3章 独裁者編

No.052 吸血鬼のシゴト



 最後の仕事。

 それは僕がやりたいからやることでもある。


「やぁ、来てくれて良かったよ。準備はしてきたかな? まぁ無駄な抵抗だけど」

「もちろん。でもその前に渡したい物がある」


 僕は今ダン高の大修練場にいる。

 そして目の前にいるのはもちろんげん理事長であり、1年A組の1番でもあり、僕に喧嘩を売ってきた北星ほくせいなぎさだ。


「これは?」

「見ればわかると思うよ」


 僕はとある紙を渡す。

 と言ってもただの紙な訳ではない。

 ダンジョンクリアと書かれた証明書だ。


「な、こ、これは本当なのか?」

「もちろんだよ。じゃあ始め――――」

「――――先にダンジョンクリア報酬を提出してもらおうか」

「?」

「わからないと思うから言わせてもらうと、多分君がダンジョンに潜っている間に法律は大きく変わったんだよ。ダンジョンクリア報酬は全て北星家に見せなくてはいけないの。そして目ぼしい物があったらあげなければならないという風にね」


 横暴だ、こんな事になっていたのかよ。

 でも、クリア報酬だけなら途中階層で手に入れた武器とかは許されるのか


「その手についてるやつは報酬の1つだろ?」


 北星が指さすのは氷狼の籠手、これは途中階層だから報酬には入らない。


「残念だけど、これは違うよ。その代わり、はい」


 魔法収納袋からクリア報酬だけを出す。

 その数々の代物はどれも強く、他のダンジョンのクリア報酬が霞むほどの物ばかり。

 それを目にした北星はもちろん、


「おい、全部持っていけ。あれだけあれば結構だ。いや、おい! その魔法収納袋もくれ」

「なんで。これはクリア報酬じゃない」

「はぁ、法律を変えよう。北星家の命令は絶対。ついでにその籠手もだ」

「宝玉の力よ」

「な、なにをした!」


 一瞬にして暗闇に包まれた会場、もう戦いはいいから逃げるべきだよな。


「黒夜叉。陽法 新・黒の太刀 絶壊ぜっかい。ここに僕と和紗という存在はいなかった。それと、それとお母さんとお父さんの子供はとおるだけ、弟だけ」


 僕はその場で黒夜叉を振るう。

 涙が流れるが後戻りは出来ない。

 遅かれ早かれ寿命の差で僕は1人になるのだから。


 刀を振るう、それだけで何かが壊れた。

 大事な大事な何かが。



 僕は急いで教室に戻る。

 教室で和紗に待っててもらってるからだ。


「和紗ッ」


 僕の首もとには短刀が刺さっている。

 否、当てられていると言った方が正しいか。

 だって、僕の防御力で攻撃が通ってないんだもん。


「な、なんだ。葛なのか」

「えっ、文鷹? てか僕がわかるの?」

「気配が違ったか間違えたからな」


 いやいやいや、僕は僕という存在をいなかった事にしたのに。

 あれ? 南条とクリス以外のA組の生徒がいるんだけど。

 しかも僕の事を見ても誰?って顔をしないし、女子は和紗となんか楽しそうに話しているし。


「えっと、どういう事?」

「八乙女がこの国を出ると言っていたから俺たちも連れてってもらおうと思っただけだ。レベルSのダンジョンをクリアした人が一緒なら安全だろ? それにこの国はくるっている」

