No.084 豪華なタイザイ



「改めまして、アイン・マーシャル。またの名を北星渚、って言えばわかるかな? 先輩」

「はぁ?」


 そうか、そうか。

 まさかの北星渚だったのか。

 僕的には、日本で面倒な事をしてくれたり、家を燃やしたりと怨みがあるから、


覚悟しろよ・・・・・?」

「覚悟するのはそっちだよ、先輩。俺はね、君の弟のとおるって子に何度も殺されてんだ。逆怨みかもだけど生きて帰れると思うなよ?」


 逆怨みって自覚はあるのね。

 それなら止めてくれたら楽なんだけど、そうもいかないんだろうな。


「カズラさま。手伝いましょうか?」

「代わりに相手を」


 さっきまで傍観していたアーサーとメリダは代わるかと聞いてきたが、


「大丈夫だよ、2人とも。特等席で見てなよ」

「……話は済んだ?」

「待ってくれたんだ。案外律儀なんだね」


 転生して心が綺麗になったのかな?

 いや、それなら周りに被害は出さないよな。


「「宝玉の力よ」」


 持てる宝玉全てで相手を潰す。

 アイン改め渚は手に持つ赤い宝玉1つだけ。

 それに対し僕は緑色の宝玉と、茶色の宝玉と、桜色の宝玉と、黒色の宝玉。


「2人とも、隠す結界だけよろしく」


 一応、見られて後々面倒な事になるのはゴメンだから先に対処する。


「さぁ、やろ……う?」

「そ、そんなに持つなんてズルいぞ!」


 どうやら宝玉の数の違いで怒ってるらしい。

 怒ると血圧上がるらしいのに。


「ズルいもなにも僕が手に入れたんだから」

「お、俺なんて神に1つしか貰えなかったんだぞ!」

「いいじゃん、貰えるだけ。僕なんて自分で取りにいくんだから」


 低レベルな言い合い。

 煽りを入れるわけでもなく、ただただ無意味な言い合いが終わり、


「うぅぉぉぉぉぉお」


 宝玉の力なのか、渚はどんどんと大きく巨人になっていく。

 さて、何を使おうか。

 先ずは、


「傲慢。地形操作 落とし穴」


 闘技場の真ん中に落とし穴を作って落とす。

 まだ大きくなる途中だった事もあり、綺麗に落ちていく。

 落ちて、堕ちて、墜ちて、おちていく。

 が、穴の大きさに対して体が大きく止まってしまう。


「次、色欲。重力付加×1,000,000」


 適当に重力を強めて無理矢理穴の下に下に落としていく。

 それでも、流石に体の大きさ的に無理だったのか、少ししか落ちなかった。


「次、怠惰。世界樹よ、やれ」


 渚を囲む土や石、鉱石の間から世界樹の根が伸びて易々と貫いていく。

 手を、足を、頬を、膝を、肩を、死なない程度に貫いていく。


「ヴゥガガガガガガガァ」


 この世の物とは思えない悲鳴を上げて、結界を揺らしていく。

 最後はもちろん、


「暴食。魂は天に還るという理を喰らって地獄に落ちろ! それと、赤い宝玉は僕が大事に貰うから」


 自分から穴に落ちて、渚の顔の前でそう言う。


「じゃあ、黒鬼。陽法 新・黒の太刀 絶壊」


 顔を黒鬼で一振り。

 ガラスに罅が入るかのように、顔は崩れて、体は崩れて、手足は崩れて跡形も無く消えていく。

 影に呑まれて、影に喰われて消え失せた。


「おーわりっと。地形操作、元に」


 穴が直り直り直り地上へと出る。

 僕の手には赤色の宝玉が。


「憤怒」


 フワフワと浮かび上がり、5つ目の宝玉を手に入れた。

 どっちかと言ったら、透の持ってる青い宝玉が良かったな、強いから。


「お疲れさまです。カズラさま」

「カッコよかったです。最高でした、カズラさま」


 2人に手放しで喜ばれる。

 けど、これくらい別にいいし、僕的には宝玉を手に入れるという得しかなかったから。


「じゃあ、後はよろしく」


