてくれとせがんだらしい。


その後、母しずかの作ってくれた朝食を食べ、シャワーを浴び、学校がある時は、そのまま学校へ。

そうでない時は、父龍太郎が出す、英才教育バリバリの大量の宿題をこなし、昼食となる。


龍介には、双子の妹が居る。

名前は苺と蜜柑。

龍介が名付けた。

その妹達と一緒に昼食のオムライスを食べていると、玄関の呼び鈴が鳴った。


「こんちわ。」


産まれた時からの幼馴染み、亀一の声だ。


「きいちにいによ。」


蜜柑が舌ったらずに、嬉しそうにそう言った。

2人は龍介とは6つ違いの6歳だが、未だに日本語がおかしい。

龍介本人は絶対認めないが、彼もまた、日本語に相当な難があったそうで、小学校入学直前まで、加納龍介と言えなかったそうだから、遺伝かもしれないが。


亀一は、3人の様子を見慣れた風で笑って見ている。

彼は、背丈は、龍介と同じ位で、小学生にしては大きく、眼鏡を掛けた、いかにも頭の良さそうな、若干冷たい感じさえする様な、冷静沈着な感じの少年だ。

あくまで見た目の話だが。


「いいから、蜜柑はちゃんと人参も食べなさい。」


オムライスに入っていた小さな人参を器用に、皿の端に避けていたのを、全部まとめてスプーンで掬い、蜜柑の口に容赦無く入れる龍介。


「蜜柑、どちて人参ちらいなの?」


そう尋ねる苺の皿には、同じくピーマンが避けられている。


「苺もピーマン食べなさい。」


平等に苺の口にも、ピーマンを全部入れる。


双子は涙目で、龍介に訴えた。


「ちぇっかくよけたのにいー。にいにのばかー。」


「人参だの、ピーマンだのは、一杯栄養があんの。お前ら、ただでさえマメなのに、大きくなんねえぞ。」


龍介の食事が終わっているのを確認した亀一は、龍介のラグジャーの袖を、ピンと1回引っ張ってから言った。


「そうそう。ちゃんと食べなさい。龍、ちょっと話があんだけど。」


「何?」


「寅と朱雀も、もう少ししたら来るから、そん時でいいよ。」


訝しげに亀一を見る龍介。

亀一は、その視線を誤魔化す様に、しずかにくっ付いている。


「しずかちゃん、今日のおやつは何ー?」


「今日は、ホットケーキ苺ソース掛け。」


「うわ。最高。」


「でも、寅ちゃん達もとなると、8人だから、8人分もホットケーキ焼いてるの面倒臭いわね。ホットケーキ風なケーキに変更。」


「へえ。でもいいよ。しずかちゃんのなら。」


「あら、ありがと。きいっちゃん。」


デレデレしている亀一をじっと疑惑のまなこで見つめ続ける龍介に、亀一は根負けし、龍介の部屋に誘った。


龍介の部屋に入るなり、龍介は、亀一をジロリと横目で睨んだ。

彼は、大きな美しく澄み切った瞳にサラサラヘアーという、所謂美少年で、普通にしていれば、かなり可愛いはずなのだが、この尋常でない目つきの鋭さが、全てを台無しにしている。


「んな睨むなよ。何疑ってんだよ。」


「きいっちゃんが、母さんの前で話切り出さない時は、ロクでもねえ事考えてっからだよ。」


「俺がいつロクでもねえ事考えたよ。」


「しょっ中考えてんじゃねえかよ。蜜柑のキコキコカーにエンジン付ちまったりさあ。よりにも寄って、あの蜜柑のキコキコカーだぜ?予想通りノリノリで暴走しちまって、爺ちゃんと青くなって追い掛けたんだからな。」


