No.054 私のウラ



 私は八乙女やおとめ和紗かずさ

 本名はシィ・ユリエーエ。

 親の顔は知らないし、私にはいない。


 そんな私は吸血鬼として今も、これからも生きている。


 親と呼べる存在はいた。

 ロサイン・ルーラーという第二始祖で、私を性奴隷として扱おうとしていた。

 そう、まだ私は幼いからそうならずに済んだまでの事。


 そして私は1つの仕事を与えられた。

 第一始祖にして最強の吸血鬼を探す事。

 噂では国立ダンジョン専門高等学校に近しい者がいるので、私もそこに入学することになった。


 そして、最初にその子に会った時、仲間にしようと思った。

 だけど、それは叶わない。

 相手は強く、更には私に付けられた首輪の1つを外してくれた。


 喜びのあまり私はその子を押し倒したのを覚えている。

 それを見た宮内先生は何を勘違いしたのか、私をその子の部屋に行けるようにしてくれた。

 それから色々な、特に相手を落とす為の知識をくれた。


 それから私は葛くんといるのが楽しかった。

 楽しかったし、一緒にいるのが当たり前になっていった。

 そして、本当に第一始祖と繋がっていた。

 その情報を私は流すだけで手伝うことはしなかった、したくなかった。


 それから私は葛くんが『好き』になったのだろう。

 近くにいるのは当たり前で、優しく、それでいて可愛い。

 本当に成長しないからそろそろ私より背が低くなるだろう、可愛い。



 そして、今。


 ユリエーエにある貴族たちが住まう貴族街。

 そこのとある屋敷に集まる血に餓えし者たち。  葛くんが自由行動という形にしてくれたおかげでここに来ることが出来た。


「ほぉ、ほぉ。よく来たな、シィよ」

「おひさしぶりです」


 目の前にいる油でギトギトな顔をした、間違えた。

 顔はつやつやしてい、横にブヨブヨと肥った豚男、間違えた。

 第二始祖である吸血鬼だ。


「ほぉ。これはまた美しくなったな。それにしても、お前の情報には感謝している。ほぉ。だが成果が出なくて悪いな」

「い、いえ。お気になさらず」

「ほぉ、ほぉ。そうえいば、この町にアヤツが来てるそうだな」


 アヤツって言い方は凄い適当だな。

 葛くんは可愛くってかっこいいのに。


「はい、鬼灯も一緒に来ています」

「そうか、そうか。ほぉ。アヤツを倒せば我々の未来は明るくなる」

「……」

「そこでシィにはアヤツを武道大会に参加させてほしい。ほぉ。そうすればあの憎きババアを殺せるのだから。ほぉ」


 第一始祖であるドリーさまもいい人なのに。

 それにしても、何か武道大会で倒せる策とかあるのかな?

 もしかして、葛くんがレベルSダンジョンをクリアして更に可愛く強くかっこよくなったの知らないのかな?


「そうだ、シィよ。今夜は泊まって行かぬか? 楽しいぞ」

「鬼灯がここに来てしまいます」


 絶対、葛くんは心配して来てくれるだろう。

 私にとっては好都合、かな?


「それでは失礼します」


 豚男は女性を呼び出し私に声が聞こえるように如何わしい事を始める。

 私はその屋敷を後にする。

 絶対、絶対助けないと。



 *



 和紗はなんか用事? があったらしく久しぶりに1人で町を歩いている。

 そういえば、最近はずっと和紗と一緒にいた気がする。

 まぁ、一緒にいて楽しいから苦じゃないけど。


「さて、流石に制服のままはな」


 僕の服装は基本制服だ。

 いや、私服は中学以来着てないし、持ってない。

 この制服のスペックが高すぎるのが原因だ。

 なので、この町で新しい服を作ろうと思っている。

 まぁ、作るなら貴族街で作った方がいいよな。


「ここから先は貴族街だ。通行料を支払え」

「わかりました」


 僕はダンジョンカードで支払いを済ませる。

 通行料が100,000円って結構な額だよな、僕の財布は痛くないけど。


「さて、こっからいい服屋を探さないと」

「あっら!」


 凄い嫌な寒気がする。


「また会ったわね、いいお・と・こ」


 「キャピン♪」と効果音が付きそうなセリフ。

 僕は後ろを向かなくても、誰がいるか当てられる。

 あの魔石屋の変態おじさんだ。


「お、お久しぶりです」

「あっら、もう。昨日ぶりじゃないの。もしかして覚えててくれた? おじさん嬉しすぎて嬉ションしちゃうわ」

「それはマジで勘弁してください」


 変態おじさんの嬉ションなんて誰得だよ。

 間違えなく僕には得じゃない。


「あれ? 今日は普通の服なんですね」


 魔石屋の時のピッチピチの洋服にヒラヒラのスカート、髪は短いおさげではなかった。

 普通にヨーロッパ(ナーロッパ)の偉い人って感じの服に髪は下ろしたストレート。

 こうすると、至って普通のダンディーなおじさんだ。

 そうだ、


「この辺でいい服屋ってありますか?」

「いい場所があるの。紹介したげる」


 僕は後悔した。

 おじさんに教えてもらうお店なのだからオネエな店員がいるお店だろう。


 現実は「最高」の一言。

 至って普通で、店員も普通、普通が1番。

 普通ってなんだろうね?


「それではオーダーメイドになります」

「わかりました。それでお願いします」

「そうなりますと、材料をご提示させていただきます」


 材料は各自で揃える必要があると。

 1つ、ミスリルで出来た糸。

 1つ、幻獣種でもあるドラゴンの逆鱗。

 1つ、肉食獣の毛皮。

 1つ、ブラットパンサーの牙。

 以上この4つが必要な材料らしい。

 基本、ユリエーエのレベルSダンジョンで手に入るので心配いらないそうだ。


「変態おじさん、ってアレ? いなくなってる」


 お礼を言おうと思ったのにいつの間にかいなくなってた。



 服屋で、色々なやりとりを終えて宿泊場所へ帰る途中、


「葛くん!」

「和紗っ、グヘッ」


 なぜか思いっきり抱き付いてきた和紗に押し倒されて僕は地面に倒れる。

 

「どうしたの? 和紗」

「ううん。何でもない」


 「何でもない」と言いながらも、いつもよりニコニコしていて、スキンシップも多い。

 手はいつもと同じ恋人繋ぎだけど腕を絡めてきて、どことは言わないが至福の一時だ。

 どことは言わないが。


 そのまま和紗と宿泊場所である「ブタのシッポ」に到着した。

 1階は酒場になっていて結構な賑わいをみせていた。

 まぁ、半数以上の客の目当てが看板娘であるメリルという小柄でどことは言わないが大きめの少女。


「和紗、ここで夜いい?」

「うん、いいよ」


 僕は和紗と「ブタのシッポ」に入る。

 丁度よく席が空いていたので座り注文をする。


「僕は今日のオススメ定食で」

「私もそれで」


「かしこまりました」


 今日のオススメ定食は何か書いてないので来てからのお楽しみってやつだ。


 数分して2人前の今日のオススメが運ばれてくる。

 今日のオススメ定食はよくわからない白身魚のフライにサラダ、ご飯、よくわからないお肉のシチューだ。

 よくわからないと言うのは、魔物の肉らしく、知りたくないからよくわからないと濁している。

 まぁ、それも意味無いんだけどね。


「この黒魚こくぎょのフライうんめぇー」

「レッドバイソンシチュー最高だわー」


 客たちが大声で感想を言っているので聞こえてしまう。

 何となく、黒魚は関わらない方がいい気がする。


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