 そう言って結界を壊して観客席に移動する。


「お、おい。あそこにいるのは大聖剣さまじゃ」

「大賢者さまもいるわよ」

「お2人が倒してくださったのでは?」

「俺たちは死ななくてすむんだ」


 口々に勝算する声が上がる。

 2人には軽く怨まれるだろうな。

 ごめん!


「いいのですか?」

「なんで? 得体の知れない人よりは、国の英雄の方がいいでしょ」

「それもそうですね」

「で、その持ってる宝玉はどうしたの?」


 微力ながら感じる。

 さっきまでは感じなかった事から、どさくさに紛れて取ってきたのか、赤色の宝玉を手に入れた気がついたのか。


「な、なんの事ですか?」

「色は?」

「……」

「シャル。それは良い物じゃない」

「私には任務があるのです! そして、これは私の為でもあります」


 シャルが出したのは色の薄れた桜色の宝玉。

 けど、何も起きないって言うか、僕には効果がないと言った方が正しい。

 けど、


「これでいいのかな? ついてきて」

「わかった」


 棒読みで、目を虚ろにする。

 さながら廃人のフリをしてこの出所を探す。


「シャルさま、馬車の準備は出来ました」

「うん。ありがとう、チル」


 チルが闘技場の外で準備をしていたという事は関係があるのかな?


「シャルさま。浮かない顔ですが大丈夫ですか?」

「えぇ、大丈夫。ただ、カズラには申し訳ないな、と」

「シャルさまは気にする必要はありません。カズラは相当な手練れです。それが、操り人形になったのですから」


 疑わないんだね。

 まさか、効果をわかってなくって使ってるのかな?

 それにしては操り人形というまとをギリギリ掠める予想だし。

 シャルは最初に任務って言ってたから、王さましかシャルには命令を出来ないよね?

 まぁ、あの豪華絢爛な客間でも素っ気ないというか、どこか下に見る態度だったような感じはしたけど。


 馬車に揺られる事、数分。

 お城に到着して、シャルに手を引かれながら歩く。

 僕の見事な道化っプリにみんな騙されている。

 これは何ともいい気分だな。

 じゃないじゃない。


 ――――トントン


「入れ」


 そう声が聞こえるとチルが積極的に扉を開けてシャルが入る。

 もちろん僕も手を引かれながら入る。


「連れてきたか」

「はい。お父さま」

「では、なぜ心変わりしたか聞いても?」

「な、なぜそれを」


 どうやら最初はシャルが乗り気じゃなかったのか。

 なら、なんで心変わりしたんだ?


「心変わり、と言いますか、気持ちが動いたんです」

「そうか、わかった」


 えっと、今ので説明になってないよね?

 それで王さまはわかるの?

 僕にはさっぱりなんだけど。


「シャルは下がりなさい。あっ、宝玉は置いてな」

「はい」


 シャルは持っていた宝玉を机の上に置いて部屋を出る。

 残ったのはチルと王さま……チル!

 なんでチルが残ってるの?


「下がっていいよ」

「御意に」


 王さまはチルに言われて部屋をでる。

 で、残ったのはチルと。

 君が犯人だったのか。


「宝玉の力よ。命令、アーサーとメリダを殺せ」

「なんで?」


 今はチル以外、黒幕以外誰も部屋にいないから声を出す。


「なんで殺さないといけない?」

「チッ」

「結界陰法 音遮断」


 ――――ピーーーーー


 傭兵を呼ぶであろう笛を吹こうとしたので、咄嗟に結界を張る。

 これで、とりあえずは話せるな。


「まぁ、座って話そうよ」


 勝手に席につき、座るよう促す。


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