「それはそうだけど、もしバレたら家族が危ないよ?」


 みんな大丈夫という事だった。


 まずは一松いちまつ文鷹ふみたか

 家族はとっくのとうに殺されたらしい、ヤクザって大変だね。


 次に浅間あさま義宗よしむね

 家族はまぁどうにかなるでしょって言ってた。

 なんでも今はハワイに旅行中らしい。

 そしてそのままハワイに住んでもらうって言ってる。


 次にエリー・L・トワイライト。

 エルフのハーフで、親はエルフの大陸、グロンダントにいるから問題ないと。

 始めて喋ったかも。


 次に石上いしがみドーラ。

 こちらもドワーフのハーフで、親はドワーフの大陸、エクスターチにいるから問題ないと。

 これらも始めて喋ったかも。


 次にペトラ・ンラ。

 獣族の王族だから家族はもちろん獣族が住む大陸、ギャンにいるから問題ないと。


 最後に宮野みやのさくら

 家族は日本に住んでるけど、子供の時からあまり可愛がられなかったらしい。

 それで、家族には一切の未練がないらしい。

 けど、お世話係りの斉藤さんは連れてってほしいと。

 そのくらいは問題ないので解決。


 この、僕とセバスたちを含めて12人で他の大陸に逃げることになった。



 ※



 船、それはセバスが用意しといてくれた結構いいやつ。

 船には20ものカプセル部屋があり、設備もそれなりにいい。

 寝心地は保障出来ないけど。


 それで今、僕の目の前には正座をした1人の女性が、


「ココナ先生。なんで先生がこんな所にいるんですか?」

「それはさっきから言ってるじゃないですか。生徒が実習するならついていくべきだからついてきたと」


 さっきからこの調子で一向に進まない。

 てか、実習とか言ってるけど矛盾があるのに気がついてないのかな?


「A組の生徒は全員いませんよ? クリスと南条が」

「えっ、えー。そうだったの? 知らなかったー(棒)」

「はぁー。本当の事を言ってください。そうしないと海の生物の餌にしてしまうかもしれません」

「えっ、えー! それは……あそこには、日本にはいたくないと思ったのでついて来ちゃいました」

「ならココナ先生は鈴華をつけるのでお願いします」

「あ、ありがとー、鬼灯くん」


 はぁ、僕って相当あまいのかな?

 いや、そんな事はないだろう。

 だって僕はテラを殺したし?

 そもそも吸血鬼になったばっかで力試ししちゃったからね。



 船で移動すること1時間。


「みんなに集まってもらったのはどこの大陸に行くか決めようと思って。ココナ先生、お願いします」

「えっ、えー! わ、私ですか?」

「なにか問題でも? 実習するからって事でついてきたんですもんね?」


 僕は出せる限りの最大級のスマイルで先生に丸投げする。

 否、適材適所だ。

 ココナ先生は顔がひきつってたけど気にしない。


「えー、鬼灯くんからお願いされたので司会します。みんなはどこの大陸に行きたいとか、どこのダンジョンに潜りたいとかある?」


 そんなこんなで話を進めていく。

 みんなはあまりどこに行きたいと言ってこない。

 どうも、僕に遠慮している感じがする。


「石上さん、エクスターチってどんな所?」

「え、えっと。電車が日本よりも早い。ビルも高い。ロボットいっぱい」


 なんか抽象的だな。

 でも行ってみればわかるか。


「エリーさん、グロンダントってどんな所?」

「グロンダントは森よ。それはもう樹海と言ってもいいくらい面倒な森よ」


 も、森かぁ。

 あんまり行きたいとは思えないな。


「ペトラ、さん? えっと、ギャンってどんな所?」

「えっとね、川があって山があって綺麗な所。ご飯も美味しいし、みんな優しい」


 あっ、猫耳がピクピク動いて可愛い。

 じゃなくて、ギャンも良さそうだな。


 天神族のサルバンは絶対に嫌だしな。

 やっぱり慣れない土地は嫌だからか、


「圧倒的に票が多かったユリエーエかな」


 一応投票した結果、人間の大陸、ユリエーエに行くことになった。

 でも、ドワーフのエクスターチも気になるし、獣族のギャンも気になるんだよなー。

 よし、ユリエーエが終わったらギャンから行こう。

 1番近いし、獣耳パラダイスだー。


「ん? どうしたの、和紗」


 和紗はジーーッとこっちを見て言葉を発しない。

 何がしたいんだろう?


「どうしたの、和紗?」


 少し間を開けてから和紗が答える。


「ユリエーエにはあんまり行きたくなかったから」


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