No.035 頂戴、そのヒトミ



「治せる、のか?」

「治せるけど治す気はありませんよ?」


 少し怖いけど平常心で言葉を繋ぐ。


「なぜだ、なぜ快斗がこんなになっているのに治さない」


 胸ぐらを掴まれ持ち上げられて苦しいがなんとか答える。


「理由はいくつかあるけどまず放してください」

「あ、あぁ。わかった」

「理由その1。治さないでいい、僕に治されたくないと彼が言ったからです」

「そんなの関係ない。俺が治せと言ってるんだから治せばいいんだよ」


 覇気が違って物凄い怖い。

 ダンジョンクリア者1位の名は伊達じゃないらしい。


「り、理由その2。彼はダンジョンクリアの虚偽報告をしていました。その被害者です」

「お前か、お前が俺を牢屋に入れたのは。そのせいでこっちは予定が狂いに狂いまくったんだー」

「黒夜叉」


 どうにか寸の所で十蔵さんのパンチを刀で受けれた。

 腕は痺れて追い討ちをされたら……亜衣さんが抑えてくれたおかげで追い討ちは来なかった。


「それでも治してくれないの?」

「はい」

「なら無理矢理言うことを聞かせるしかないみたいね」


 亜衣さんは優しい口調で、それでいて威圧的に話しかけてくる。

 てか無理矢理ってそんな魔法を使う気なのか。


「あれ? 発動しない」


 使おうとしていた魔法が発動しないらしい。

 まぁそりゃそうだろ、さっき回復魔法を使いまくったから魔力が枯渇しているもん。

 そのおかげで命拾いしたのか。


「そしたら先生、ここに警察とかが使うマジックミラーの部屋ってありますか? そこに快斗を運んでください。そして誰も入らずに見ててくださいね」

「わ、わかりました」


 マジックミラーの部屋が本当にあったとは。

 その後聞いた話によるとそこでは魔物を調教しているらしい。


「回復陰法 デス・ヒール」


 もちろん痛みを伴う回復を選んで回復してあげる。

 声にならない声をあげて、苦しみだす快斗。

 すると、


「貴様ー、快斗に何をしたー」

「僕は痛みを伴う特殊な回復しか出来ないんです」

「チッ」


 胸ぐらを掴まれ持ち上げられていたが僕の言葉を聞いて安心したのか壁に投げつけられた。

 痛くないし怪我もしてないけど流石にイラッとはくる。

 否、イラッとしかこない。


「そういう態度でいいんですか? 今現状僕しか治せないのに」

「だ、だからなんだ。ここで今お前を殺せば問題ない!」


 突きや蹴りを避けたり受けたりしてどうにかやり過ごす。

 そっちが保護者なら僕も強い保護者を呼んじゃうぞ。


「卑怯じゃないなですか? そっちは大人で僕は子供」

「なら親でも呼ぶか? まぁ俺よりも強いやつなんて早々いないね」

「なら呼ばせてもらいます」

「させるか」

「黒夜叉。陽法 黒の太刀 断絶」


 斬るつもりだったのだが、思いの外十蔵さんの腕は硬く斬れることはなかった。


「マジかよ。コアルさーん」

「叫んだって来るわけないだろ!」


「なんでしょうか。鬼灯さん」


 気かつくと十蔵さんは組伏せられていて首にはコアルさんの武器が押し当てられている。

 てか呼んだら来てくれるって凄すぎないかい?


「こ、コアルさん。そっちの部屋に連れてって」

「わかりました」

「そのまま拘束しといてよ。僕が大丈夫って言うまで。お願い」

「わかりました」


 そう言って本当に拘束したまま十蔵さんを連れていったコアルさん。

 強すぎるなんてものじゃない。

 僕はまだコアルさんの足下にすら及んでいないな。



 それから1時間、痛みが消えて目の覚めた快斗は。


「なんでお前がいるんだよ」

「覚えてないの?」

「いや、思い出したよ。だが治したのが運の尽きだったな。別にお前には治されたくなかったけど流石にもう傷だらけに戻せないだろ?」

「混沌陰法 回復解除」

「グガハッ」


 姫山はもう1度血を吐いて地面に倒れた。


「コアルさん、連れてきてください」

「なぜ、なぜ治したのに元に戻した」

「見たでしょ? 彼が治されたくなかったって言ったの」

「お願いします。お金でもなんでもあげますから」

「さっきは無理矢理言うことを聞かせようとしてたのに?」

「そ、それは」


 よし、欲しいものは何かないかと考えていたがいいものを思いついた。


「白銀林檎」

「は?」「えっ?」

「白銀林檎で手を打ちましょう。多分この世で治せるのって僕以外に近くはいないと思うよ?」

「白銀林檎みたいなのでいいのか?」

「あんな不味い物を?」


 あれ?

 思ってた反応と違うな。


「待ってくれ。家にストックが2個あるからとってくる。だから、だから治してくれ」

「あ、うん。わかった」


 その後僕は姫山を治してあげてから、白銀林檎を受け取り自室に、寮の部屋に戻っていった。


「まさか貰えるとは」


 それも2個も貰えるなんて考えてなかった。

 それにしても白銀林檎が不味いって言ってたけど美味しいよな。

 甘くてなんとも言えない美味しさ。


「ウグッ」


 すると急に視界がボヤけはじめて焦点が定まらない。

 ダンジョンカードを見てみてもわかるわけではない……魔法行使力が上がっている。

 それよりもこれはどんな効果がある眼なんだろうか?

 鏡を見てみると左眼は蒼く綺麗な瞳だ。

 右目は紅く、左目は蒼く、オッドアイ……かっこいい。

 でも効果がわからないのが辛いな。


「よし、もう1個」


 やっぱり美味しくいただけた。

 左手に変な症状が現れた。

 と、言うのも魔力眼で左手を見ると魔力が乱されていて左手では一切魔法を使うことが出来ない。

 それどころか、右手で魔法を使いながら左手を近づけると魔法が発動しなくなる。

 魔法封じの左手、いやカッコ悪い。

 乱魔……魔法を乱すから乱魔。

 うん、悪くないな、そうしよう。



 ※



 日が昇り朝がやって来た。

 昨日の蒼い眼は抑える事が出来たけど、如何せん能力がわからない。

 それと、理事長に白銀林檎の事を聞いたら相性の問題もあるらしい。

 合わない人には不味く、合う人には美味しく感じる、そして能力もつく。

 相性が良くて本当にラッキーだ。



 ところ変わって伏見稲荷大社横 ダンジョン。



 ~~45階層~~


 昨日の内に姫山の親が気晴らしにダンジョンに潜りここまで進めたらしい。

 てか、武器が無くなったのには気がついているのかな?

 僕が決闘で意図的に壊したやつ。


 まぁ、そんなことは置いといてボス部屋の前に到着だ。


「よし、今日もみんなで雪崩れ込むぞ!」

「「おーー!!」」


 もう勢いだけで行っていると言っても過言ではない。

 てか、ダン高の個々の能力が高く、京ダン高の連係力の良さが合わさってここまで来れたと思う。


「また見学だね」

「鬼灯さんは人に合わせようとしないからだと思いますよ?」

「僕もそう思ってる。テラは対人戦だけって……なんでダン高との決闘で出なかったの?」

「1番つよーい人が出なかったから、それで何者? 人外」

「なんど聞いても言わないよ?」

「ふーーん、まぁいいけど」


 ふと、和紗の方を見てみるとボスに、殺人ベアーの魔の手が迫っていた。


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