第47話魔剣を量産するようです

 あの後、アルベルトも交えてもう一度魔剣製作に挑戦した。

 だが敢えて手を抜き、思いっきり弱体化させた『火球』を魔剣に込めたのだ。

 その出来栄えにディアンとアルベルトは首を傾げていたが、さっきの成功はただの偶然という事で何とか誤魔化せたのである。


 あまり俺の評価が上がるのもよくないし、下手したら魔剣ばかり作らされそうだしな。

 魔剣製作は楽しかったが、それをずっと作り続けるのも面倒な話である。

 俺がやりたいのはあくまで魔術。魔剣製作はその一環でしかないのだ。


「むぅ、さっきみてぇな火力は出ねぇなぁ……」

「残念だが仕方あるまい。ま、ロイドと本当に相性がいいのは僕の方だったようだな。ははは」


 アルベルトはなぜか嬉しそうである。兄ながらよくわからない人だ。


「それにあそこまででなくても魔剣は魔剣だ。十分使い道はあるさ。……ディアン、約束通り例の計画に協力してくれるね?」

「あぁ、もちろんだぜ」


 例の計画とは一体なんだろう。

 首を傾げる俺を見て、二人はにやりと笑うのだった。


「魔剣部隊ですか!?」


 思わず声を上げる俺を見て、二人は再度にやりと笑う。


「――あぁ、ディアンにお前を紹介する約束でね。我が近衛たち全員に魔剣を装備させようと思っているのだ」

「この国で魔剣製作が出来るなんて夢にも思わなかったがよ、出来ちまったもんは仕方ねぇ。やってやろうぜロディ坊!」


 力強く握手するディアンとアルベルト。

 まさかこの二人、魔剣を量産して部隊に投入するつもりだったとは。

 確かにロマンのある話だとは思うが……。


「ひいては近衛以外……流石に魔剣までは無理にしても、働きの良い兵士には付与した剣くらいは与えてやりたいところだな。最終的には城の全兵士に持たせれば最強の部隊が出来上がるだろう」

「くぅ~っ! いいじゃねぇか! ワクワクしてきやがったぜ!」


 おいおい、しかも城の兵士全てかよ。いくらなんでも無理に決まっているじゃないか。

 普通の魔物の核ですら中々手に入らないんだぞ。

 なんて考え呆れていると、俺の袖を何かが摘まんでいるのに気付く。


「くぅーん」

「ん、どうしたんだシロ」

「オンッ!」


 シロだ。シロは俺を引っ張り、走り始める。


「わわっ!?」

「おいおいロイド、どこに行くつもりだよ。お前がいなきゃ始まらないんだぞ!」

「そう言われても……ま、また後でーっ!」


 俺はシロに引かれながら、その場を後にするのだった。

 連れて行かれた先は第六王女、アリーゼの住まう塔である。

 一体こんなところに何の用だろうか。


「オンッ!」

「いいから来い、と言っているようですぜ」

「はいはい、わかったよ」


 俺はシロに促されるがまま、塔の扉を叩いた。

 中から出てきたのは御付きのメイド、エリスだ。

 その顔は何故かやけに疲れているように見える。


「これはこれはロイド様。ご機嫌麗しゅう」

「やぁ。なんだか疲れているみたいだね」

「えぇ……最近どこから来たのかまた魔獣が増えてしまいまして……はぁ、どうにかならないものですかねぇ……」


 どうやらアリーゼがまた魔獣を誘き寄せたようである。

 本当に寄せ餌みたいだな。こんなアリーゼの世話は大変そうだ。


「そういえばロイド様の犬と似ていたような……」


 首を傾げるエリスを置いて、シロはずんずん塔の中へ進んでいく。

 こらこら勝手に入っちゃ駄目だろ。


「オォーーーン!」


 塔の中心でシロが遠吠えをする。

 すると辺りの茂みから、ひょこひょこと何かが出てきた。


「ワンワンッ!」

「キャンキャン!」


 甲高い声を上げながらシロに駆け寄ってくるのは以前森で出会ったシロと同種、ベアウルフたちだ。

 シロより一回り小さいその姿はまるでミニシロである。

 俺とシロはあっという間にミニシロたちに囲まれてしまった


「あらあらあなたたち、どこへ行くのかしら?」


 それを追って現れたのはアリーゼ。しかもさらに小さなシロ――プチシロを数匹抱きかかえている。


「まぁロイド! また来てくれたのねっ! 姉さん嬉しいわぁーっ!」

「わぷっ!?」


 プチシロたちと一緒に抱きしめられ、ぎゅーっと締め付けられる。く、くるしい……。


「ワンッ!」「キャンッ!」


 しかもミニシロたちまで擦り寄ってくる。

 一体どうしたんだよこれは。


「ふふっ可愛いでしょう? この子たち、数日前に城に迷い込んできたのを私が保護したのよ。シロの知り合いだったようだし。ねー?」

「ワンワン!」「キャンキャン!」


 そうだそうだと言わんばかりに鳴き声を上げるミニ、プチシロたち。

 ていうかこいつらの言葉がわかるのかよ。アリーゼ恐るべし。


「はぁ、その会話力を私どもにも少しは割いてほしいものですが」

「あらエリス、私はこの子たち同様あなたやロイド、皆を分け隔てなく愛しているつもりですよ」

「獣も同格!? それ聞き捨てなりませんよアリーゼ様っ!」

「うふふっ」


 エリスと仲よさげに会話するアリーゼ。

 なんだかんだで仲良いな、この二人。


「どうやらこいつら、ロイド様を追ってきたようですぜ」


 そういえば以前別れを告げた時は子供がいたから森に残ってたんだっけか。

 俺が森を去る時、とても付いてきたそうだったな。

 で、結局子供と一緒にここまで来たわけか。


「ワンッ!」


 ミニシロたちが一度茂みに入り、何かを咥えて戻ってきた。

 俺の前にずらりと並べられた赤い石。

 これは……魔物の核だ。


「オンッ!」


 シロが俺を真っ直ぐ見て、吠える。


「持っていけと言っているようっすな」

「シロが俺をここへ連れてきたのはそういう理由だったのか」


 相当数の魔物の核、しかも魔剣製作にも使えそうな上質なものもいくつかある。

 材料集めからだともうやる気も起きなかったが……これならディアンに協力してもいいか。

 他の術式も色々と試してみたかったしな。


「よし、よくやったぞお前たち。また時々来るからな」

「ワンッ!」「キャンキャン!」


 ミニシロとプチシロを撫でると、自分も自分もと集まってきた。

 こらこら、順番だぞ。


「やはりあれはロイド様の呼び寄せた魔獣……はっ! ま、まさかこれからはロイド様とアリーゼ様、ダブルで魔獣が増えていくのではっ!? だとすると私の休暇は……そ、そんなぁ……」


 エリスが何かブツブツ言いながら崩れ落ちている。

 疲れているのだろうか。メイドって大変だな。

 そんな事を考えながら俺は塔を出るのだった。

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