第64話帰還、そして
戦いを終えた俺たちは、馬車にて城へと帰還していた。
帰りの馬車は俺を真ん中にして左にアルベルト、右にディアン、その隣にアリーゼ、馬を操るのはシルファ、そして膝の上にシロ。
外ではタオとガリレアたちが馬車のすぐ脇を歩いている。
「全く、あまり僕たちを心配させるんじゃないぞ」
「ごめんなさい。アルベルト兄さん」
俺が謝ると、アルベルトはすぐに柔和な笑みを浮かべる。
「まぁ魔剣部隊の試験運用が出来たのはよかったがな。ロイド、お前の作った魔剣は思った以上の強さだったよ。これからもよろしく頼むぞ」
「はいっ!」
「おいおいアル兄ぃ、魔剣を使ったのはロイドと俺、だぜ? そいつを忘れてもらっちゃ困るな」
話に割って入ってきたディアンに、アルベルトは頷いて返す。
「もちろんだ。ディアンの事も頼りにしている」
「任せときなって! それよりロイド、お前魔人を倒したんだってな? スゲェじゃねぇか!」
魔人じゃないんだけどな。
内心苦笑しながらも、吸魔の剣を手に取り頷く。
「はい、ディアン兄さんの作った魔剣がなければ勝てなかったかもしれません!」
「へっ、嬉しい事言ってくれるねぇ! 魔力を吸う魔剣なんて何に使うのかと思ったが、魔人相手なら効果的だったのかもな!」
照れ臭そうに鼻の頭を擦るディアン。
その横からアリーゼがひょこっと顔を出した。
「ロイド、シロの事をちゃんと褒めてあげたかしら? あんな遠くからあなたの危機に気づき、ここまで皆を連れてくるなんて、中々できることじゃあないわよぉ?」
「もちろんわかってますよ、アリーゼ姉さん。よくやったぞシロ」
「オンッ!」
膝の上のシロを撫でると、元気よく鳴いて答えた。
「あらあら、私が言うまでもなかったわねぇ。二人はとってもとっても固い絆で結ばれてるんだわ。素敵ねぇ」
微笑みながら俺とシロの頭を撫でるアリーゼ。
何とも言えないのどかな空気が流れる。
「……ところでロイド様、彼らをどうなさるおつもりですか?」
俺たちの会話が止まったのを見計らい、シルファが俺に問いかけた。
「彼らは暗殺者ギルドの人間、理由はあれど、かつては悪事を働いていた者たちばかりです。ロイド様の忠実な部下になる、とは言っておりますが、実際のところ何をするかはわかったものではありません」
あの後、レンたちについて俺は説明した。
彼らはロードスト領主に仕えていた暗殺者ギルドの人間だが、今は俺の元で働きたいと言っていると。
……嘘は言ってない。だがやはり、アルベルトたちはいいように思っていないようだ。
「シルファの言うことは尤もだ。部下を取るのはいい。ロイドもいい年頃だからな。しかし部下の失態の責任は必ず上に返ってくる。札付きの者たちを部下に付けるなら、上の者もそういう目で見られる。特にお前は王族だ。色々と苦言を呈す者も必ず出てくるだろう。そうなった時、お前はどうするつもりだ? ロイド」
珍しく真剣なアルベルトの言葉に、俺は少し考えて答えた。
「アルベルト兄さんの言葉は至極尤も。そう見られぬよう、彼らによく言いつけます。失態を犯した場合は厳しく罰し、責任も取るつもりです」
「……ふむ、よく言った。その言葉に偽りはないな?」
「はい」
そう言ってアルベルトは腰の鞘に手をかけた。
「お、おいアル兄ぃ……」
「黙っていろ」
いつもと違うアルベルトの冷たい声色に、場の雰囲気が静まり返る。
その指先がぴくりと動いた、その時である。
「待って下さいっ!」
馬車の外で声が聞こえた。
ヒヒンといななき、馬車が急停止する。
窓を開けて外を見れば、レンたちが膝を突いていた。
「……ボクたちは、確かに悪事を行なってきました。人も殺した。それに普通の身体じゃありません。蔑まれるのが普通だった。……でもロイドはそんなボクたちを見下したりしなかった。力を貸してくれた。命も助けてもらった。ボクたちのこの御恩に報いたい。その為には命をかける覚悟です! ボクたちの事で罰を与えようというなら、まずボクを斬って下さい!