龍介の言うキコキコカーとは、ペダルカーの事である。


「まあそう言うな。蜜柑も無事だったじゃん。」


「無事だったのは、すんでのところで、爺ちゃんと俺が車から蜜柑取り出したからだよ!キコキコカーは大破してんだあ!」


「また、こめかみに青筋立てて怒らない。美少年台無しだぜ。」


亀一には折良く、玄関の方で声がしているのが聞こえた。


「お、寅と朱雀が来た。」


朱雀は、幼稚園からの幼馴染みである。

亀一と龍介は、母親同士が小学校からの親友同士であり、又、父親同士もそうで、奇しくも同じ職場なので、赤ちゃんの時からだ。

寅彦も、母親同士が同じ職場だったのだそうで、亀一と寅彦とは赤ちゃんの時からの幼馴染みである。



髪も長めで、ピンクのズボンなんか履いて、丸で女の子の様な朱雀と、眼鏡に天パで、細い目ながらも、目つきの鋭い寅彦という2人が来て、しずかがジュースを出して下がるなり、亀一は図面の様な物を広げて言った。


「秘密基地作ろうぜ。」


寅彦と、朱雀は目を輝かせ、寅彦は眼鏡をかけ直してまで図面を見つめた。


「いいじゃん。凄え設計図。流石きいっちゃん。」


朱雀も覗き込んで、声を弾ませて言う。


「わあ。ほんとだあ。おうちみたいだね。」


そして1人、仏頂面で、不機嫌極まりなさそうな男…。


「乗れよ、龍。2人共乗り気なんだから、もう作るの決定。」


龍介は、片膝を立てて、片方の足をを伸ばし、立てた方の膝に腕を曲げて置くいつものスタイルで、さも嫌そうに言った。


「やだよ、面倒くせえ。段ボールでいいじゃん。」


その発言を聞くなり、いきなり亀一が烈火の如く怒り出した。

このパターンは毎度の事ではあるが、その都度、寅彦と朱雀は腰を浮かしてしまう。


「てめえはまたそういう事を言う!なんで俺様達の秘密基地を段ボールなんかで作らにゃならんのだ、ボケえ!恥ずかしいだろうが!そんなもんでお茶を濁したらあ!」


「秘密基地っつーんだから、秘密なんだろうがよ!誰に向かって恥ずかしいんじゃい、ボケえ!」


「うるせえええ!いいから、話に乗れえええ!」


「ぜってえヤダ!」


「力自慢と人脈の広いお前が入んなきゃ話になんねえんだよ!」


「ヤダったら、ヤダ!そんなトンカチで一からカツンカツンやるなんて、冗談じゃねえよ!」


「じゃあ、じゃんけん!」


「分かったよ!」


突然2人は大人しくじゃんけんを始めた。

結果、龍介の負け。

ほくそ笑む亀一。

実は、成績では常に亀一と他の追随を許さず、トップを突っ走っている龍介だが、何故かじゃんけんは必ず最初はパーを出すのだ。


龍介は仏頂面でボソッと言った。


「ー分かった。で?」


亀一は、対照的に機嫌良く話を進める。


「要る材料は書き出してきた。これだけ用意してくれ。」


そのリストを見て、龍介は、大きな目を更にかっぴらいて、叫んだ。


「なんだこれえ!本当に家出来ちまうじゃねえかよ!」


大黒柱用の太い材木5本から始まって、床材だの、壁材だの、窓用のガラスだの、凄い事になっている。


「だから、建設期間1ヶ月半て事になってんだろう。夏休みだな。」


「ちょっとおお~。これ、どうやって入手すんだよお~。」


亀一はニヤリと笑って龍介を見た。


「そりゃ、お前の人脈を生かして、やってくれ。夏休みまでに頼むぜ。」


「ええー?だって、凄え量だぜ?これ。どうやって運ぶんだよ。」


「だから夏休みだって言ってんだろう。チマチマと集めてくんだよ。お前んちの前の林の中な。」


「んああ~。やっぱめんどくせっ!」


「いいからやれい!男子に二言無し!」



おやつの声がかかり、下に降りて行くと、竜朗がテーブルに着いて、フォークを持って、苺と蜜柑と共に待ち構えていた。


「あ、爺ちゃん、お帰り。」


「おう。只今。」


竜朗は、朝9時位に出て行き、3時位に帰って来るアルバイトをしている。

どういう事をしているのかは知らないが、国会図書館でアルバイトをしているそうで、朱雀の父親の柏木裕司や、寅彦の父の加来貴寅とは同じ勤め先らしい。

つまり、2人の父は、図書館司書をしているのだそうだ。


そういう訳で、竜朗はおやつキッカリに帰って来て、こうして子供同然に楽しみに待ち構えているので、しずかと合わせて、亀一達を入れると、おやつは8人前になってしまうのである。


