第76話 昴と同じ境遇の女の子、赤沢菫。

とある日、昴のいる会社は大勢の女の子で

いっぱいだ。この日は一次オーディション

を通過した子達の二次オーディションに

なっている。

今日だけでなく、一週間程続く。こんな

大規模なオーディションはテレビで

くらいしかない。一応、昴が公開宣言は

したが、それだけで何万も集まったので

ニュースにもなっていた。


スタジオには会社のプロデューサーや

安部達、そして昴もいる。やってきた

女の子達はそれだけで緊張し、実力が

出せていなかった。夜になり、この日

のオーディションは終了したが、昴達

はそのまま会社に残り、今日の中から

候補生を厳選していく。


「昴君、良い子達いた?」

「あまりいないな。ここでちゃんと歌え

ないなら、表で歌うなんてできないからな」

「そうだね。昴君ぐらい度胸がある子は

そういないもんね」

「俺と同じ奴がいるわけないだろう」

「だよね。女の子だし」


そう、言った次の日、昴程ではないかも

しれないが力強く歌女の子が現れた。

その女の子は赤い髪だが、可愛い服を

着ていて、スレンダーな体からは

想像できない程の声量を出していた。


「この子、すごいわ」

「まぁそうだな」


歌い終わった彼女と話し合う。


「赤沢菫『あかざわすみれ』さん!すごか

ったわよ」

「どうも」

「曲はロック系見たいだけど、アイドルは

ダンス系になるけどそっちは」

「問題ありません。ただ」

「ただ」

「笑ったりするのは難しいかも知れません」

「どうして?」

「それは」

「話さなくていいさ」

「昴君」

「クールなアイドルがいてもいいと思うぜ!他のアイドルとかぶらないしな」

「そうかもしれないけど」

「赤沢菫、後で連絡するがいいか?」

「ええ。大丈夫よ」


そうして菫は帰り、この日のオーディション

も終了した。安部は帰りに昴に菫の事を

聞いた。


「昴君、あの子の事なんだけど」

「赤沢菫か」

「うん。何かおかしかったよね」

「ああ。あいつは恐らく、俺と同じだ」

「昴君と!?」

「形は違うだろうが、俺と同じ感じがした。同情で決めはしないが、歌唱力は問題

ないからな。できるなら他には渡さない

方がいい」

「そうだね。じゃあお願いね」


昴はすぐにわかった。彼女がもしかしたら

自分と同じ境遇の奴かも知れないと。

それから、休日に彼女に連絡し合う事に

した。合う場所は昴が通っていた高校で

菫はなんとその学校に通う後輩だった。

日曜日なので教室には誰もいないので

昴は変装しないでいられた。昴が先に

来ていて、自分が座っていた席で懐か

しがっていると、教室のドアが開いた。


「おはようございます」

「ああ。制服で来たのか。懐かしいな」

「まさか、あなたがうちの学校にいた

なんて」

「知らなかったのか。体育館や音楽室に

写真があるみたいだがな」

「ごめんなさい。私、自分以外の人に

興味はないの。自分が好きなのは歌だけ」

「わかってる。お前、家族は?」

「!?いないわ」

「本当はいるだろ?自分からしたらいない

みたいなもんだろうがな」

「もしかして、調べた?」

「いや、俺もあんたと同じだからな」

「同じ?」


昴は自分の事を話した。菫は顔には出さないが驚いていた。


「まさか、私よりつらい人がいるなんて」

「この世界は不平等だ。生まれた時から

人生は決まっている。でもな、変えようと

思えば変えられる。お前もそうしたくて

歌ってるんじゃないのか?」

「そうね。でも、私はこのままでいいわ!

その方が歌に力を入れられるから」

「それじゃ通じないぞ。アイドルにせよ

歌手にせよ、相手に伝えないと売れない!

ま、俺も最初は同じだったけどな」

「・・・先輩」


先に菫が帰った。彼女も両親に捨てられ

好きだった姉とも引き離され、人を

信じれなくなった。でも、姉が好きだった

歌でプロになれば姉が会いに来てくれる

と思いプロを目指していた。昴は菫を

そのままにはしていられないので彼女を

合格させる事にした。そして、彼女を

救う事にもした。

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