第41話 気づかぬ想い

ピチチチ……。



小鳥の鳴き声。


カーテンの隙間から明るい光が漏れている。


結局一睡もできないまま、いつの間にか朝になっていた。



昨日の出来事。


健太の言葉が、ずっと頭から離れない。


あたし……いまだに信じられないよ。


健太が。


あの健太が、ずっとあたしのことを好きだったなんて。


信じられないよーーー……。



プルルルルーーーーーー。


机の上のケータイが鳴った。


起き上がってケータイを見る。


有理絵だ。


「もしもし」


『ひかる?起きてた?』


「うん……っていうか、寝れなかった……」


『だろうと思った。ねぇ、ちょっとどっかで会わない?会って話ししようよ』


「うん……」


あたしは電話を切ると、そのままベッドに仰向けになった。



有理絵とは、昨日の夜電話で話したんだ。


卓がね、あたしを家まで送ってくれたあと、有理絵に電話してくれたらしいんだ。


健太の方はオレがなんとかするから、ひかるを頼むって。


あたし、卓に送ってもらってる間も、なんだか頭がいっぱいいっぱいで、なにも言えずにずっと黙ったままだったから。


きっと卓にも心配かけちゃったよね。


あたしは、起き上がってゆっくりとカーテンを開けた。


眩しい光が部屋いっぱいに差し込んでくる。


いい天気。


今のあたしと裏腹だね。


今のあたしは、なんだか気持ちもぐしゃぐしゃで、どんより曇り空……ってカンジだよ。


こんな風に、自分でもどうしたらいいのかわからないモヤモヤした気持ち。


こんな気持ちになったの、初めてだよ。


こんなの、初めてだよ……。



そして、お昼近く。


あたしは、有理絵と駅前のマックで待ち合わせをした。


「ひかるっ」


先に来ていた有理絵が、奥のテーブルの方から手を振っている。


「ごめん、待った?」


「ううん。あたしもちょっと前に来たとこ。いつものセット、ひかるの分も頼んでおいた」


「あ、サンキュー」


あたしが慌ててバッグから財布を出そうとすると。


「あたしのおごり。だから、食欲ないとか言ってないで、ちゃんと少しは食べなさいよ?」


有理絵がイタズラっぽく笑った。


「……サンキュー、有理絵」


あたしもつられて笑顔になった。


そして少し落ち着いてから、あたしは有理絵に胸の内を話し出したんだ。



「ーーーあたし、どうしたらいいのかサッパリわからないんだよ……。昨日、あんなことがあって。健太にいきなり好きだなんて言われて……。まだ信じられないんだよ」


あたしは、コーラの氷をストローでジャラジャラとかき回しながら言った。


「あたしもそれ聞いた時はビックリしたけど。でも、今思うと、ああ、やっぱりそうだったんだなぁって。なんか納得できちゃった」


有理絵がポテトをパクつきながら言った。


「ええ?どこが?健太とあたしだよ?やっぱりっていう要素ゼロじゃん!全然そんなカンジの2人じゃないじゃん!」


いっつもふざけ合って、男とか女とかそんなの意識したことなくて。


まさに性別を超えた仲ってカンジでつるんでたのに。


「でも、やっぱり健太はひかるにばっかちょっかいかけてたかも。ほら、健太ってなんか悪ガキっぽいとこあるじゃない?小学生の時とかいなかった?好きな子にわざとケンカふっかけるようなこと言ったり、ちょっかいかけたりする子!健太もどっちかっていうと、そういうタイプだよねー。きっと」


有理絵が妙に納得したようにうなずいている。


確かに、健太はちょっとやんちゃ坊主だけど。


でも……。


「そしてさ、卓は知ってたみたい。健太がひかるのこと好きだってこと」


え……。


「健太はなにも言わないけど、見ててすぐわかったって。それに、うちらと同じ中学だった人達の間では、健太の好きな人はひかるだって噂も、実際ずっと前から流れてたみたい」


そんなの、全然知らなかったよ……。


戸惑うあたしの胸の中に、ふと、昨日の卓の意味深な目が浮かんできた。


そっか……だからか。


卓は、健太の気持ちに気づいてたんだ。


「……あたしは、健太が自分のことを好きだったなんて。全然気づかなかったよ。っていうか、そんなこと考えたこともなかったよ……」


「気づかなそうだよねー。ひかる。まぁ、そういうあたしも健太がそこまでひかるに本気だったとは気づかなかったけどさ


本気……ーーー。


「……健太、けっこうモテるのになんであたしなんか……」


「いや、十分好きになる理由あるでしょ。ひかるはカワイイし、なにより健太とひかるは昔からめっちゃ気が合ってたでしょ」


「……確かに気は合う」


「でしょ?健太がひかるに恋したってなんらおかしくないわけよ。でも、見抜けなかったねー。健太が落ち込んでた原因がまさかのひかるだったなんてさ。そりゃ、あたしにはともかく、ひかるには相談できないハズよね」


う……。


あたしは思わずうつむいてしまった。


「ちょっと、ちょっと。ひかる暗いって!明日は、桜庭とデートなんだよ?もっと元気出して!とりあえず健太のことは置いといて。明日、うんと楽しまなきゃっ」


そうは言っても……。


「それともーーー。健太に告られて、ちょっと気持ち揺らいじゃった?」


有理絵がそう言いながら、ニヤけた目で覗き込んできた。


はっ⁉︎


「健太だよ?昔からの友達だよ?そんな揺らぐとか揺らがないとか……」


「でも、健太はひかるのことただの友達とは思ってなかったみたいだけど?これぞ、切ない三角関係!ああ、胸がきゅんきゅんするわぁ」


「もう、有理絵!あたしは真剣に困ってるんだぞっ」


「ごめんごめん。わかってるよ、ひかるが好きなのは桜庭だってこと。健太のことも好きだけど、それは友達としての好きであって、それ以上の気持ちはないってことも」


そうなんだよ。


健太、あたしを好きだって言ってくれたけど。


あたしが好きなのは、桜庭で………。


そりゃ、健太のことはもちろん好きだよ。


大好きだよ。


でも、その健太に対する〝好き〟って思う気持ちとは全然違うんだよ。


だけどーーー。


昨日の健太を思い出すと、胸がぎゅっと苦しくなる。


あたしのためにケンカしてくれた健太。


殴って殴られて。


血も出て、アザもできて……。


あたしの中に、あの痛々しい健太の姿が蘇る。



ーーひかるに気安くさわんじゃねーよ!!ー



健太、そう言ってあたしを助けてくれたよね。


守ってくれたよね。


そして、あたしのことを好きだと言って抱きしめてくれたよね。


なのに……あたしは、健太が自分のことを好きだなんてこれっぽちも知らずに、桜庭のことで舞い上がったり落ち込んだり。


健太に何度も励ましてもらって。


「……有理絵。あたし、健太の前でいつも桜庭のことではしゃいだり、へこんだりいろいろしてたけど。その時、健太はどんな気持ちでいたのかな……」


「そうだねぇ……。健太のことだから、明るく笑ってひかるのことを応援するつもりだったんだろうね。でもさ、だんだんひかると桜庭が仲良くなってきて。まぁ……決定的にショックを受けちゃったのは、たぶん桜庭が健太にひかるのこといろいろ聞き始めた時だよ」



あたしの電話番号や。


あたしの好きな映画ーーーー。








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