No.037 虚ろなるモノ


 伏見稲荷大社横 ダンジョン



 ~~47階層~~


 これで4人が鳥居の外にいざなわれてった。


「こ、来ないで」

「い、嫌。嫌だ」


 次の被害者と呼ぶべきか、外側に誘われた者は双子の大星姉妹。

 ここはこのペアでよかっただろうか。

 体の自由が戻る頃には2人はいなくなっていた。

 そして次はすぐにやって来た。


「いや、来ないで。ごめんなさい。ごめんなさい」


 和紗は急に怯えだし足を後退させていく。

 そして、


「動けるのは僕なのか」


 テラは追えるようだ。

 けど、


「うご、け」


 無理矢理動かそうとしたが中々動かず、動いた時には和紗とテラは消えていた。

 次は誰か、みんながそう警戒し始める。


 残っているのは……僕だけ?


 周りは暗闇でなにも見えない。


「炎よ」


 魔法は使えるようで、気絶しているとか、精神世界とかそういうのじゃないようで安心した。

 いや、どう考えても安心なんて出来ない。

 まずなんで僕だけ1人なの?

 そもそもここはどこだ?


「黒夜叉。陽法 翠の太刀 飛雲」


 斬撃を飛ばすがどこかに当たる音も何かが壊れる音も聞こえない。


「混沌陰法 百鬼火ひゃっきび


 青白い炎が辺りに100個ほど浮かび上がる。

 照らしてみても奥は見えず地面は真っ黒。

 特になにもない虚無の空間。

 まさに『虚空きょくう』。



 動くのは危険だと考えた僕はここにずっと居座って約2時間くらい。

 特に変化は訪れず無駄に時間だけが過ぎていった。


「予知眼」


 使ってみるがもちろんなにも起こらない。

 ただ同じ風景が続くだけ。


「魔力眼」


 魔力の流れなども特におかしくはなく極々一般的。

 なにか挙げるとするなら普通より魔力が濃いぐらいか。


乱魔らんま


 魔力がどんどんと乱されていき視界が一瞬ぶれた。

 そのまま魔力はどんどんと暴れていき、


パリーーンッ!


 何かが割れた音と同時に暗闇は一瞬にして消えて現れたのは、


「ただのもや?」


 目の前には人形ひとがたの靄がある。

 そして眼は物凄いチカチカして気持ち悪くなってくる。


「何がどうあれ、あの靄がこの階層のボスだろう。黒夜叉」


 動く気配がないから攻撃しちゃっていいんだよね?


「陽法 翠の太刀 飛雲」


 様子見のつもりで、一撃で倒すつもりで斬撃を放ったのだが、


「効いて、ない?」


 靄は形を変えずにそこにいるままだ。

 そこに存在はしている。

 しているけど触ることも、攻撃をするとこも出来ない。


「虚ろナル者」

「テラ?」

「そうだよ、僕だよ」


 いつのまにか僕の後ろにはテラが来ていた。

 テラはいるけど和紗がいない?


「和紗なら大丈夫だよ。て言うかついて行ったのに気がついたら1人だったんだよ」

「そ、そうか。ありがと。それと虚ろナル者ってなに?」

「虚ろナル者、それがこの階層のボスであり、あれの正体だよ。実体がなく倒すには聖属性とか、後は塩が必要だよ。簡単に言うと無害な幽霊」 

「なら塩を取りに帰れば」

「ここはボス部屋の中だから出ることは出来ない。でも聖属性なら使えるじゃん」


 使えはする、けど効くかと言われたら効かない可能性の方が高そうだ。

 一応、


「混沌陰法 碧炎」


 虚ろナル者にみどり色の炎で燃やしてみるが一切の効果がなかった。

 次だ。


「混沌陰法 十字葬炎そうえん


 本には幽霊系に効くと書いてあったから使ってみる。

 炎は十字に飛んでいきそのまま虚ろナル者をスルー。

 結果として倒せていない。


「吸血鬼なんだ」

「あっ、えっと」


 なんでわかるんだ?