レンが真っ直ぐにアルベルトを見て言う。
他の者たちもそれに続いた。
「王子様たちから見たら俺たちの信用なんてゴミみてぇなもんだ。さっきみてぇな言葉は当然です。だが俺たちはロイド様な大きな恩がある。これからはその恩返しがしてぇ。ロイド様の為に生きたいんだ」
「私からもお願いします。下働きでも何でも致します」
「クク、料理の腕には自信がありましてね。我々は意外に使えます。けして損はさせませんよ」
「俺も掃除、上手い。だから頼ム」
皆が一様に頭を下げるのを見て、アルベルトは短く息を吐いた。
そして剣から手を離し、茫然とする俺の方を向き直るとにっこりと笑う。
「ふっ、そんな顔をするな。少しロイドの覚悟を試しただけだよ。可愛い弟に剣を向けるはずがないだろう? ……まぁこんな展開になるとも思わなかったがな」
アルベルトは跪くレンたちを見て、苦笑する。
「君たちの覚悟、第二王子たるアルベルト=ディ=サラームがしっかりと聞かせてもらった。難癖をつけて来るような輩は僕が許さぬ。故に君たちは安心してロイドの為に働くと良い」
「は、はいっ!」
皆の返事を聞き、アルベルトは満足そうに頷いた。
アルベルトが睨みを利かせてくれるなら、彼らを蔑む者たちもそう出てはこないだろう。
「アルベルト様の采配も見事ながら、それを信じるロイドの受け答えも完璧だった。美しき兄弟の絆……ご馳走様ある。ふひっ」
「冒険者ギルドですら手こずった暗殺者たちにあそこまで言わせるとは……見事ですロイド様」
「うんうん、僕の脅しにも屈しないとは相当の覚悟だ。あそこまでの部下はそう得られないだろう。やるなロイド。その調子でもっともっと高みを目指すのだぞ」
「……へっ、部下もロイドも、命がけで互いを思いやってやがる。話じゃねぇか……ちくしょう、雨でもないのに頬が濡れらぁ。……ずびっ」
「愛ねぇ。愛だわぁ……ぐすっ」
皆、俺たちのやりとりを見てブツブツ言い始めた。
ディアンとアリーゼに至っては涙ぐんでいる。
一体どうしたのだろう。なんか怖いんだが。
■■■
数日後、城に帰った俺はチャールズに呼び出されていた。
玉座の間に通された俺は、その前に跪く。
うっ、すごく難しい顔をしているぞ。
ヤバいな。これは絶対怒られるやつだ。
夜中に抜け出しただけならまだしも、暗殺者を部下にして、ロードスト領を滅茶苦茶にしてしまったもんなぁ。
我ながら無茶をしすぎた。
戦々恐々としながら、チャールズの言葉を待つ。
「……ロイドよ、とんでもない事をしてしまったな」
「は、はい……」
思わず顔を伏せる俺に、チャールズは言葉を続ける。
「ワシは常々ロードスト領を警戒しておったのだ。あそこの領主はよく戦争をしようと企んでいたからな。だからいつ挙兵してきても問題なきよう、アルベルトに戦の準備を進めさせておった。今回、手早く向かえたのはそれが理由じゃ。だがロイド、お前はそれよりも早くロードストへ向かい、丁度蜂起しようとしている場に赴き連中に裁きを喰らわせた。全くとんでもない事じゃ」
「へ……?」
想定外の言葉に俺は思わず顔を上げる。
「しかもアルベルトの話によれば、相当の強者どもを配下に加えたと聞く。彼らは命を賭して仕える、などと言っているらしいな。全く、大した子だと思ってはいたが、これほどとは思わなかったぞ」
うんうんと頷くチャールズ。
……えーと、これはどういうことだってばよ。
まだ状況が飲み込めてない俺は、チャールズに問う。
「父上、もしかして俺は褒められているのですか?」
「どう聞いてもそうであろうが。よくやったぞ。ロイド、流石は我が息子じゃ!」
パチパチパチパチ、と大臣たちが拍手をする。
アルベルトの方を見ると、拍手しながらもぱちんとウインクを送ってきた。
どうやらアルベルトが俺のしでかした事を色々とねじ曲げていいように伝えてくれたようである。
「今回の件、褒美が必要じゃろう。どうだロイド、手柄繋がりでロードスト領を治めてみんか?」
「な……っ! り、領主になれという事ですか!?」
「いや、領主自体は他の者に任せて、お前はその者に指示を出せば良い。お前が一領主に収まる器ではないのはよぉく知っておるのでな。だが間接的にとはいえ、一つの土地を治めるというのはお前のこれからの人生において必ず良い経験となるだろう。それにやりたい事が増えてきた頃であろう。土地と人材があるというのは便利じゃぞ?」
むぅ、言われてみれば俺が自由に出来る領地ってのは魔術の実験においてとても便利かもしれない。
大規模魔術や超広範囲魔術なんかは、膨大な土地が必要だ。
現状では視野にも入れてなかったが、領地が手に入ればそれも可能となる日が来る、か。
「……わかりました父上。ロードスト領、責任を持って治めさせて頂きます」
「うむ、うむ、励めよロイド!」
チャールズは俺の答えに、満足そうに頷くのだった。
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