出て来たおやつは、スポンジケーキの様な物に、苺ソースと生クリーム、カスタードクリームが掛かっていて、ホットケーキより凝って見えるし、美味しかった。


「しずかちゃんのは甘さが丁度いいんだよな。」


満足気に言う竜朗に、亀一がすぐ様同調する。


「そうそう。ホットケーキより、断然美味しいよ、しずかちゃん。」


「良かったわ。ありがと。」


お気付きかもしれないが、亀一は、26歳という年の差を越えて、しずかに惚れている。

よって、龍介は、デレデレと鼻の下を伸ばす亀一を、今日も困ったような変な笑顔で見つめている。





亀一達が帰った後、龍介は、縁側で加納家の庭に咲いた、しだれ桜を祖父の竜朗と見ていた。


「龍、そろそろ修学旅行だなあ。」


「うん。」


「小学校最後の旅行だ。楽しんできな。」


「うーん…爺ちゃん…。」


竜朗は、桜から龍介の顔に目を移した。

酷く浮かない顔をしている。


「どうした。憂鬱そうな顔してんな。」


竜朗は、いつも龍介の精神状態を顔を見ただけで分かってくれる。


「班がね、朱雀とは一緒なんだけど、きいっちゃんとか寅とも離れた上、苦手な奴と一緒なんだ。」


「龍に苦手な奴とは珍しいね。どんな奴だい。」


「苦手っていうか…、なんだか見てるとイライラすんだよな…。いつも余計な事して先生に怒られたり、トラブル起こしたり…。遅刻魔だし、なんていうか、自由気まま過ぎっていうか…。気が弱いのかと思いきや、頑固でしぶとくて、先生達に怒られても一向に悔い改めないし、いくら正論をぶつけても、自分がこうと思った事は変えない。」


「ーなんか嫌な思い出がフツフツ蘇って来るような奴だな…。」


何故か竜朗は苦虫を噛み潰したかのような顔になってきている。


「どしたの、爺ちゃん…。」


「いや、こっちの話。うーん…、関わんねえ方がいいと言いてえ所だが、同じ班なわけか。困ったねえ。」


「うん…。」


「実は、爺ちゃんも、苦手な奴というのは居る。」


龍介は驚きながらも、少しホッとしたような顔をした。


「へえー。爺ちゃんにも居るんだ。」


「ん。おめえの親父だけどな。」


「と、父さんですか…。なるほど…。」


確かに、竜朗と父の龍太郎は、頗る仲が悪い。

龍太郎の方は、のほほんと我関せずといった感じで、しょっ中竜朗の逆鱗に触れているが、竜朗の方は常に緊張感に満ち溢れた戦闘態勢を崩さない。

あまりにソリが合わない様子なので、龍介は、母のしずかが竜朗の本当の娘で、龍太郎は、竜朗の気に入らない婿養子なのかと思っていた位だ。


「しかし、苦手でも、親子だから、付き合って行かなきゃならねえ。」


「そうだね。そういう場合はどうすりゃいいの?」


「自分曲げねえこった。」


「自分を曲げない?」


「そう。相手に合わせねえのよ。それで平行線だろうがなんだろうが、俺は正しいと信じて曲げねえの。まあ、根比べだな。でも、対立しても、ストレスは無え。」


「なるほど…。」


「だから、龍は周りの空気が凍りつこうが気にしねえで、貫きな。根性いっけど、龍なら出来んだろ。」


「うん。分かった。なんか気が楽になったよ。有難う、爺ちゃん。」


「ん。で、そいつの名前はなんて言うんだい。」


「佐々木悟。」


その名を聞いた途端、竜朗の片眉は吊りあがり、まさに鬼の形相に転じた。


「佐々木だあ!?親父は!?佐々木公平っつーんじゃねえだろうな!?」


「し、知らない…。どしたの、爺ちゃん…。」


「家は!?5丁目の古い家か!?瓦屋根の田舎風の!」


「そ、そうだったと思う…。」


竜朗は、吸っていたキセルを灰皿にバンと叩きつけ、龍介を睨み付ける様に怒鳴った。


「気をつけんだぞ!龍!佐々木はうちの鬼門だあ!」


「は、はあ…。」




修学旅行当日、1回学校に集合するのだが、早くも、龍介の天敵、佐々木悟は、やってくれた。


「佐々木君。」


学級委員の龍介が点呼をするのだが、返事も無いし、姿も無い。


ーこんな日も遅刻かよ!


