第80話グールとバトルします。後編
「おやロイド、それにシルファにレンじゃない。こんなところで会うとは奇遇ね」
ひょいと跳び降りると、猫のよう身軽に着地するタオ。
「タオこそ、何故こんなにところに?」
「グール退治よ。街のあちこちに出ているからね。調べ回ってたら、下水道へ行き着いたというわけある」
そういえばタオは俺たちより先にグール退治の依頼を受けていたっけ。
俺たちと同じように下水道に辿り着いた、というわけか。
「これは……異国の少女か! なんとも愛らしい格好だ。鍛え抜かれたしなやかさに加え、少女特有の柔らかな肢体が絶妙なバランスで成り立っている! うーむ、タオたん……推せる!」
ジリエルが何やら息を荒くしながらブツブツ言っている。
よくわからんが放置だ。
「ふむ、ロイドが来たということはどうやらこの中にグールの根城があるという事で間違いなさそうね」
「あまり信用されても困るんだけどな」
「この下水道は街中と繋がっています。グールの被害が街中に出ていることからして、間違いないでしょう。流石はロイド様です」
「でも、その前にこいつらを倒さないとね!」
グールの数は三十匹は優に超えている。
これは倒し甲斐がありそうだ。
「ひーふーみー……ねぇシルファ、アタシとどちらが多く倒せるか、勝負しない?」
挑発するようにニヤリと笑うと、タオは言葉を続ける。
「あれからアタシ、かなり修行したよ。その成果を見せてあげるね」
確かに、タオを纏う『気』は以前より強く、大きくなっている。
まるで堅固な鎧でも纏っているかのようだ。
見れば衣服も汚れていない。汚れや臭気をも跳ね除ける程、強力に練り上げた『気』。
相当修行を積んだのは間違いあるまい。
「私は構いませんが……」
ちらりとこちらを見るシルファ。
俺がグールを実験に使いたいと言ったのを気にしているようだ。
確かに実験は魅力的だが、タオの成長した戦いぶりも見てみたい。俺は頷いて返す。
「構わないよ。二人とも頑張って」
「わかりました。そういうことなら受けて立ちましょう」
「そうこなくちゃ! アタシが勝ったら一つ言う事を聞いてもらうよ」
「いいでしょう。ロイド様の手前、私が負けるはずありませんが……もし私に勝てたらまたアルベルト様との茶会でも開きましょうか」
おいおい、アルベルトを賞品みたいに扱うなよ。一応俺の兄なんだけど。
イケメン好きもタオにはそれでいいのかもしれないが。
だがタオは唇に指を当て、んーと考え込む。
「それもいいけど……そうね、アタシが勝ったらちょっとロイドを貸して貰うよ。デートね。デート♪」
タオが俺を見て、ぱちんとウインクをする。
「将を射んとすれば先ず馬を射よ、というね。アルベルト様は手強いし、まずはロイドと仲良くしておくの悪い手じゃないよ。ふひひ」
ブツブツと独り言を言うタオ。
だがそれを聞いたシルファとレンはすごい迫力でタオを睨みつけている。
「……ほう、よりにもよってロイド様を引き合いに出すとは中々いい度胸をしていますね。良いでしょう。本気で相手をして差し上げます」
「シルファ、ボクもやっていいよね」
一体どうしたのだろうか。二人がすごい殺気立っている。
「むむむ、このような美少女に囲まれ、あまつさえ奪い合いまで起きるとは……くぅっ、なんと羨まけしからん! だがこんな光景を間近で見られるなんて、ロイド様と共に来てよかった……!」
ジリエルが血涙を流しているが、心底どうでもいい。
それより皆の本気がみられそうだな。
ワクワクしてきた。
「では――開始と行きましょうか」
シルファの合図と同時に、三人はグールに向かって駆ける。
そして始まる大乱闘。連撃、斬撃、毒撃が乱れ飛び、そのたびにグールたちがぶっ飛んでいく。
「行くあるよ――」
独楽のように回転しつつ移動し、殴る。
そしてまた移動しては、蹴る。
それらを繰り返し行うシンプルながらも恐ろしく速く、そして重い。
あの小柄な身体のどこからあんな重さと速さが出てくるのやら、なぎ倒すようにしてグールを倒していく。
「ふ――『車輪連崩』」
あの動き、以前とは少し違うな。
恐らく『気』を構成する二つの要素、陰と陽の力を上手く使っているのだな。
反発し合う二つの力をタイミングよく切り替えることで反発力を生み、それを身体能力に上乗せしているのか。
タイミングが少しでも外れればあらぬ方向へぶっ飛んでしまうだろう。
面白そうだし後で試してみよう。
「……腕を上げましたねタオ。ですが私も以前共に戦った時と同じではありませんよ」
そう呟きを残し、シルファもグールを次々と斬り伏せていく。
なお、フェアじゃないとかで光の剣は使ってない。
にもかかわらず、二刀流によるシルファの剣技は相変わらずの冴えだ。
神聖魔術である光の剣を使わずとも、グールを相手にものともしないとは。
「……悪いけど、死んで」
一方華々しい戦いを繰り広げる二人とは裏腹に、地味に動いているのがレンだ。
二人の影に隠れるようにして移動を繰り返し、グールの背後から一突き。
決して素早いわけではないが、魔力遮断からの無防備な敵への一撃により、確実にグールを削っている。
三人の戦いぶりは凄まじく、あっという間にグールは数を減らしていく。
「すごい手際の良さだな。もう数匹しか残ってないぞ」
「ですがロイド様、彼女らはどうも最後の一体に苦戦しているようですぜ」
「あれはどうも普通のグールとは毛色が違うようです。どこか知性を感じられる……」
確かにあのグールだけは動きが違う。
明らかに他の連中よりも強く、防御主体で戦っているとはいえタオやシルファとも互角に打ち合い、レンの不意打ちも躱していた。
上手くトンネルに逃げ込めるよう動いている。
「逃げられるよ!」
「現在の撃破数は全員同じ、あれを倒した者が勝者です!」
「くっ……は、速い……っ!?」
三人の攻撃をすり抜けながら、逃げようとするグール。
――面白い。皆には悪いが手を出させてもらおう。
魔力遮断。まずは気配を完全に断ち、グールに迫りながら『気』を練る。
これなら気配を絶ったまま力を溜められる。
更に陰から陽へ切り替え――と同時にすごい力が生まれる。
くっ、なんという力。だが上手くコントロールして……と。
吹き飛ばされながらも何とか地面を蹴って制御しグールの背後を取った。
「――ッ!? きさ……」
気づいた時にはもう遅い。更に陰から陽へと切り替え、グールへと一直線に跳ぶ。
跳びながら、『光武』にて光の剣を生成。
防御の姿勢を取ろうとするグールだったが、それを掻い潜って一撃を喰らわせた。
剣には先刻同様、聖属性の毒が仕込まれている。
「グォォォォォォォォッ!?」
咆哮を上げながら、チリと化していくグール。
軽やかな脚運びはタオ、剣術はシルファ、身を隠す動きはレン。
制御系統魔術『転写』により三人の動きを混ぜてコピーしてみたが、中々上手くいったな。
「主よ、申し訳ありま……ぐふっ」
そう言い残し、グールは消滅した。
あっ、こいつ喋れたのか。
しまったな。喋らせてから倒せばよかった。
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