第14話 予感
「ひかる、ちょっとちょっと」
マンガの本を見ていたあたしに、雑誌コーナーにいる有理絵が手招きをしてきた。
「なに?」
「見て見て。ひかるの今月の運勢、なんかいいカンジだよっ」
「え?どれどれっ?」
なんかさ、雑誌の後ろのページの占いって絶対見ちゃわない?
あたし、雑誌見る時、パラパラめくってまず最初に占いコーナー見ちゃうもんなぁ。
信じてるってわけじゃないけど、いいこと書いてあったらラッキーって思うし。
逆に悪いこと書いてあったら、こんなの当たらないぜとパタンと閉じるという。
「ーーーえっと、なになに?『今までシングルだった人も、この春こそはいい出会いが期待できそう。休日などは、家にいないでどんどん出かけた方が◎。外出先で、嬉しい恋のハプニングがーーー』か」
なんか前にもどっかでちょいちょい似たようなことが書いてあった気がしないでもないぞ。
「ありきたりだな。なんかあんまり期待できなさそうだぜ。あたしには」
「なに言ってんのよ。まさにピタッと当てはまってるじゃない。忘れたの?日曜日のライブ!」
有理絵が肘でつついてきた。
「そっか。ライブがあったな!『休日のお出かけ』で『外出先』だなっ」
「もしかしたら。今度のライブは、ひかるが運命の人と巡り会うための運命の日なのかも!」
「有理絵、大げさだ。さすがにそれは夢見る少女過ぎだろ」
あたしが笑ってると。
「ううん。絶対いい出会いがあるっ。なんかそんな予感がするのよ。少なくとも、ひかるに声をかけてくる人は必ずいるから」
目をキラキラさせて、拳をぐっと握りながらあたしの方を向く有理絵。
「なんだかすごい自信だな、有理絵」
でも……そんなナンパなヤローはイヤだなぁ。
ま、とにかくいろんなバンドのライブが観れるんだし。
それだけで十分楽しいからいいや。
「楽しみだなー。なに着てこっかな。あ!あたし達もバンドのヤツらに対抗して思いっ切りパンクなカッコしてこっか!髪とかガンガン立てちゃったりしてさっ」
じとーーー。
有理絵の冷ややかな視線。
ギク。
「ひかる。前にも言ったけど、今回は暴れに行くんじゃないんだからね。わかってる?」
しょん。
ちょっと小さくなって。
「そうだったな。了解だ」
渋々返事。
あーあ。
せっかくはじけたカッコして行こうと思ったのに。
でも、この前買ったおニューのブーツ履いてっちゃおーっと。
すっごくカワイイんだよ。
白のラバーソウルで、靴の先がおでこみたくぷくっと丸みがあってさ。
なんかさ、好きな靴や洋服を身につけてると、それだけで楽しくて元気出るよね。
あたしはウキウキ気分で、いつも買ってるお気に入りのファッション雑誌の最新号を持ってレジに向かった。
と、その途中。
必死になって参考書を買いあさってる女子高生を発見。
メガネをかけて、いかにも真面目そうな女の子。
ひえー。
あんなに参考書買ってどうすんだ?
いや、勉強するのか。
すげーな。
驚いて、思わずマジマジと見ちゃったよ。
きっと、難関大学とか目指してるんだろうな。
親の期待もさぞかしデカイんだろうよ。
なんていろいろ考えていたら、その真面目女学生とふっと目が合ってしまった。
やば、見過ぎちった。
てへっと笑ってみたら。
真面目女学生があたしをじろりと見て、なんとふんっと鼻で笑ったではないか。
なぬっ?
更に、あたしの持っているファッション雑誌に目をやり、またしてもふんっと鼻で笑う女学生。
『そんな不真面目な雑誌ばっかり買って遊んでないで、私のように参考書でも買って勉強したら?』ーーー
と、言いたげな目であたしの顔を見ると、ぷいっと顔をそらされた。
おおーいっ。
何故、あたしがそんな鼻で笑われなきゃならんのじゃっ。
まぁまぁ。
アンタもいろいろ大変そうだから、あたしみたいなちょっとお気楽そうなヤツを見ると、イラッとした気持ちにもなるんだろうな。
でもね、あたしだってこう見えていろいろ大変なんだぜ。
それに、せっかく女の子に生まれてきたんだから、とことんオシャレも楽しもうぜ。
参考書もいいけど、たまにはファッション雑誌も買おうぜ。
あたしは、勉強は嫌いだけど、オシャレは大好きなんだよ。
やっぱ参考書よりこっちの方が楽しいもんね。
っていうか、参考書なんて買ったことも読んだこともないけどな。
と、見ず知らずの女学生相手に、いろいろ語ってしまったが。
とりあえず気持ちを日曜日のライブに戻して。
どんなオシャレをしようか考えよう。
なに着てこうかなー。
ワクワクしながら、あたしはレジに向かって歩き出した。
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