イライラは、諸に顔に出ていたらしく、亀一と寅彦は笑い出し、朱雀は怯えた様子で、龍介に向かって、自分のこめかみを指差して見せた。


「あんだよ、朱雀。」


「青筋立っちゃってるよお!怖いよ、龍ー!」


隣の副学級委員の唐沢瑠璃が、心配そうに名簿を見つめ、龍介を慰める様に言った。


「佐々木君、物凄く張り切ってたから、すぐ来るよ、きっと。」


「張り切ってただあ!?嫌な予感しかしねえな、それえ!」


瑠璃が目を点にして仰け反っている。

思わず怒ったままの、ど迫力で言ってしまった。


ーいかんいかん…。一応、紳士な加納君で通ってるはずなのに…。


別に意識してそうしているわけではないのだが、龍介は、女の子にガキ特有の意地悪をしないし、爺ちゃんに女の子には優しくと、昔から耳にタコが出来る程言われているので、親切だし、優しい。

他の子から見ても、先生達から見ても、まるで大人の様に、全てに対して冷めている。

その上、成績抜群。

運動も面白くもなんともなさそうにやっているが、全て万能にこなす。

そして、目の大きなサラサラヘアーの美少年と来てるから、女子達のアイドルと化している。

本人はアイドルに関しては、まるで興味は無いのだが、紳士な加納君と言われているのは、ちょっと嬉しいので、大事にしている。


「ご、ごめん…。」


「そ、そうよね、佐々木君ロクな事しないもんね…。」


ー唐沢…、可愛い顔して、意外と言うんだな…。

はっ!可愛い!?何を考えてんだ、俺は!


怒りの形相から今度は真っ赤な焦り顔へ…。


ー加納君、どうしちゃったんだろう…。いつも殆ど表情変わらない人なのに…。大丈夫かな…?



結局、佐々木悟は、全員がバスに乗り込んだ時に凄まじい勢いで走り込んで来た。


先生には当然怒られ、龍介にも、ギロリと睨まれる。


「遅えよ。班長だろ、てめえ。」


「ーはい…。ごめんなさい…。」


龍介は学級委員の仕事があるからという事で、班長はやらずに済んだが、どういうわけか、班長には悟がなってしまった。

しかも、この龍介の班は、少々問題ありだ。

悟だけでなく、朱雀と龍介以外が、全員問題児に近い。

先生は、龍介がいるからと、わざとそうしたのではないかと思ってしまう程である。

まず、悟。

龍介からして見ると、もう論外。

残る女子2人…。

これも、しょっ中問題を起こす、不良予備軍の様な子達である。

イマドキな感じで、派手な服装はしてくるし、中学生と付き合っているとかいう噂まであるし、夜遅くに、中学生の不良グループとコンビニにたむろっているとかいないとか。

要するに、浮きまくっていて、他の女子からも嫌われ、男子からも、嫌われてしまって、孤立している2人だ。


ーあああ…。やっぱり生きて帰れる気がしない…。取り敢えず、紳士な加納君は廃業だろうな…。


朱雀が気を遣っているのか、天然なのか、満面の笑みで話し掛けてきた。


「楽しくやろうね、龍。」


ーこのメンツで楽しくとは至難の技だぜ…。天然だな、これは…。



行き先は富士五湖だ。


1日目は、どうにかなった。

団体行動で、名所旧跡見学するだけだったから。

しかし、2日目は、班行動で、青木ヶ原樹海を探検である。

先生達が予め用意しているチェックポイントを全て通過し、1番早かった班にご褒美が貰えるというものらしい。


「ロープが引いてある所や、立ち入り禁止と書かれている区域には、絶対に入らないで下さい!ここは、本当に危険な所です!くれぐれもルール守って、楽しくやりましょう!」


龍介は、先生が言う注意事項を、聞いとけよと顔に書いてある状態で、先生を見ずに、悟を睨み付ける様に見ながら聞いていた。





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