 虚ろナル者を倒せば和紗を助けられると考えていたから油断して普通の声で使ってた。


「どうやら魔法じゃないらしいし、神法でもない」

「神法?」

「僕たち神の使徒が使う魔法の上位互換のこと。それとも違うから。それに見たことある」

「教えなくてもいいよね」


 て言うか教えたくない。

 そもそもテラは信用できないような、信用してはいけないような感じがしている。

 そもそもあんなに人を簡単に殺す……なんて。

 僕も吸血鬼を何体か殺してた。


「まぁいっか。宝具 罪人のつるぎ


 テラは武器を出して一歩ずつ虚ろナル者に近づいていく。

 そして、


 「ゆっくりとお休み」


 なにかを言っていたが僕には聞き取れなかった。

 そして虚ろナル者、そう呼ばれていた魔物は塵のように消えてなくなって、残ったのは魔石だけ。

 灰色の少し薄気味悪い魔石。


「はい、終わったよ」

「よくわかんなかったけど凄いんだね」


 テラは虚ろナル者を倒してしまった。

 対人戦が得意で魔物は苦手だったって話なのに。

 天神族が凄いのか、テラが特別なのか。

 ふと、後ろから淡い光が届いた気がして振り向いてみると、


「和紗!」


 横たわる和紗、それだけじゃなく横たわる他のみんなの姿がある。

 よかった、皆は一応無事だったのか。


 1人、また1人と意識を回復させていく。

 少しの内に全員目が覚めて何があったかを覚えていないらしい。



 ※



 48階層に行かずに1回戻ることになった。

 皆が倒れてしまった事が1つと、敵が、ボスの虚ろナル者が強すぎたのが1つの計2つが理由となる。

 ここで僕たちがしなくては行けないのはレベルアップ。

 それと回復魔法を覚えること。

 レベルアップしないと敵にも勝てないし、回復魔法が使えないと怪我をした時に大変困る事になりかねない。


 その為に各自で回復魔法の練習をしている。

 回復魔法は、否、魔法は練習すれば魔法行使力が上がるから、使おうとする意思が大事だ。

 もちろん僕も練習中である。

 だって使えるのは陰法によるものだから、魔法として使えないと意味がない。

 回復魔法の練習はどうやるか、様々な方法があるけど僕は自分を傷つけて治すということが出来ない。

 だから、植物に使うという練習方法をとっている。


「回復魔法」 


 約1時間の回復魔法練習。

 空気中の魔力が足りなくなったら魔石を砕いて魔力を補充して回復魔法を使いと繰り返す。

 それで、どうにか形にすることは出来た。

 折れた木の枝を修復し元に戻す。

 これを繰り返して完璧に出来るようにするのだ。



 ※



 1週間という時間が経過したころ、やっと全員回復魔法とレベル上げ(少し)を終えた。

 もちろん抜けていた姫山と南条も使える状態に完成させたらしい。

 姫山は親が凄いだけあって習得は早かったらしい。

 南条はお金の力かな、財閥令嬢だし。


 そんな訳で本当の意味の全員が揃ったのだ。



 ~~50階層~~


 48階層、49階層は1週間の内にクリアされてしまった。

 ならこの50階層は? って思う人もいるかもしれない。

 ここのボスが強く被害が相当な数らしい。

 確か……15人。

 5人チームが3つのレイドで挑んだ結果負けて全滅=死ということだ。

 

 そしてそのボスと言うのが、


ぬえってやつか」


 日本古来の妖怪で見た目が、猿の顔、狸の胴体、虎の手足を持ち、尾は蛇となっている。

 尻尾の蛇はそれ自体に意思があるようでいやらしい動きをしてくる。

 体調は大きな車くらいで無駄にすばやい。

 これなら強いというのが納得のレベルだ。

 が、ここにいるのは何処かしら尖っている人ばかり。

 結果は勝利で最後の一撃はなんと姫山が決めたのは正直驚きだった。


 本当の意味の全員で、19人でクリアとなる。

 えっ、京ダン高の9位がいないだろって?

 あー、その事か……それを知るには少し遡る必要があるかな。

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